氷の森で苺摘み〜女装して継母のおつかいに出た少年が王子に愛される話〜

おりたかほ

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第一章 森のほとり

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 ややあって、ドアの外からメイドのメアリの声がした。

「なんでございましょう、ホクト様」

 ホクトくんは、外から僕が見えないようにドアを細く開けて、廊下のメアリに言った。
 
「風呂に入りたいんだ。お湯をたっぷり持ってきてくれ」 
「かしこまりました」 

 メアリが行ってしまうと、ホクトくんは僕の方につかつかと近寄ってきた。そしていきなり、灰で真黒なぼろ雑巾みたいな僕の服を脱がせはじめた。 

「ちょっと、なにしてるの?」 

 ひょいと身体を抱え上げられたかと思うと、そのまま部屋の奥に連れて行かれ、衝立のかげにある、空っぽのバスタブにいれられた。

 まもなくお湯が届いた。

「いいというまで、僕の部屋には誰も入れるな。廊下を見張っていろ」 

 ホクトくんはドアを閉めると鍵をかけ、お湯を持って僕のところにやってきた。

 スズランみたいな香りの、薬草の浮いたお湯を頭からあびせかけられて、しばらく息もできなかった。

 数か月ぶりのお風呂だ。しかもお湯に浸かるのなんて、何年ぶりだろう。そんなことを考えている間に、僕の身体中の垢はすっかり落とされた。 

「さあ、これを着て」 

 ホクト君が差し出したのは、女物のドレス。

「どういうこと???」

 それだけじゃない。コルセットに、チュチュに、絹の靴下に、ガーターベルトまで。どこからひっぱりだしてきたのやら。

「まさかこれ、ザクロさんのじゃ……」

 やっぱり僕は不安になった。さっきはホクトくんを見直したものの……ほんとに信じて大丈夫かな?


あ、あの……僕の着てた服はどうしたの」 
「あれなら、暖炉にくべちゃったよ」

 嘘でしょ?! 僕の馴染みの一張羅……。

「虫食いがひどかったし、すごい匂いだったから。あんなボロボロの紙みたいな布でよく生きてられたね」 

 改めて言われると、そんな酷かったかなと恥ずかしくなる。

「えっと、でも、これはさすがに着れないよ。君の服を貸してくれない?」
「だめだよ」

 笑顔できっぱり断られた。なんで? 困る。僕の服はあれしかなかったのに。

「僕の服を着ても意味はないよ。これは作戦なんだ」
「さくせん?」
「これから君を女の子に変える。いいかい」 

 よかない。僕は首を振る。

「だったら裸族になるということかい」

 キリッとした眉で、真剣に問いかけてくるホクトくん。ザクロさんとは別ベクトルで怖い。僕は仕方なく、ドレスを着ることにした。

 ホクトくんは、着方が分からない僕を手伝ってくれながら、「シブヤイチマルキウ」について、いろいろ教えてくれた。世の女性達の憧れの店なんだとか。

「次、これをかぶる」
「カツラまで?!」
「ウィッグと言ってくれ」

 良いところのお嬢さんに成りすましてしまえば、堂々とザクロさんのお使いを果たすことができる。

 というのが、ホクトくんの考えなのだ。 

「な、なるほど……??」

 一理はあるけど、無理が百倍あるような。

「できた!こっちを向いてごらん」 

 コルセットがきつくて息ができなかったけど、なんとかホクトくんのほうを振り向いた。

「なっ……!」

 突然、ホクトくんは胸を抑えると、めまいがしたように数歩後ずさって、カーテンにしがみついた。 

「どうしたの?」 

 慌ててホクトくんに駆け寄る。もしかして、ザクロさんの呪いだろうか。僕なんかに親切にしたせいで。

「なっ……なんて愛らしいんだ!」 

 ホクトくんはただでさえ大きな目をさらに見開いて、僕の周りをぐるぐる回り始めた。 

「憂いを帯びた切れ長の瞳! 流れる黄金色の巻き毛! 気品溢れる立ち姿! 華奢でしなやかな四肢! 透き通るように白い肌! ああ、どうしよう!」 

 そう言うなりひざまづいて、僕の脚に抱きついてきた。引き剥がそうとするんだけど、コルセットのせいで力が全然入らない。 

「どうしよう。思った通り……いや、はるかに想像を超えていた! 君は、僕の理想の女性そのものだ」 

 ホクトくんは熱にうかされたような表情で僕を見上げる。

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