氷の森で苺摘み〜女装して継母のおつかいに出た少年が王子に愛される話〜

おりたかほ

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第三章 芥子畑

4 世は情け

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4 世は情け


「手伝ってください!僕の幼馴染を、助けたいんです!」
「いいよ」
「どうか力を貸してください!」
「だから、いいですよ」

 なにをどう助けるのかよく分からなかったけど、とりあえず、彼を手伝ってあげることにした。

「ほんとに?! 快諾過ぎて逆に心配なんですが」
「だって、なんかほっとけないし」

 黒ずくめ君は僕を固くハグし、感極まった涙声で、ありがとうとささやいた。

「わかったから、離せって」

 苦しいなあともがいていると、いきなり髪をかき上げられて、くびすじにキスされた。

「わーわーわー!」

 大声を上げて、突き飛ばす。とりはだが!

「きもい!」
「あなたの首筋があまりにいい香りだったもので、つい……」
「どうせ汗のにおいだろ、汗!」

 黒ずくめ君の距離感とパッションにはほとほと調子を狂わされる。

「それより僕は、なにをどう手伝えばいいの」
「時間がない。道々話しましょう!」

 ……人の匂いを嗅ぐ時間はあったのに?! 
 
 黒ずくめ君は僕の身体を抱えて馬上に座らせてから、自分もその後ろにまたがった。

「はっ!」

 黒ずくめ君が、掛け声とともに鐙を踏む。黒い駿馬は颯爽と駆けて、にぎやかな街道を行く。

 次第に緑が多くなり、大きな屋敷の立ち並ぶ閑静な街並みに出ると、馬はすこし走る速度を緩めた。ここはどこだろう?

「ねえ黒ずくめ君……黒ずくめ君」
「ん?」
「どこに向かってるの」

 黒ずくめ君は「あそこです」と丘の上を指さした。

「お城?」
「ええ」
「そういやさっき言ってたね。お城で舞踏会があるとか何とか……」

 黒ずくめ君が頷く。

「今夜の舞踏会、名目上は大妃様の誕生祝ですが、真の目的はそうではありません。」
「え?」
「年頃の娘を全て集めて、この国で最も美しく聡明な領主にふさわしい花嫁を選ぼうとしているんです」
「ふーん」

 シブヤ領主といえば、この国の皇太子でもあるはずだ。つまりは未来の王妃になる人が選ばれるということか。

「君の幼馴染も出席するのか。その舞踏会に」
「嫌がってはいましたが、欠席は不可能でしょう」

 僕の腰に回された黒ずくめ君の腕に、すこし力がこもる。

「そこから救出するお手伝いを頼みたいんです」
「救出?」

 お城での舞踏会に、何か危険でもあるというのか? 僕には話が見えない。

「国のためならばと、僕はあの人をあきらめようとしました。でも、それは間違いだった。あの人の幸せを第一に考えるべきだった。僕はもう、あの人の意にそまぬ結婚を黙って見ているわけにはいきません……」
「……意にそまぬ結婚?」

 僕はようやく、ぴんときた。笑い出したくなるのをこらえて、黒ずくめ君の顔を見上げる。黒ずくめ君がすごーく思い詰めてるから、どんな救出劇になるのかと思いきや。

「要は、君の幼馴染を舞踏会から連れ出したいってこと?」
「その通り」

 黒ずくめ君は、幼馴染の女の子が領主の目に留まって妃になってしまうのを恐れているんだ。

 それだけで世を儚んでいたなんて。側から見れば可笑しすぎる。シンデレラに選ばれる確率はうんと低いのに。

「心配しすぎじゃないかなあ。その子がいくら素敵だからってさ……」
「甘い。あの人と同じくらい甘い。」
「え?」
「あの人が嫌がったところで、王さまと妃さまが黙っているわけがない」

 そういうと、黒ずくめ君はがっくりと肩を落としてため息をついた。

「ええ?!」
「あるいは官僚たちがもう、めぼしい女性には白羽の矢を当てているでしょう。領主様の結婚はすでに仕組まれている可能性が大きい」


 そっかあ。そういうものなんだね。とはいえ、黒ずくめ君は、その子が世界一素敵な子だと思ってるんだ。絶対に、皇太子妃に選ばれちゃうと思ってるんだ……!黒ずくめ君の深刻な表情が、急にほほえましく見えた。

「黒ずくめ君は本当にその子が好きなんだね」

 黒ずくめ君は顔を赤らめた。

「さっきから気になってたんですが、クロズクメクンて、わたしの事ですか」
「あ、ごめん。名前なんていうの?」
「ジュン、て呼んでください」
「ジュンね。僕はアリオトっていうの。今更だけどよろしく」
「アリオト……いい名前ですね」

 黒ずくめ君、いや、ジュンは、どこか上の空。馬を走らせながら物思いに耽っている。

「ただ、作戦上、今宵は女性の名でお呼びしましょう」

 ジュンは僕の女名を考え始めた。凝った名前を色々あげてくれるが、貴族の名前は長ったらしくて、僕は覚えていられるかも怪しい。そこで母さんの名前であるアリスをここでも使うことにした。これならとっさに名乗ることになっても間違えないからだ。

「どんな作戦なの」

 聞いてみるけど、今はもう、お城にいるであろう幼馴染のことしか頭にないみたい。

「この小径を出たら、じきに到着です。城の裏口を通るまで、僕のマントを貸しますから、フードをしっかりかぶっていてください」
「裏口から忍び込むの?」
「いえ、裏口から堂々と行きます」
「……?」

 陽は中天を過ぎている。

 なだらかな丘のふもとには御堀があり、深緑の水辺に柳と睡蓮がゆれる。橋を渡ると間もなく、そびえたつ城壁が見えてきた。

 


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