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第四章
第27話 でも大好きなんでしょう?
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「――なんか新鮮で可愛いじゃん」
自分では買うことのないタイプの衣服に身を包んで、鏡の前でくるっと回転。ひらりと翻ったスカートの動きが可愛くて、無駄に動いたりつまんだりしてひらひらさせちゃう。やだこれ楽しい。
ラミア様からもらった服は、ゆったりとした膝上丈のワンピースだった。中にショートパンツを仕込むタイプで、動きやすいしワンピースから独立しているのでトイレは楽そう。これ結構大事。
ワンピースだけだと可愛すぎるかなと思ったものの、その上から用意されていた革のコルセットを付けたら一気に中和された。しかも途端に中世感まで出て、現代日本人っぽさがかなり薄まった気がする。ちなみに調整は紐ではなくベルトだ。それも三つあるから、中世感というよりはスチームパンク感かもしれない。
首から下げた匂い玉も、紐の素材感が全体のイメージと合っているのでなんだか嬉しい。ちなみに匂い玉本体はちょうど胸元にインするので、ちょっとだけそういうデザインの服みたいになった。
洋服のサイズが合うかどうかの心配は、このタイプの服は結構融通が効くから杞憂に終わった。多分ペイズリーさんはそのあたりを考えてこの服にしてくれたんだろう。
でもちょっとびっくりしたのは、ブーツのサイズまでぴったりだったこと。流石にこれは私のサイズを知らないと用意できないはずだけど、いつ誰が確認したのか考えるのはやめておこうと思う。こっそり私の靴を調べる青い頭が浮かんでしまうし。
「ていうか、ラミア様めちゃくちゃ怖かったな……」
怒りを滲ませるラミア様を前に、自分が怒られているわけではないのに身体が竦んでしまって動けなかったことを思い出す。ノエがラミア様は怖い人と言っていたのを信じていなかったけれど、うん、あれは怖い。今まで会った人の中で一番怖い。
「そうなんだよ、怖いだろ?」
「……なんでいるの?」
独り言に返事が返ってきて一瞬びっくりしたものの、その声が誰だか分かったので呆れが勝る。
誰かと言えば当然ノエだ。ノエは窓の横にもたれかかるようにして立っていて、ごく自然に部屋の中に溶け込んでいた。
が、しかしよ。私は今まで着替えていたのでノエを部屋に入れた覚えはない。じゃあなんでいるんだ。
「用意できたから呼びに来た」
「窓から入ってきたってこと?」
「そうそう。言ってなかったけど俺の部屋、ここの真上なんだよね」
「へえ、そうなんだ。で、それとこれとどんな関係が?」
私がじっとりと睨みつけると、ノエは「こっちのが楽じゃん、いちいち中歩くの面倒臭いし」と笑う。
出たよ、面倒臭い。っていうか面倒とか楽とかそういう問題じゃない。
「安心しろよ、ちゃんと着替えが終わってそうなのは分かってたから」
「……それは窓から勝手に入ってきていい理由にはならないと思うけど」
「細かいこと気にしない」
「細かくない」
女子の部屋には勝手に入ってはいけませんって細かくないよね? ああでも、生まれ育った時代も国も違うのか。
でもなあ、ノエだってそういうことは分かってそうな気がするんだよな。分かった上で面倒だからやらない、それが私の知るノエという男だ。
私がうーんと考えていると、いつの間にか近付いていたノエが目の前でひらひらと手を振ってきた。なんかむかつくな。
「で、ほたるは準備できた?」
「できたと言えばできたんだけど……」
あらやだ、当然のように話を進めるから文句言うの忘れてうっかり普通に答えちゃったじゃない。
でも答えてしまったものは仕方がない。私はノエに答えながら、クローゼットの方に目をやった。
「ノエが私の家から持ってきてくれた服はどうしよう? しばらく外では着れないよね?」
これは結構気になっていた。服装を変えろと言われるくらいだから、下着くらいしか家から持ってきた服は着られない。かと言って着ないものを持ち歩くのも無駄な気がして、移動用の荷物にはまだ入れていなかったのだ。
