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妄想女の観察対象
しおりを挟む斜め前の席に座る彼の名前を知らない。
いつもあの席に座る。だからわたしは、いつもこの席に座る。
彼の隣にはいつも仲の良い友人が座っている。
窓際の日当たりの良い席で、彼は時にうつらうつらと体を揺らしている。
いつから彼の事が気になって、いつからこんな風に観察しているのか。
自分でもわからないが、気が付いたら彼を目で追っていた。
きっと、彼は私の存在など知らないだろう。
いつも観察されているなんて気が付いていないだろう。
別に気が付いて欲しいわけでもないけど。
いや、それは嘘だ。
いつか、彼の隣には自分が座る。手を繋いで一緒に帰宅する。
たまの休日には少し遠出をしてみたり!
夕食は自分の家の近くにあるレストランで食事をしたら
私の家まで送ってくれる優しい彼。
そんな痛々しい妄想ばかり、気が付けばしている。
そして、叶うはずのない妄想をしている自分で自分が恥ずかしくなり
授業中だというのに、机に顔を伏せるのだ。
今の自分の顔はとっても気持ち悪い。だってにやけている。
遠くの方で抑揚のない声で先生が話している。
自分の気持ちを落ち着けて、また顔を持ち上げると、斜め前の彼と目が合った。
驚いて、また顔を伏せてしまった。
凄く感じの悪い女だと、思われたに違いない。
でも、仕方ないじゃないか!なんでこっち向くの?!
今までこっち向いた事なかったじゃないか!
しかし、目が合った瞬間に顔を伏せるのはいかがなものか。
恐る恐る、顔を持ち上げると、彼は前を向いていた。
良かった。普段通りな様子の彼に安堵し、胸を撫で下ろす。
ふと、机の上に紙切れが一枚。
「顔真っ赤だったけど、大丈夫?」
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