短い恋愛短編集。

匿名希望

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思い出した男

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幼い時に「好き」と言い合い、大人の真似事のようにキスをした。
「大きくなったら結婚しようね。」と公園に咲く名も知らない花で指輪を作った。
それを大事に箱に入れ、蓋をした。

「枯れてんじゃねえか。」

久々に帰った実家で、そのままの自室に入ると机の上に汚い箱があった。
母が掃除の時にでも見つけて置いたのだろう。
開けてみれば、すっかり枯れてしまった名も知らない花の指輪。
昔の事を思い出し、その指輪を指先で遊ぶ。
そう言えば、そんな事もあったな。

彼女とは、今でも交流はある。
だが、関係はそんな甘いものではない。ただの幼馴染止まり。
彼女は、この指輪をまだ持っているのだろうか。
もう捨ててしまっただろうか。

「まあ、捨ててるわな。俺も忘れてたし。」

自分に言い聞かせるように、箱に蓋をした。
しかし、思い出された幼い頃の想いは、また頭をもたげ始める。
ズボンのポケットに入っていた携帯を取り出し、電話帳を開く。

「もしもし?」

電話越しに聞こえる聞きなれた声。
何を言っていいものだろうか。ただ、偶然に見つけたソレ。
ソレのせいで、思い出した感情を、どう伝えればよいのか。

「どうしたの?」

無言のままの自分に変わらぬ声が問いかける。

「指輪、まだ持ってるか?」

「指輪?・・・・ああ」

少し笑って、持っている。と彼女は答えた。
その答えにひどく舞い上がっている自分。
恰好悪いな、と自分で自分を笑う。

「もう、時効かもしれねえけど。」

電話口から聞こえる声は震えていた。

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