Gate of World―開拓地物語―

三浦常春

文字の大きさ
58 / 62
6話 ようこそ、Goワールドへ!

58話 俺の村

しおりを挟む
 村へ戻るなり、俺は熱烈な歓迎を受けた。

 ナビ子は突進し、アランは首をしっかり押さえ込み、ルシンダは穏やかに笑む。

 発展した一一七番植民地、もとい「カップランド」もよいが、自分の村が最も落ち着く。

 家はたったの二件、畑は数面。住民は片手で足る程の人数。小規模だが、忘れられた国よりもずっと愛着がある。

 今こそカップランドは私有地も同然だが、あちらに入り浸るつもりはない。何よりも俺の村を最優先に、しかしかつての村長より引き継いだ歴史を潰えてしまわないよう、今後は気を配る必要がある。

 カップランドで何があったのか、今後どのように付き合っていくのか。村へ戻った日――入植から十五日目の夕方は、全て説明に費やした。

「簡単に言うと、村長がいなくなったから、新しい村長を求めた。――そんな感じかしらね」

 黄昏時の屋外、《平焼きパン》を焼きながら、ルシンダは言う。村人ならば、その認識でよいだろう。

 俺は頷いて、

「でも、あちらのナビ子さんも苦渋の決断だったと思うんです。だから、あまり責めないでほしい……なぁって」

 カップランドのナビ子とて苦悩しただろう。

 システムの申し子であると同時に、村人に近い立ち位置である。情が移らない筈がない。俺のナビ子が設定の変更という形で、俺や村人を守ろうとしたように、彼女等も時には無茶をする。

 向こうのナビ子は、決して無罪ではない。しかしかと言って、俺には裁くことが出来なかった。

 俺が彼女の立場だったらどうするか。どれだけ思考を巡らせても、行き付く先は同じだったのだ。どれだけ取り繕っても、執着は隠せない。俺も、一人の人間だ。

「自分勝手ね。まあ、村長がいいなら、これ以上言及はしないわ。で、向こうの村……カップランド、だったかしら。そこが村長の統治下に入ったということは、搾取も出来るようになるのね」

「搾取って」

 俺は思わず苦笑をする。

 ルシンダには、俺がそのように見えているのだろうか。全くもって身に覚えのない偏見である。

「いずれは交易もしたいと思っています。しかし、この村で出来ることはしたいので、向こうに頼り切りの生活にするつもりはありません」

 チ、と舌打ちが二つ聞こえて来る。

 ルシンダとアラン――役職『ニート』になることを望んで入植してきた彼等は、まだ諦めていなかったらしい。ここよりもずっと発展したカップランドの支援を受けられるとなれば、自分達は働く必要がなくなる、そう期待していたのだろう。

 残念ながら、楽をさせるつもりはない。

 俺はこのゲームを始めたばかりだ。それなのに、食糧生産から資材の調達まで向こう頼りになってしまっては、楽しみがなくなってしまう。

 余所は余所、うちはうち。その精神で、今後も運営していくつもりだ。

「向こうから人を連れて来ることもしないのか?」

 アランが尋ねてくる。それは考えていなかった。俺は頭を巡らせる。

「カップランドの住民にはカップランドでの生活がありますし、それはいかがなものかと……。志願者がいれば話は別ですが」

「マジか。『農民』と『調理師』の採用頼むわ」

「『調理師』の第一候補はアランさんなので」

 これだけ話していても、不思議なことに、誰一人としてイアンのことを口にしようとはしなかった。

 彼等にとってあの少年は、いわば裏切り者。当然と言えば当然である。彼が拉致という行動に出なければ、あの騒動すら起きなかったのだ。もはやダブーと称しても差し支えない扱いなのかもしれない。

