7 / 182
第一章 森のほとり
4 父さんの手紙
しおりを挟む
4 父さんの手紙
「ザクロさんは、どうして僕のことを死んだなんて言ったんだろう……」
僕はホクトくんから距離をとりながら言った。
「君に手紙が渡らないようにするためさ」
「どうしてそんな意地悪をするんだろう」
「君が何らかの事実を知るのを恐れているみたいだった。多分相続のことだろう」
なんてこった。僕は相続なんてどうでもよかったのに。ただ、父さんの思いが知りたいだけだ。
「母さんはその役人が来て以来、ますます君に辛く当たってる。手紙が渡る前に君を追い出すか、さもなくば亡き者にしようとしてるに違いない」
僕はホクトくんの顔をまじまじと見た。今日のホクトくんは、別人のよう。なんだかものすごく頼りがいがある。
正直なところ僕は、ホクトくんはイケメンだけどいつもぽーっとしてて、狩りか昼寝しかしない人だと思ってた。
「僕が守ってあげる。だから、辛抱するんだよ」
「ホクトくん……」
「ああ、やっと君にこのことが言えたよ」
今夜はなぜか調子がいいと言って、ホクトくんは笑った。
「とにかく、君が出ていくなんておかしい。だってここは、君の家なんだ」
「そりゃ……僕だって、ずっとここで暮らしたいよ」
ここは父さんと母さんの思い出が詰まった家だから。僕もこの家の家族だから。父さんとの約束通り、ザクロさんとも仲良く暮らしたい。
だけど、時々限界になる。いっそ全部手放してしまおうと思ったことは、一度や二度じゃない。出ていく夢なら何度も見た。想像もした。
ここから飛び出したなら、どうなるかなって。
この屋敷を囲むのは、人の恐れる常冬の森。だけど僕は吸い寄せられるように、氷の森に入っていく……。
僕はいつも、そこまで考えて正気にかえる。そんなことしたらダメだよって自分に言い聞かせる。
なのに今夜はつい、衝動的に家を出てしまった。
「ホクトくんが見つけてくれなかったら、今頃僕は……」
改めてゾッとする。ホクトくんは僕の手を握ってくれた。
「とはいえ、困ったものだ。このまま母さんの命令を無視していたら、君はいびり殺されてしまう」
守ってあげたくても、昼間はどうしても頭がぼんやりしてしまうのだとホクトくんは言った。
「母さんを目の前にすると、何を言おうとしていたのかふっと忘れてしまうんだ」
「それっ……ザクロさんの呪いかもしれないよ」
「呪い?」
「ザクロさんはおっ……んん! ほら、これと一緒でさ」
ホクトくんはピンとこないようだった。僕も、口にしてみてから、少し恥ずかしくなった。いまどき「呪い」だなんて。おとぎ話の読み過ぎかもしれない。
「とりあえず今は、一緒にお使いをクリアする方法を考えよう」
「でも、あんなおつかい無理だよ……」
「弱気になっちゃだめだ。神は人に果たせないお使いなんて課さない!」
ホクトくんは僕の肩をバシバシと叩いた。
「いたっ! ダメだよホクトくん。灰が飛んじゃう」
「構うものか! いくらでも飛ばしたまえ!」
僕は笑ってしまった。ホクトくんの言葉で、ちょっとだけ勇気が湧いてきた。
「ありがとう、ホクトくん」
このお使いを課したのは、神様じゃなくてザクロさんなんだけど。それは言いっこなしにした。このお使いの意味だって、神様はきっとご存じだ。
ホクトくんは、しばらく部屋を行ったり来たりしていたが、ふいに立ち止まり、僕を振り返った。
「いい考えがある!」
ホクトくんは、壁に取り付けられた呼び鈴の紐を引いた。
「ザクロさんは、どうして僕のことを死んだなんて言ったんだろう……」
僕はホクトくんから距離をとりながら言った。
「君に手紙が渡らないようにするためさ」
「どうしてそんな意地悪をするんだろう」