「ここに置いてけばいいじゃん」
「このままでいいの? どこかに移動させたりとか」
「いいよいいよ。どうせ部屋なんて腐るほど余ってるから、誰もここは使わないだろうし」
そうか、ここはお城だ。確かに部屋はたくさんあるだろう。腐りはしないだろうけれど。
「じゃあ後はペイズリーさん達にお礼言うだけかな」
「んじゃ会いに行くか」
「ノエも付いてくるの?」
「いや、案内するだけ。どうせほたる、ペイズリー達がどこにいるか分からないだろ?」
「……おおう」
今初めて気付いたということは、馬鹿にされるので言わないでおこう。
§ § §
「――ペイズリーさん、マヤさん!」
二人は植物がたくさん置かれた温室のような部屋で優雅にお茶を飲んでいた。置かれている植物は結構見覚えのあるものだから、あの畑で育てた外界のものをここに持ってきているのかもしれない。
部屋の造りはよくある温室のようにガラス張りではあるけれど、そのガラスから日光が降り注ぐことはない。今だって赤い光がぼんやりと照らしていて、炎輝石から発せられる光がもっと少なかったらちょっとしたホラーだっただろう。
「あら、着替えたの。サイズは良さそうね」
ペイズリーさんが私を見てにっこりと微笑む。初めて見た笑顔は凄く可愛くて、とてもではないが何百年も生きているとは思えなかった。
「ノエは逃げた?」
「はい。喧嘩になるからって」
「ごめんね、あんなことになっちゃって。不安だったでしょ?」
「でもノエもちゃんと話してくれましたし、珍しいところも見れたので」
私が言うと、ペイズリーさんは「へえ?」と興味深そうな顔をした。これはノエのことが気になるというより、ノエの弱味を知りたいといった感じの顔だろう。
流石に弱味にはならないだろうなと思って「大したことじゃないですよ」と返すと、それまで微笑みながら話を聞いていたマヤさんが口を開いた。
「――――」
「えっと……?」
「『ノエと仲良いのね』ってさ」
マヤさんの言葉が分からなくて首を傾げると、ペイズリーさんが翻訳してくれた。
「仲良い……んですかねぇ? 向こうは仕事みたいなものでしょうし……」
「『でも大好きなんでしょう?』」
「は!? え、いや、違……!」
急に恥ずかしいことを言われて戸惑っていると、二人のお姉さん方がくすくすと肩を揺らす。ああ、これ絶対遊ばれてる。
そう思うのに、顔から熱が引かない。別にノエのことをそういうふうに思ったことはないけれども、好きか嫌いかで聞かれればそりゃ好きなわけで。でも女友達のことならともかく、男友達にも友情とかの好きってあまり言わないじゃん。ましてや私にとってノエはお父さん感あるし、そんな相手のことを「大好きなんだね」って言われて笑顔で肯定できるほど私のメンタルは強くはないんだよ。
「嫌いじゃないんでしょ?」
ペイズリーさんが笑いながら聞いてくる。否定しづらい質問はずるい。
「まあ、そうですけど……」
「じゃあ好きだ」
「好っ……そうですねっ」
「大好き?」
「からかってますよねぇ!? お父さん的な立ち位置としてですよ!?」
「ダイスキ?」
「あら、マヤったら日本語上手」
「ッもう!!」
なんだこれ、完全におもちゃにされているじゃないか。
その後も似たような会話を繰り返して二人のお茶のポットが空になった頃、温室の外から私を呼ぶノエの声が聞こえてきた。「先荷物持ってエントランス行ってるよー」って、そんなにペイズリーさんに会いたくないのか。
「私そろそろ行かなきゃ……」
「楽しい時間をありがとう。あまり私にできることはないけれど、何かあったら遠慮せず言ってね」
「いえ、もう十分すぎるくらいです。こちらこそ本当に色々とありがとうございました」
「どういたしまして。――あ、あとノエに伝言。『昨日のお詫びありがたく受け取りなさい』って伝えておいて」
「何か渡すものが?」
「もう渡したから気にしないで」
ペイズリーさんの言葉の意味はよく分からなかったけれど、私は改めて二人に挨拶をして温室を後にした。
§ § §
温室を出てエントランスに向かうと、外に繋がる扉の前にノエが立っていた。