 親友であったサミュエルも、さぞ肩身が狭いだろう。かと思いきや、彼は静かだった。片膝を抱え、弾ける炎をじっと見つめている。表情は読み取れなかった。

 彼が感情を殺すのはいつものことである。しかし今日は一段と静かだ。

 村人達も異変に気付いている。しかし彼等は、あえて言葉を絶やそうとはしなかった。変に顔色を窺うこともない。それが彼等なりの気遣いなのかもしれない。

 普段通りに。これまで通りに。その思いで過ごす夜は、少しだけ疲れた。


   ■    ■


 入植十六日目。

 軽い倦怠感と共に、俺は朝を迎えた。《ワラ敷きベッド》から身体を起こし、足を降ろす。

 床が鳴く。アランのいびきに掻き消されたかと思いきや、その音は少年の耳に届いてしまったらしい。薄目を開けて、サミュエルが首を動かした。

 手は既に剣――この村で作られた《石の剣》に伸びている。

 『戦士』就任当時はベッドで寝てもくれなかった。それが随分と懐かしく思える。俺は一つ謝罪をしてから、俺は小屋を出た。

 春も終わりに近付いた時期。もう少しで夏が来る。そうだというのに、朝はまだキンと冷え込んでいる。この時間帯は、村人の誰一人として起き出していない。俺の補佐が仕事であるナビ子でさえ、女子部屋で眠り込んでいる。

 地平線から上がる太陽を見るのは俺と、黄金に輝く《小麦》のみ――ああ、今日は収穫の日か。そんなことを思っていると、どこからともなく音が聞こえて来た。

 キン、キンと甲高い、何かがぶつかる音。

 まさか。なぜ。背筋が凍りつく。

 ここまで追手が? なぜ。全て終わった筈だ。誰が戦っている。何が起きている。

 皆を起こそうか、それが頭をよぎる。しかし誰かが既に対処に当たっていたら。声を掛けているうちに取り返しのつかないことになってしまったら。

 駄目だ、待てない。俺は駆け出した。小屋のすぐ隣、村の中央となる予定の場所へ向けて。

 単独行動は慎むようにと、耳に胼胝たこができる程聞かされた声すら、俺の頭からは転げ落ちていた。

 弾む視界に飛び込んできたのは、大量の瓦礫と朝日に輝く長い髪だった。

「ルシンダさん……?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】うだつが上がらない底辺冒険者だったオッサンは命を燃やして強くなる

邪代夜叉(ヤシロヤシャ)
ファンタジー
まだ遅くない。 オッサンにだって、未来がある。 底辺から這い上がる冒険譚?! 辺鄙の小さな村に生まれた少年トーマは、幼い頃にゴブリン退治で村に訪れていた冒険者に憧れ、いつか自らも偉大な冒険者となることを誓い、十五歳で村を飛び出した。 しかし現実は厳しかった。 十数年の時は流れてオッサンとなり、その間、大きな成果を残せず“とんまのトーマ”と不名誉なあだ名を陰で囁かれ、やがて採取や配達といった雑用依頼ばかりこなす、うだつの上がらない底辺冒険者生活を続けていた。 そんなある日、荷車の護衛の依頼を受けたトーマは――

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

追放令嬢と【神の農地】スキル持ちの俺、辺境の痩せ地を世界一の穀倉地帯に変えたら、いつの間にか建国してました。

黒崎隼人
ファンタジー
日本の農学研究者だった俺は、過労死の末、剣と魔法の異世界へ転生した。貧しい農家の三男アキトとして目覚めた俺には、前世の知識と、触れた土地を瞬時に世界一肥沃にするチートスキル【神の農地】が与えられていた! 「この力があれば、家族を、この村を救える!」 俺が奇跡の作物を育て始めた矢先、村に一人の少女がやってくる。彼女は王太子に婚約破棄され、「悪役令嬢」の汚名を着せられて追放された公爵令嬢セレスティーナ。全てを失い、絶望の淵に立つ彼女だったが、その瞳にはまだ気高い光が宿っていた。 「俺が、この土地を生まれ変わらせてみせます。あなたと共に」 孤独な元・悪役令嬢と、最強スキルを持つ転生農民。 二人の出会いが、辺境の痩せた土地を黄金の穀倉地帯へと変え、やがて一つの国を産み落とす奇跡の物語。 優しくて壮大な、逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...