氷の森で苺摘み〜女装して継母のおつかいに出た少年が王子に愛される話〜

おりたかほ

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第一章 森のほとり

4 父さんの手紙

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4 父さんの手紙


「ザクロさんは、どうして僕のことを死んだなんて言ったんだろう……」

 僕はホクトくんから距離をとりながら言った。

「君に手紙が渡らないようにするためさ」
「どうしてそんな意地悪をするんだろう」
「君が何らかの事実を知るのを恐れているみたいだった。多分相続のことだろう」

 なんてこった。僕は相続なんてどうでもよかったのに。ただ、父さんの思いが知りたいだけだ。

「母さんはその役人が来て以来、ますます君に辛く当たってる。手紙が渡る前に君を追い出すか、さもなくば亡き者にしようとしてるに違いない」 

 僕はホクトくんの顔をまじまじと見た。今日のホクトくんは、別人のよう。なんだかものすごく頼りがいがある。

 正直なところ僕は、ホクトくんはイケメンだけどいつもぽーっとしてて、狩りか昼寝しかしない人だと思ってた。

「僕が守ってあげる。だから、辛抱するんだよ」
「ホクトくん……」
「ああ、やっと君にこのことが言えたよ」

 今夜はなぜか調子がいいと言って、ホクトくんは笑った。

「とにかく、君が出ていくなんておかしい。だってここは、君の家なんだ」 
「そりゃ……僕だって、ずっとここで暮らしたいよ」

 ここは父さんと母さんの思い出が詰まった家だから。僕もこの家の家族だから。父さんとの約束通り、ザクロさんとも仲良く暮らしたい。

 だけど、時々限界になる。いっそ全部手放してしまおうと思ったことは、一度や二度じゃない。出ていく夢なら何度も見た。想像もした。

 ここから飛び出したなら、どうなるかなって。

 この屋敷を囲むのは、人の恐れる常冬の森。だけど僕は吸い寄せられるように、氷の森に入っていく……。

 僕はいつも、そこまで考えて正気にかえる。そんなことしたらダメだよって自分に言い聞かせる。

 なのに今夜はつい、衝動的に家を出てしまった。

「ホクトくんが見つけてくれなかったら、今頃僕は……」

 改めてゾッとする。ホクトくんは僕の手を握ってくれた。


「とはいえ、困ったものだ。このまま母さんの命令を無視していたら、君はいびり殺されてしまう」

 守ってあげたくても、昼間はどうしても頭がぼんやりしてしまうのだとホクトくんは言った。

「母さんを目の前にすると、何を言おうとしていたのかふっと忘れてしまうんだ」
「それっ……ザクロさんの呪いかもしれないよ」
「呪い?」
「ザクロさんはおっ……んん! ほら、これと一緒でさ」

 ホクトくんはピンとこないようだった。僕も、口にしてみてから、少し恥ずかしくなった。いまどき「呪い」だなんて。おとぎ話の読み過ぎかもしれない。

「とりあえず今は、一緒にお使いをクリアする方法を考えよう」
「でも、あんなおつかい無理だよ……」
「弱気になっちゃだめだ。神は人に果たせないお使いなんて課さない!」

 ホクトくんは僕の肩をバシバシと叩いた。

「いたっ! ダメだよホクトくん。灰が飛んじゃう」
「構うものか! いくらでも飛ばしたまえ!」

 僕は笑ってしまった。ホクトくんの言葉で、ちょっとだけ勇気が湧いてきた。

「ありがとう、ホクトくん」

 このお使いを課したのは、神様じゃなくてザクロさんなんだけど。それは言いっこなしにした。このお使いの意味だって、神様はきっとご存じだ。

 ホクトくんは、しばらく部屋を行ったり来たりしていたが、ふいに立ち止まり、僕を振り返った。

「いい考えがある!」 

 ホクトくんは、壁に取り付けられた呼び鈴の紐を引いた。







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