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第三章
第12話 伝えてよこのちゃらんぽらん!
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クローゼットから洋服を引っ掴んで出して、お気に入りのボストンバッグに詰め込む。
荷物は最小限でと言われたけれど、そもそも最小限しかノエは私の家から持って来てくれていないので全部持っていけばいい。
図書館で借りた本はエルシーさんが返してくれると言うので、お言葉に甘えてそのままにしておく。一応テーブルの上に並べて、片付けやすいように。
それ以外も極力綺麗にしていきたかったけれど、部屋の入り口で私を急かすノエが「まだ?」って顔をしているので諦めた。
「よし、できた!」
「んじゃ行くよ。これ羽織って」
「ん」
「あとこれ被って」
「……え?」
被ってと言われた布には見覚えがあった。これはノクステルナに連れて来られた日、裁判所に行く時に被せられたやつじゃないか!
「なんで!?」
「罪人輸送のていでほたるを連れ出すから」
「でもていじゃん!」
「クラトス様んとこの奴らに見られたらまずいでしょーが」
「……おおう」
そっか、そういうことか。ノエが私を急かすのも、この布を被らせるのも、全部私の命を守るためなんだ。
調査が終わったことは噂ですぐにバレてしまう。公表するまでほとんど時間を稼げないから、エルシーさんはあの話の後私にすぐノストノクスを出るように言った。
ここは法を司る場所ではあるけれど、憎しみという感情の前では法はそこまで意味を持たない――そう困ったように笑っている姿はとても綺麗だったけれど、私に関わりのあることでそんな顔をさせてしまっていると思ったら申し訳ない気持ちになった。
「じゃ、おいで」
「前見えなくて怖い」
「大丈夫だから。下手に声出すなよ?」
「はーい」
ノエやエルシーさんが私を守るのは仕事だ。でも嫌な立場なんだろうなとも思う。
彼らは中立派らしいけれど、トップだった人がスヴァインに殺されたのは事実で。もしかしたら二人とも私のことが憎いかもしれない。私が何かしたわけではなくても、スヴァインに関係ある者としてその憎しみを向けたいのかもしれない。
でも二人は私を守ってくれる。私に憎しみを向けたい人たちからの恨みを代わりに引き受けてくれる。
ここを出る時、ノエにはありがとうって言おう。気付くのが遅れてエルシーさんには言えなかったけれど、ノエに頼めばきっと伝えてくれる……と思う。駄目だ、不安になってきた。だってノエってば面倒臭がりだしちゃらんぽらんだし、伝言とか頼んでもすぐに忘れそう。ああもう、なんで私ってばもっと早く気付かなかったかなー。
そうこう思っているうちに、空気の匂いが変わったのが分かった。室内の空気だったのが、窓から入る外の空気に。
多分、外に出たんだ。いよいよノエとの別れが近づく。
「乗れ」
罪人って設定だから、ノエの言葉がきつい。でも促されたとおりに足を高めにあげて、階段のようなものを上る。たった二段上ったところで終わりだったらしく、見えなかったせいで無駄に高く上げてしまった三歩目が目標地点とずれてずっこけそうになった。……なんで最後にこんな醜態晒さなきゃいけないの。
向かった先からコンコン、と音がして、乗っていた何かが動き出す。何だろう、トラックの荷台なのかな。ガタンゴトン動くけれど、あまり外の音が聞こえない。
ってあれ、ちょっと待って? 動き出しちゃったってことは私ノエにお別れ言い損ねた? もう、布被ってるから分からないよ!
「もう取っていいぞー」
……あれ?
「……ノエ?」
布を外すと、見慣れた青い頭が目に入った。狭い空間は淡い照明だけで薄暗いけれど、さすがに間違えるはずがない。
「なあに?」
ノエじゃん。ノエいるじゃん。
なんだ、まだお別れじゃなかったのか。ってことはもう少し進んだどこかでお別れ?