「君が何らかの事実を知るのを恐れているみたいだった。多分相続のことだろう」
なんてこった。僕は相続なんてどうでもよかったのに。ただ、父さんの思いが知りたいだけだ。
「母さんはその役人が来て以来、ますます君に辛く当たってる。手紙が渡る前に君を追い出すか、さもなくば亡き者にしようとしてるに違いない」
僕はホクトくんの顔をまじまじと見た。今日のホクトくんは、別人のよう。なんだかものすごく頼りがいがある。
正直なところ僕は、ホクトくんはイケメンだけどいつもぽーっとしてて、狩りか昼寝しかしない人だと思ってた。
「僕が守ってあげる。だから、辛抱するんだよ」
「ホクトくん……」
「ああ、やっと君にこのことが言えたよ」
今夜はなぜか調子がいいと言って、ホクトくんは笑った。
「とにかく、君が出ていくなんておかしい。だってここは、君の家なんだ」
「そりゃ……僕だって、ずっとここで暮らしたいよ」
ここは父さんと母さんの思い出が詰まった家だから。僕もこの家の家族だから。父さんとの約束通り、ザクロさんとも仲良く暮らしたい。
だけど、時々限界になる。いっそ全部手放してしまおうと思ったことは、一度や二度じゃない。出ていく夢なら何度も見た。想像もした。
ここから飛び出したなら、どうなるかなって。
この屋敷を囲むのは、人の恐れる常冬の森。だけど僕は吸い寄せられるように、氷の森に入っていく……。
僕はいつも、そこまで考えて正気にかえる。そんなことしたらダメだよって自分に言い聞かせる。
なのに今夜はつい、衝動的に家を出てしまった。
「ホクトくんが見つけてくれなかったら、今頃僕は……」
改めてゾッとする。ホクトくんは僕の手を握ってくれた。
「とはいえ、困ったものだ。このまま母さんの命令を無視していたら、君はいびり殺されてしまう」
守ってあげたくても、昼間はどうしても頭がぼんやりしてしまうのだとホクトくんは言った。
「母さんを目の前にすると、何を言おうとしていたのかふっと忘れてしまうんだ」
「それっ……ザクロさんの呪いかもしれないよ」
「呪い?」
「ザクロさんはおっ……んん! ほら、これと一緒でさ」
ホクトくんはピンとこないようだった。僕も、口にしてみてから、少し恥ずかしくなった。いまどき「呪い」だなんて。おとぎ話の読み過ぎかもしれない。
「とりあえず今は、一緒にお使いをクリアする方法を考えよう」
「でも、あんなおつかい無理だよ……」
「弱気になっちゃだめだ。神は人に果たせないお使いなんて課さない!」
ホクトくんは僕の肩をバシバシと叩いた。
「いたっ! ダメだよホクトくん。灰が飛んじゃう」
「構うものか! いくらでも飛ばしたまえ!」
僕は笑ってしまった。ホクトくんの言葉で、ちょっとだけ勇気が湧いてきた。
「ありがとう、ホクトくん」
このお使いを課したのは、神様じゃなくてザクロさんなんだけど。それは言いっこなしにした。このお使いの意味だって、神様はきっとご存じだ。
ホクトくんは、しばらく部屋を行ったり来たりしていたが、ふいに立ち止まり、僕を振り返った。
「いい考えがある!」
ホクトくんは、壁に取り付けられた呼び鈴の紐を引いた。
35
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
朝目覚めたら横に悪魔がいたんだが・・・告白されても困る!
渋川宙
BL
目覚めたら横に悪魔がいた!
しかもそいつは自分に惚れたと言いだし、悪魔になれと囁いてくる!さらに魔界で結婚しようと言い出す!!
至って普通の大学生だったというのに、一体どうなってしまうんだ!?
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる