氷の森で苺摘み〜女装して継母のおつかいに出た少年が王子に愛される話〜

おりたかほ

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第三章 芥子畑

5 衣装部屋にて

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5 衣装部屋にて



 正門には、たくさんの着飾った貴族や豪華な馬車が集まっている。そこを迂回してしばらく城壁に沿って進む。門番の立つ黒い門が見えると、ジュンはすっと姿勢を正した。僕はあわてて、ジュンの貸してくれた黒いマントを頭からかぶった。

「お帰りなさいませ」

 門番たちは槍を引っ込めて、道を開けた。ジュンは小さく会釈すると、何食わぬ顔で馬を進めた。

 この人、城に顔パスで入っちゃったよ。

 ジュンの黒馬が通ると、城の家臣や使用人たちが腰をかがめて道を開ける。かなり身分が高いと見て良さそうだ。

「ジュン!」

 遠くから僕たちの姿を認めた青年が駆け寄ってくる。

「午前の式典はどうしたんだよ? 領主様が探しておいでだったぞ!」
「すまん。公務だ」
「公務? お后様のご生誕祝いの最中に?」

 ジュンに親しげに話しかける青年は、晴れの衣装に身を包んでいる。やはり貴族の令息か何かなのだろう。

「……その娘は?」

 僕は内心ヒヤヒヤしながら顔を伏せる。

「招待客のご令嬢だ。城に向かう途中で足を挫かれていたのでお連れした」
「それはそれは……」
「じゃあなトーマ、また後ほど」

 そう言うと、何食わぬ顔で青年の前を通り過ぎた。

「やなやつに見られたな」

 ジュンがつぶやいた。

「人気のないところへ行きましょう」

 巨大迷路みたいな庭園を抜けると、小さな池とあづまやがあった。ジュンはひらりと馬を降りて、僕を抱え下ろしてくれた。

「お疲れは出ませんでしたか、アリスさん!」

 ここまでスタイリッシュに女扱いされるとさすがに笑ってしまう。「さあこちらへ」と、華麗にエスコートしてくれる。

「……あの人は、僕を待っていてくれるでしょうか」

 ジュンはふいに、城の一角の高い塔を見上げて、切なそうに唇をかみしめる。

 僕はジュンの肩をたたいて励ます。ジュンは馬を繋ぐと、僕を連れて城の方へと歩き出した。

「ねえ、その子の名前は?」
「ケイト、と言います」

 この質問を境に、ジュンの惚気が始まった。

 ケイトが、いかに素敵な子であるか。微に入り細に入り聞かされている間に、僕らは城の中に足を踏み入れていた。

 人目に触れない道を選んでいるのか、ジュンは複雑なルートで、城内をすすむ。僕はどの階段を上ってどの廊下をどうやって歩いてきたのか全くわからない。

「美しくて、聡明で、慈悲深い……でも、誰よりも孤独な人なんです……」

 ジュンはもの思いにふけりながらも、勝手知ったる様子で城内を進む。お城は広い。壁画も天井も豪奢だ。けれど重苦しい。想像していたよりも暗くて、そして寂しい感じがした。

「あ、すみません、一人でべらべらと……」

 ジュンは大きな扉の前で立ち止まると、我に返ったみたいに、そのハンサムな顔を赤らめた。

「ううん。その子のことが、ジュンは大好きなんだね」
「ずっとふられてますがね……」

 ジュンは扉を開けた。通されたのは、二家族ぐらい生活できそうな勢いで広い衣裳部屋。

「まずはここであなたの衣装を整えましょう」
「え、僕の?」
「その恰好では目立ちすぎます」

 確かに。もうおきゃましてる必要ないし。スカートは泥だらけ、靴下も破れてるしな。

「これを着てください。私は外を見張ってますから」

 手渡された服を見てぎょっとする。

「待って、またドレス着るのやだよー。男の服がいいー」

 ちょっと期待した分、思わず泣きそうになる。

「今夜は来客の女性が多いですから。お城でうろつくにはその恰好が一番です」
「なんでよ。豚飼いでも料理番でも警備員でもなんでもいいじゃん」
「それじゃあ、ケイトに自然に近づくことができないじゃないですか」

 ジュンの計画はこう。

 まず、舞踏会の大広間にいるケイトをジュンが僕のところへ連れて来る。ただし、ケイトにジュンが本作戦の旨を伝えて、合意してくれたらの話らしい。

「拒否られることもある?」
「ないとは言い切れません」
「そしたら諦める?」
「無理強いはできませんがなんとか説得するか騙すかして……」
「いや、そこは諦めようね。僕ストーカーの手伝いはできないからね」

 これは、最初の段階で頓挫することも大いにありそうだ。

「とりあえず、作戦の続きを話しても?」

 次に、僕とケイトは意気投合し、二人で親しげに語らい、広間を出て、夜風に当たりに行く。

「意気投合できなかったら?」
「しなくていいです。してるふりをしてください」
「ふり? なんの意味が?」
「周囲に疑われないためです。この見せかけはとても大事です。頼みますよ」

 二人きりで庭園に出たら、さっき馬を止めたあずまやにいく。先回りしているジュンとそこで落ち合い、二人はそのままエスケープ。残された僕は、ジュンがあずまやに用意しておいてくれる男の服に着替えて、城を出る。

「以上?」
「以上です」

 ジュンの作戦は、意外と普通だった。

「作戦て言うから身構えちゃったよ」
「協力してくれますか?」
「うん、いいよ」
「なんと頼もしい!」

 女装して広間に忍び込むのは確かに気が重いけど、ジュンのためだ。そこさえ我慢すれば、あとは女子トークで盛り上がる振りをして、外に出ればいいだけ。

 余裕を取り戻した僕に対して、ジュンはすごくピリピリしている。ドアの外を伺ったり、部屋を歩き回ったり。それだけ真剣なんだなと同情する。安心させるためにも、僕はきちんと女装することにした。






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