それは予想どおりだったのだけど、なんだかいつもと雰囲気が違う。
「……あ! ノエも変装してるの?」
そうだ、服が見慣れたものじゃないんだ。
ノエは出会った時から黒のスラックスに同じ色のジャケットを羽織っていたけれど、今の格好はだいぶカジュアルな感じ。ちょっとダボッとした長袖のシャツに、同じく前よりもゆとりのある感じのパンツで、裾はブーツにイン。首元にはストールのような布をゆるっと巻いていて、系統としては私の今の服装に近い雰囲気だ。結構楽な格好のはずなのになんだか凄くおしゃれに見える。これが顔面の力か、くそう。
でも変装なら、ノエの場合はその目立つ青い頭をどうにかしなきゃいけない気がするんだけどな。夜は外も青いから分かりづらいだろうけれど、昼間の赤い光では茶色系ではないのは明らかだ。
「俺は変装っていうか、こういう格好の奴の方が多いからな。それよりペイズリー達とは楽しく話せた?」
「うん。ペイズリーさんが『昨日のお詫びありがたく受け取りなさい』って」
「……ああそう」
伝言を伝えたノエは一瞬なんのことだか分からなそうな表情をしたものの、すぐに悔しそうに顔を歪めた。でも私にはなんでか分からなくて、「何もらったの?」と聞けば、ノエはこちらを向いて思案顔。そして溜息を吐いたかと思ったら、今度はにやりと笑みを浮かべている。何故。
「ほたるからの愛の言葉」
「は?」
「俺のこと大好きなんでしょ? まあ、お父さんとしてというのは聞かなかったことにしよう」
ちょっと待て、なんでノエがその話を知ってるの。
私のそんな疑問が顔に出ていたのか、ノエはへらっと笑う。
「最初は聞いてたからな、ペイズリー達との会話」
「ええ!? 盗み聞き!?」
「人聞き悪いこと言うなよ。昨日のことがあったからちゃんと話せるか心配しただけだって。まあお陰でいいことも聞けたけど」
「もしかしてペイズリーさん達は……!」
「気付いてたはずだよ。だからああいうこと言ったんだろ?」
「嘘じゃん!」
もしかして彼女達のくすくすは私を笑うだけじゃなくて、ノエに対するくすくすも含まれていたのか。なんだよもうお姉さん怖いよ。
再び顔を襲ってきた熱に耐えながら、私はしばらく手で頬をパタパタと扇いでいた。
自分では買うことのないタイプの衣服に身を包んで、鏡の前でくるっと回転。ひらりと翻ったスカートの動きが可愛くて、無駄に動いたりつまんだりしてひらひらさせちゃう。やだこれ楽しい。
ラミア様からもらった服は、ゆったりとした膝上丈のワンピースだった。中にショートパンツを仕込むタイプで、動きやすいしワンピースから独立しているのでトイレは楽そう。これ結構大事。
ワンピースだけだと可愛すぎるかなと思ったものの、その上から用意されていた革のコルセットを付けたら一気に中和された。しかも途端に中世感まで出て、現代日本人っぽさがかなり薄まった気がする。ちなみに調整は紐ではなくベルトだ。それも三つあるから、中世感というよりはスチームパンク感かもしれない。
首から下げた匂い玉も、紐の素材感が全体のイメージと合っているのでなんだか嬉しい。ちなみに匂い玉本体はちょうど胸元にインするので、ちょっとだけそういうデザインの服みたいになった。
洋服のサイズが合うかどうかの心配は、このタイプの服は結構融通が効くから杞憂に終わった。多分ペイズリーさんはそのあたりを考えてこの服にしてくれたんだろう。
でもちょっとびっくりしたのは、ブーツのサイズまでぴったりだったこと。流石にこれは私のサイズを知らないと用意できないはずだけど、いつ誰が確認したのか考えるのはやめておこうと思う。こっそり私の靴を調べる青い頭が浮かんでしまうし。
「ていうか、ラミア様めちゃくちゃ怖かったな……」
怒りを滲ませるラミア様を前に、自分が怒られているわけではないのに身体が竦んでしまって動けなかったことを思い出す。ノエがラミア様は怖い人と言っていたのを信じていなかったけれど、うん、あれは怖い。今まで会った人の中で一番怖い。
「そうなんだよ、怖いだろ?」
「……なんでいるの?」
独り言に返事が返ってきて一瞬びっくりしたものの、その声が誰だか分かったので呆れが勝る。