「もう! お別れ言い損ねたかと思ったじゃん!」
「お別れ?」
「そう! 今までありがとうとかエルシーさんにもお礼言っといてとか、言いたいことたくさんあったのに! そりゃ短い間だったけどさ、お腹も殴られたし誘拐もされたけど! でもノエにはたくさん良くしてもらったから、だからちゃんと色々伝えたいって思ってたのに……!」
ちょっと文句を言おうと思っただけなのに、どんどん言葉が、涙が溢れてきた。
だってずっと心細かったんだよ、見知らぬ土地に一人ぼっちで。それでも大丈夫だったのはノエがいてくれたからだし、エルシーさんだって私のことを心配してくれていた。
それなのにノエときたら、ぽかんとした顔をして。私が鼻をすすりながら睨みつければ、ノエは困ったように頬を掻いた。
「あー、エルシーにはちょっと伝えらんねーなー」
「伝えてよこのちゃらんぽらん!」
そこは形だけでも伝えとくねって言うところでしょうが! 泣いてる女の子を見ても空気が読めないとか、ノエの頭はどうなってんだ!
「お嬢さんよ」
「何!?」
「一人でスヴァイン探す気かね?」
「……おおう?」
確かに。私にノクステルナの土地勘なんてないし、そもそもどこで命を狙われるかも分からない。そんな場所で一人、人を探すどころか生きていける気もしない。
ってことは?
「俺も一緒に行くんだよ」
まーじか。……めちゃくちゃ恥ずかしい。
§ § §
ガタンゴトン、ガタンゴトン。電車のようだけど、電車ではないと思う。トラックの荷台のような気もするし、そうでもない気もするし、不思議な感じ。
ていうかノクステルナに車ってあるのかな?
「ほーたるー」
車が走るからには、やっぱり燃料とか必要で。なんだったら道路もある程度舗装されたものが必要だろう。
でもここはノクステルナ。百年前まで派手に戦争が繰り広げられていた土地。恒久的な終戦ではなく一時的な停戦だから、道路の整備とかやるかな?
「なあ、ほたるってば」
となると、この乗り物は何だろう? 馬車的な? え、馬いるの?
「おい、ほたる」
「んぎゃ」
ノエが私の頭を掴んで、ぐいっと自分の方に向ける。乱暴だな、おい。
「いつまで無視すんだよ。さっきはあれだけ『ノエに感謝してるの!』みたいなこと言ってたくせに」
「そんなぶりっ子みたいな言い方してない!」
「お、内容は否定しないのか」
「ああああああもう!」
頭を抱えれば、ノエがケタケタと笑う。
てっきりノエとはノストノクスでお別れだと思ったからあれこれ言ってしまったけれど、これからも一緒に行動すると知ってしまえば羞恥心しかない。ノエはそれが分かっているから、さっきからずっと「いやァ、可愛らしいなー」とか「ほたる俺のこと大好きね」とかなんとか言って私をからかっていた。
だから無視を決め込んでいたのに、流石に力技でやられたらもう無視しきれない。だってノエの腕力おかしいもん、首もげるわ。
「まあ真面目な話、ちょっとお兄さんの話聞きなさいよ」
「……何?」
「これからどうするか、とか」
そんなことを言われてしまえばちゃんと話を聞くしかなくなる。なんたってこっちは命がかかっているし、ノエに迷惑をかけている自覚もある。自分でお兄さんって言うとか図々しいなとは思ったけれど、文句はぐぐっと飲み込みつつそっぽを向いていた身体の向きを直す。
その仕草で私が聞く気になったのが分かったのか、ノエはゆっくりと話しだした。
「とりあえず、まずはラミア様のとこに行く」
「ラミア様って……ノエのボスだっけ?」
「そう。んでもってノクステルナ中立派筆頭」
中央機関であるノストノクスは、長引く戦争による吸血鬼の衰退を嘆いた中立派が中心となって設立した。そしてその中立派をまとめ上げていたのがラミア様という人らしい。ノエが今執行官という仕事をしているのもラミア様の配下だからだそうだ。
「でも迷惑じゃない? ノストノクスならともかく、個人が私と会うってなんか周りから顰蹙買いそうだけど……」
「まあ買うだろうなー」
「なら……」
「大丈夫大丈夫、事前に許可は取ってある」
「んえ?」
事前に許可ってどういうことだろう。だって私に種子を与えたのがスヴァインだって判明したのが今日で、その後すぐにノエと一緒にノストノクスを出たからそんな暇はなかったはずだ。もしかして電話でもあるのかな? そういうのがあるイメージはなかったけれど。
「ほたるがスヴァインの子かもっていうのは最初っから考えて動いてたんだよ、俺とエルシーは。だからこの二週間、俺はノストノクスとラミア様のとこ行ったり来たりしまくってたわけ」
「そうなの?」
「そうなのー」
電話してたわけじゃないんだ、というのは置いといて。
ノエはおちゃらけているけれど、これって結構凄いことじゃないだろうか。
だって私とスヴァインの関係性を示すものなんて最初はまったくなかったはずだ。確かに多少はそういう可能性も考慮していたのかもとは思っていたけどさ、その考えが外れる確率の方が高かっただろうに。それなのにこんなにがっつり準備に時間を割いていたというのがにわかには信じがたい。やっぱりエルシーさんが優秀なのかな。ノエはほら、適当だから。
