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第3章 迷宮道中膝栗毛!!

第140話 お侍様の戦い方じゃない!

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「あのさあ、あのトゲ野郎の名前ってなんだったんだろうね?」

「んなこと、俺が知ってるわけねえだろ!」


 名前も知らないうちに侍が倒してしまったんだからしかたないか。見た目正拳突きな、必殺カミナリ拳で瞬殺だったし。もうあんなん、俺の知ってるお侍さんの戦い方じゃねえよ!


「あの部屋に一番乗りした拙者だけには名乗っていたぞ。」


 何?一番乗りしたのはお前だったんかい!特典が名前を教えてもらえる権利だったのか?……んなことはないと思うけど。


「スティング・キラーと名乗っておった。」


 今気付いたが、いつの間にか侍は例の砂の鎧の姿に戻っている。もう別にそれはなくても充分強いのでは?


「見た目まんまじゃねえか。」

「べつにトゲ野郎でもあんまり変わりなくない?」


 聞く意味まったくなかった。名付けのセンス皆無だ。ダンジョン主のセンスを疑うしかない。この先のダンジョンもきっと拍子抜けするような物が待ち受けてるに違いない。


「もうあんなやつのことは忘れて、次のダンジョンの攻略に入ろうか。」


 次のダンジョンにはもう到着していた。今回もやはり、雰囲気がちがう。なんか床も壁も木材が使われているみたいだった。木造建築のダンジョン?大工さんの手による手作り感が漂っている。……知らんけど。


「なんか、ここって狭くない?」


 木造っぽいだけじゃない。心なしか、今までより通路が狭いような気がする。天井も低い。ここで戦うのは不便な気がする。それは相手からしても同じかもしれないが。


「この構造も策の内であろう。先程の迷宮よりはよく考えられていると言うべきか。」


 侍が意味深なことを言う。罠とはわかりにくい罠が仕掛けられている?高度な罠だ。


「どちらにしろ、進むしかないぜ。」


 ファルちゃんが前を突き進む。アイツがそのまま進むということは魔法的な罠はないって事だろう。

 しばらく進むと、不自然に穴の空いた壁がある場所に辿り着いた。穴の形は三角だったり、まる型だったりで等間隔に付いている。いかにも何か出てきそうな穴だ。しかも左右どちらにもある。


「おおっと!罠のお出ましのようだぜ。」


「これは狭間(さま)であるな。我が故郷の城郭ではよく見られる物だ。」


 内装といい、どこか異国感があると思ったら、極東の国の城みたいなつくりになっているのか?といことはここの主は侍とか忍者かもしれない。


「この穴より槍が突き出てくるのは必至。お二方も気を付けられよ。」


 気を付けろと言われても、どうやって突破するんだ?避けながら進むのは難しいし、穴の向こうにいるヤツらを倒すのは非常に面倒くさい。分厚い壁が盾の役割をするのでやっかいだ。


「うーむ。どうするかな。」

「フン、これだから脳筋は困るんだ。何でもかんでも力押しが通用すると思うなよ。ちったあ、頭を使いな!」

「俺の脳は筋肉じゃないぞ。」

「ああ、お前はな。お前はそもそも脳などない。」

「こらああ!」


 バカにすんなよ!考えるよりも先に手が出るだけだぞ。


「普通、複数の人間が待ち構えている場合、睡眠の魔法や混乱の魔術を使った方が得策な場合が多い。」


 ファルちゃんは魔法を何種類か立ち上げる仕草をしてはやめるという動作をした。それぞれがコイツの言う、睡眠とか混乱の魔法なんだろう。使うつもりがないくせに、いちいちひけらかす。ホントにキザったらしい。


「探知魔法を使ったところ、穴の裏には魔法生物が待ち構えているようだ。ヤツらには睡眠や混乱は効かん。じゃあ、どうするか?」


 疑問を投げかけ、自分は魔法の準備を始め、構えを取った。どんな魔法を使うつもりだ?


「追尾魔法で攻撃する!」


 ファルちゃんの周りに青白い塊が次々と現れた。これ全部、一度に撃てんの?自分が敵の立場だったら、逃げ切れる自信はない。


「エナジー・チェイサー!」


 青白い塊は一気に壁の穴目掛けて飛んでいった。全部、壁に当たらずに入っていった。どんだけコントロールがいいんだよ!


(パキィン…ペキィン…バキャッ!)


 穴からいくつも破壊音が聞こえてきた。見えないけど、ほぼ全弾命中なのか?こんなのを喰らったらひとたまりもない。ぼろぞうきんと化すだろう。


「お見事。動力源のみを破壊し、自身の魔力の消耗を抑えるとはあっぱれだ。」


 言われてみれば、音が結構地味だったのはそういうことか。急所だけを狙った最小限の威力だから、あんな数を出せたのか。


「じゃあ、これで安心して進めるな!」


 俺は大手を振って一歩前へと踏み出した。


「どうやら、すんなりとは前へと進ませてくれないみたいだぜ。」


 俺はその言葉と同時に殺気を感じて、横へと体を反らせた。すぐ横を何かが通り過ぎていった。地面を見ると星形の物体が地面に刺さっていた。


「今まで我らに気配を悟られずに隠れておったとは。曲者め、姿を現せい!」


 そう、いきなり殺気が感じられた。気配が全くなかったのに!殺気がする方向を見てみるとそこは何もない天井だった。


「ふふふ。我が名は按針!気配を消すことなど、我ら忍びにとっては朝飯前よ!」

「え?なんだって?安全?」


 天井にいきなり人が現れた。天井に張り付いている。さっき何かを投げたのはコイツのようだ。幻術の魔法でも使ってたのか?ただの天井にしか見えなかった。


「俺の探知魔法をすり抜けるとは、やってくれるじゃねえか!俺がそのカラクリを暴いてやる!」
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