誰かと言えば当然ノエだ。ノエは窓の横にもたれかかるようにして立っていて、ごく自然に部屋の中に溶け込んでいた。
が、しかしよ。私は今まで着替えていたのでノエを部屋に入れた覚えはない。じゃあなんでいるんだ。
「用意できたから呼びに来た」
「窓から入ってきたってこと?」
「そうそう。言ってなかったけど俺の部屋、ここの真上なんだよね」
「へえ、そうなんだ。で、それとこれとどんな関係が?」
私がじっとりと睨みつけると、ノエは「こっちのが楽じゃん、いちいち中歩くの面倒臭いし」と笑う。
出たよ、面倒臭い。っていうか面倒とか楽とかそういう問題じゃない。
「安心しろよ、ちゃんと着替えが終わってそうなのは分かってたから」
「……それは窓から勝手に入ってきていい理由にはならないと思うけど」
「細かいこと気にしない」
「細かくない」
女子の部屋には勝手に入ってはいけませんって細かくないよね? ああでも、生まれ育った時代も国も違うのか。
でもなあ、ノエだってそういうことは分かってそうな気がするんだよな。分かった上で面倒だからやらない、それが私の知るノエという男だ。
私がうーんと考えていると、いつの間にか近付いていたノエが目の前でひらひらと手を振ってきた。なんかむかつくな。
「で、ほたるは準備できた?」
「できたと言えばできたんだけど……」
あらやだ、当然のように話を進めるから文句言うの忘れてうっかり普通に答えちゃったじゃない。
でも答えてしまったものは仕方がない。私はノエに答えながら、クローゼットの方に目をやった。
「ノエが私の家から持ってきてくれた服はどうしよう? しばらく外では着れないよね?」
これは結構気になっていた。服装を変えろと言われるくらいだから、下着くらいしか家から持ってきた服は着られない。かと言って着ないものを持ち歩くのも無駄な気がして、移動用の荷物にはまだ入れていなかったのだ。
「ここに置いてけばいいじゃん」
「このままでいいの? どこかに移動させたりとか」
「いいよいいよ。どうせ部屋なんて腐るほど余ってるから、誰もここは使わないだろうし」
そうか、ここはお城だ。確かに部屋はたくさんあるだろう。腐りはしないだろうけれど。
「じゃあ後はペイズリーさん達にお礼言うだけかな」
「んじゃ会いに行くか」
「ノエも付いてくるの?」
「いや、案内するだけ。どうせほたる、ペイズリー達がどこにいるか分からないだろ?」
「……おおう」
今初めて気付いたということは、馬鹿にされるので言わないでおこう。
§ § §
「――ペイズリーさん、マヤさん!」
二人は植物がたくさん置かれた温室のような部屋で優雅にお茶を飲んでいた。置かれている植物は結構見覚えのあるものだから、あの畑で育てた外界のものをここに持ってきているのかもしれない。
部屋の造りはよくある温室のようにガラス張りではあるけれど、そのガラスから日光が降り注ぐことはない。今だって赤い光がぼんやりと照らしていて、炎輝石から発せられる光がもっと少なかったらちょっとしたホラーだっただろう。
「あら、着替えたの。サイズは良さそうね」
ペイズリーさんが私を見てにっこりと微笑む。初めて見た笑顔は凄く可愛くて、とてもではないが何百年も生きているとは思えなかった。
「ノエは逃げた?」
「はい。喧嘩になるからって」
「ごめんね、あんなことになっちゃって。不安だったでしょ?」
「でもノエもちゃんと話してくれましたし、珍しいところも見れたので」
私が言うと、ペイズリーさんは「へえ?」と興味深そうな顔をした。これはノエのことが気になるというより、ノエの弱味を知りたいといった感じの顔だろう。
流石に弱味にはならないだろうなと思って「大したことじゃないですよ」と返すと、それまで微笑みながら話を聞いていたマヤさんが口を開いた。
「――――」
「えっと……?」
「『ノエと仲良いのね』ってさ」
マヤさんの言葉が分からなくて首を傾げると、ペイズリーさんが翻訳してくれた。
「仲良い……んですかねぇ? 向こうは仕事みたいなものでしょうし……」
「『でも大好きなんでしょう?』」
「は!? え、いや、違……!」