「それで、ラミア様のとこに行ってどうするの?」
「知恵を借ります」
「知恵?」
「そ。スヴァインを探すためにはあちこち行かなきゃならないだろ? でも今のままじゃすぐにほたるが件の種子持ちってバレるから、そのへんの対策とかな。ずっとそれ被ってるわけにはいかないじゃん?」
それ、とは床に投げ捨てられた例の布のことだ。確かに裁判の時に私の姿は見られてしまっているから、見た目でバレる可能性は大いにある。そうでなくてもノストノクスが私を守っているって広まれば、執行官であるノエといるだけで疑われることだってあるだろう。
「んで、準備が出来次第スヴァイン探しに出発かな。って言ってもどこ探せばいいか分かんないんだけどねー。そのへんもまあ、ラミア様に聞いてみようかなって」
「……ラミア様に頼り過ぎじゃない?」
「いーのいーの、ラミア様面倒見いいから。ちょっと口と態度が悪いけど、押せばなんだかんだ我儘聞いてくれるし」
なんだろう、ラミア様って苦労性な気がする。だってこのノエの発言なんて完全に我儘息子みたいな感じだし。っていうかノエに口と態度が悪いって言われるなんて可哀想だな。
しかしまあ、面倒見が良いというのは信用できる。だってノエを配下にしてるくらいだ、相当心が広くないと無理なんじゃないかな。
「お嬢さん、なんか失礼なこと考えてない?」
「いいえ?」
私の返事にノエは納得していないようだったけれど、私は華麗に無視を決め込んだ。ノエだってさっきエルシーさんの部屋で人を利用価値なしとか言っていたからね、その仕返しだよ!
荷物は最小限でと言われたけれど、そもそも最小限しかノエは私の家から持って来てくれていないので全部持っていけばいい。
図書館で借りた本はエルシーさんが返してくれると言うので、お言葉に甘えてそのままにしておく。一応テーブルの上に並べて、片付けやすいように。
それ以外も極力綺麗にしていきたかったけれど、部屋の入り口で私を急かすノエが「まだ?」って顔をしているので諦めた。
「よし、できた!」
「んじゃ行くよ。これ羽織って」
「ん」
「あとこれ被って」
「……え?」
被ってと言われた布には見覚えがあった。これはノクステルナに連れて来られた日、裁判所に行く時に被せられたやつじゃないか!
「なんで!?」
「罪人輸送のていでほたるを連れ出すから」
「でもていじゃん!」
「クラトス様んとこの奴らに見られたらまずいでしょーが」
「……おおう」
そっか、そういうことか。ノエが私を急かすのも、この布を被らせるのも、全部私の命を守るためなんだ。
調査が終わったことは噂ですぐにバレてしまう。公表するまでほとんど時間を稼げないから、エルシーさんはあの話の後私にすぐノストノクスを出るように言った。
ここは法を司る場所ではあるけれど、憎しみという感情の前では法はそこまで意味を持たない――そう困ったように笑っている姿はとても綺麗だったけれど、私に関わりのあることでそんな顔をさせてしまっていると思ったら申し訳ない気持ちになった。
「じゃ、おいで」
「前見えなくて怖い」
「大丈夫だから。下手に声出すなよ?」
「はーい」
ノエやエルシーさんが私を守るのは仕事だ。でも嫌な立場なんだろうなとも思う。
彼らは中立派らしいけれど、トップだった人がスヴァインに殺されたのは事実で。もしかしたら二人とも私のことが憎いかもしれない。私が何かしたわけではなくても、スヴァインに関係ある者としてその憎しみを向けたいのかもしれない。
でも二人は私を守ってくれる。私に憎しみを向けたい人たちからの恨みを代わりに引き受けてくれる。
ここを出る時、ノエにはありがとうって言おう。気付くのが遅れてエルシーさんには言えなかったけれど、ノエに頼めばきっと伝えてくれる……と思う。駄目だ、不安になってきた。だってノエってば面倒臭がりだしちゃらんぽらんだし、伝言とか頼んでもすぐに忘れそう。ああもう、なんで私ってばもっと早く気付かなかったかなー。
そうこう思っているうちに、空気の匂いが変わったのが分かった。室内の空気だったのが、窓から入る外の空気に。
多分、外に出たんだ。いよいよノエとの別れが近づく。
「乗れ」
罪人って設定だから、ノエの言葉がきつい。でも促されたとおりに足を高めにあげて、階段のようなものを上る。たった二段上ったところで終わりだったらしく、見えなかったせいで無駄に高く上げてしまった三歩目が目標地点とずれてずっこけそうになった。……なんで最後にこんな醜態晒さなきゃいけないの。
向かった先からコンコン、と音がして、乗っていた何かが動き出す。何だろう、トラックの荷台なのかな。ガタンゴトン動くけれど、あまり外の音が聞こえない。
ってあれ、ちょっと待って? 動き出しちゃったってことは私ノエにお別れ言い損ねた? もう、布被ってるから分からないよ!
「もう取っていいぞー」
……あれ?
「……ノエ?」
布を外すと、見慣れた青い頭が目に入った。狭い空間は淡い照明だけで薄暗いけれど、さすがに間違えるはずがない。
「なあに?」
ノエじゃん。ノエいるじゃん。
なんだ、まだお別れじゃなかったのか。ってことはもう少し進んだどこかでお別れ?
「もう! お別れ言い損ねたかと思ったじゃん!」
「お別れ?」
「そう! 今までありがとうとかエルシーさんにもお礼言っといてとか、言いたいことたくさんあったのに! そりゃ短い間だったけどさ、お腹も殴られたし誘拐もされたけど! でもノエにはたくさん良くしてもらったから、だからちゃんと色々伝えたいって思ってたのに……!」
ちょっと文句を言おうと思っただけなのに、どんどん言葉が、涙が溢れてきた。
だってずっと心細かったんだよ、見知らぬ土地に一人ぼっちで。それでも大丈夫だったのはノエがいてくれたからだし、エルシーさんだって私のことを心配してくれていた。
それなのにノエときたら、ぽかんとした顔をして。私が鼻をすすりながら睨みつければ、ノエは困ったように頬を掻いた。
「あー、エルシーにはちょっと伝えらんねーなー」
「伝えてよこのちゃらんぽらん!」
そこは形だけでも伝えとくねって言うところでしょうが! 泣いてる女の子を見ても空気が読めないとか、ノエの頭はどうなってんだ!
「お嬢さんよ」
「何!?」
「一人でスヴァイン探す気かね?」
「……おおう?」
確かに。私にノクステルナの土地勘なんてないし、そもそもどこで命を狙われるかも分からない。そんな場所で一人、人を探すどころか生きていける気もしない。
ってことは?
「俺も一緒に行くんだよ」
まーじか。……めちゃくちゃ恥ずかしい。
§ § §
ガタンゴトン、ガタンゴトン。電車のようだけど、電車ではないと思う。トラックの荷台のような気もするし、そうでもない気もするし、不思議な感じ。
ていうかノクステルナに車ってあるのかな?
「ほーたるー」
車が走るからには、やっぱり燃料とか必要で。なんだったら道路もある程度舗装されたものが必要だろう。
でもここはノクステルナ。百年前まで派手に戦争が繰り広げられていた土地。恒久的な終戦ではなく一時的な停戦だから、道路の整備とかやるかな?
「なあ、ほたるってば」
となると、この乗り物は何だろう? 馬車的な? え、馬いるの?