急に恥ずかしいことを言われて戸惑っていると、二人のお姉さん方がくすくすと肩を揺らす。ああ、これ絶対遊ばれてる。
そう思うのに、顔から熱が引かない。別にノエのことをそういうふうに思ったことはないけれども、好きか嫌いかで聞かれればそりゃ好きなわけで。でも女友達のことならともかく、男友達にも友情とかの好きってあまり言わないじゃん。ましてや私にとってノエはお父さん感あるし、そんな相手のことを「大好きなんだね」って言われて笑顔で肯定できるほど私のメンタルは強くはないんだよ。
「嫌いじゃないんでしょ?」
ペイズリーさんが笑いながら聞いてくる。否定しづらい質問はずるい。
「まあ、そうですけど……」
「じゃあ好きだ」
「好っ……そうですねっ」
「大好き?」
「からかってますよねぇ!? お父さん的な立ち位置としてですよ!?」
「ダイスキ?」
「あら、マヤったら日本語上手」
「ッもう!!」
なんだこれ、完全におもちゃにされているじゃないか。
その後も似たような会話を繰り返して二人のお茶のポットが空になった頃、温室の外から私を呼ぶノエの声が聞こえてきた。「先荷物持ってエントランス行ってるよー」って、そんなにペイズリーさんに会いたくないのか。
「私そろそろ行かなきゃ……」
「楽しい時間をありがとう。あまり私にできることはないけれど、何かあったら遠慮せず言ってね」
「いえ、もう十分すぎるくらいです。こちらこそ本当に色々とありがとうございました」
「どういたしまして。――あ、あとノエに伝言。『昨日のお詫びありがたく受け取りなさい』って伝えておいて」
「何か渡すものが?」
「もう渡したから気にしないで」
ペイズリーさんの言葉の意味はよく分からなかったけれど、私は改めて二人に挨拶をして温室を後にした。
§ § §
温室を出てエントランスに向かうと、外に繋がる扉の前にノエが立っていた。
それは予想どおりだったのだけど、なんだかいつもと雰囲気が違う。
「……あ! ノエも変装してるの?」
そうだ、服が見慣れたものじゃないんだ。
ノエは出会った時から黒のスラックスに同じ色のジャケットを羽織っていたけれど、今の格好はだいぶカジュアルな感じ。ちょっとダボッとした長袖のシャツに、同じく前よりもゆとりのある感じのパンツで、裾はブーツにイン。首元にはストールのような布をゆるっと巻いていて、系統としては私の今の服装に近い雰囲気だ。結構楽な格好のはずなのになんだか凄くおしゃれに見える。これが顔面の力か、くそう。
でも変装なら、ノエの場合はその目立つ青い頭をどうにかしなきゃいけない気がするんだけどな。夜は外も青いから分かりづらいだろうけれど、昼間の赤い光では茶色系ではないのは明らかだ。
「俺は変装っていうか、こういう格好の奴の方が多いからな。それよりペイズリー達とは楽しく話せた?」
「うん。ペイズリーさんが『昨日のお詫びありがたく受け取りなさい』って」
「……ああそう」
伝言を伝えたノエは一瞬なんのことだか分からなそうな表情をしたものの、すぐに悔しそうに顔を歪めた。でも私にはなんでか分からなくて、「何もらったの?」と聞けば、ノエはこちらを向いて思案顔。そして溜息を吐いたかと思ったら、今度はにやりと笑みを浮かべている。何故。
「ほたるからの愛の言葉」
「は?」
「俺のこと大好きなんでしょ? まあ、お父さんとしてというのは聞かなかったことにしよう」
ちょっと待て、なんでノエがその話を知ってるの。
私のそんな疑問が顔に出ていたのか、ノエはへらっと笑う。
「最初は聞いてたからな、ペイズリー達との会話」
「ええ!? 盗み聞き!?」
「人聞き悪いこと言うなよ。昨日のことがあったからちゃんと話せるか心配しただけだって。まあお陰でいいことも聞けたけど」
「もしかしてペイズリーさん達は……!」
「気付いてたはずだよ。だからああいうこと言ったんだろ?」
「嘘じゃん!」
もしかして彼女達のくすくすは私を笑うだけじゃなくて、ノエに対するくすくすも含まれていたのか。なんだよもうお姉さん怖いよ。
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