「おい、ほたる」
「んぎゃ」
ノエが私の頭を掴んで、ぐいっと自分の方に向ける。乱暴だな、おい。
「いつまで無視すんだよ。さっきはあれだけ『ノエに感謝してるの!』みたいなこと言ってたくせに」
「そんなぶりっ子みたいな言い方してない!」
「お、内容は否定しないのか」
「ああああああもう!」
頭を抱えれば、ノエがケタケタと笑う。
てっきりノエとはノストノクスでお別れだと思ったからあれこれ言ってしまったけれど、これからも一緒に行動すると知ってしまえば羞恥心しかない。ノエはそれが分かっているから、さっきからずっと「いやァ、可愛らしいなー」とか「ほたる俺のこと大好きね」とかなんとか言って私をからかっていた。
だから無視を決め込んでいたのに、流石に力技でやられたらもう無視しきれない。だってノエの腕力おかしいもん、首もげるわ。
「まあ真面目な話、ちょっとお兄さんの話聞きなさいよ」
「……何?」
「これからどうするか、とか」
そんなことを言われてしまえばちゃんと話を聞くしかなくなる。なんたってこっちは命がかかっているし、ノエに迷惑をかけている自覚もある。自分でお兄さんって言うとか図々しいなとは思ったけれど、文句はぐぐっと飲み込みつつそっぽを向いていた身体の向きを直す。
その仕草で私が聞く気になったのが分かったのか、ノエはゆっくりと話しだした。
「とりあえず、まずはラミア様のとこに行く」
「ラミア様って……ノエのボスだっけ?」
「そう。んでもってノクステルナ中立派筆頭」
中央機関であるノストノクスは、長引く戦争による吸血鬼の衰退を嘆いた中立派が中心となって設立した。そしてその中立派をまとめ上げていたのがラミア様という人らしい。ノエが今執行官という仕事をしているのもラミア様の配下だからだそうだ。
「でも迷惑じゃない? ノストノクスならともかく、個人が私と会うってなんか周りから顰蹙買いそうだけど……」
「まあ買うだろうなー」
「なら……」
「大丈夫大丈夫、事前に許可は取ってある」
「んえ?」
事前に許可ってどういうことだろう。だって私に種子を与えたのがスヴァインだって判明したのが今日で、その後すぐにノエと一緒にノストノクスを出たからそんな暇はなかったはずだ。もしかして電話でもあるのかな? そういうのがあるイメージはなかったけれど。
「ほたるがスヴァインの子かもっていうのは最初っから考えて動いてたんだよ、俺とエルシーは。だからこの二週間、俺はノストノクスとラミア様のとこ行ったり来たりしまくってたわけ」
「そうなの?」
「そうなのー」
電話してたわけじゃないんだ、というのは置いといて。
ノエはおちゃらけているけれど、これって結構凄いことじゃないだろうか。
だって私とスヴァインの関係性を示すものなんて最初はまったくなかったはずだ。確かに多少はそういう可能性も考慮していたのかもとは思っていたけどさ、その考えが外れる確率の方が高かっただろうに。それなのにこんなにがっつり準備に時間を割いていたというのがにわかには信じがたい。やっぱりエルシーさんが優秀なのかな。ノエはほら、適当だから。
「それで、ラミア様のとこに行ってどうするの?」
「知恵を借ります」
「知恵?」
「そ。スヴァインを探すためにはあちこち行かなきゃならないだろ? でも今のままじゃすぐにほたるが件の種子持ちってバレるから、そのへんの対策とかな。ずっとそれ被ってるわけにはいかないじゃん?」
それ、とは床に投げ捨てられた例の布のことだ。確かに裁判の時に私の姿は見られてしまっているから、見た目でバレる可能性は大いにある。そうでなくてもノストノクスが私を守っているって広まれば、執行官であるノエといるだけで疑われることだってあるだろう。
「んで、準備が出来次第スヴァイン探しに出発かな。って言ってもどこ探せばいいか分かんないんだけどねー。そのへんもまあ、ラミア様に聞いてみようかなって」
「……ラミア様に頼り過ぎじゃない?」
「いーのいーの、ラミア様面倒見いいから。ちょっと口と態度が悪いけど、押せばなんだかんだ我儘聞いてくれるし」
なんだろう、ラミア様って苦労性な気がする。だってこのノエの発言なんて完全に我儘息子みたいな感じだし。っていうかノエに口と態度が悪いって言われるなんて可哀想だな。
しかしまあ、面倒見が良いというのは信用できる。だってノエを配下にしてるくらいだ、相当心が広くないと無理なんじゃないかな。
「お嬢さん、なんか失礼なこと考えてない?」
「いいえ?」
私の返事にノエは納得していないようだったけれど、私は華麗に無視を決め込んだ。ノエだってさっきエルシーさんの部屋で人を利用価値なしとか言っていたからね、その仕返しだよ!
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