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第十章 近衛隊長の屋敷
3 繕い物と調べ物
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3 繕い物と調べ物
書斎で本を読んでいるうちに、ジュンが帰ってきた。
夕食を終えるやいなや、ジュンはまた僕を膝に乗せようとするから困る。
僕は後片付けを手伝うと言って、厨房へ逃れた。洗い物が済んだ後もなんとなく戻りたくなくて、厨房のテーブルにつき、マーサさんの隣で明日の下拵えを手伝っていた。
そこへ、マリアさんがやって来た。目を擦ったり肩を回したり、ずいぶん疲れている。
「マリア、終わったのかい」
「うん。遅くなっちゃったけど、なんとかね。そろそろ失礼するわ」
「夕飯を食べてお行き」
「ありがと……」
目をあげたマリアさんは、ここで僕に気がついて、あっと声をあげた。僕は立ち上がって挨拶した。
「お疲れ様です。あの……さっきは失礼しました」
「い、いいえ……」
マリアさんは少し顔を赤らめた。僕は椅子をすすめて、マリアさんのために取ってあったパンと香草焼きの皿を出した。マーサさんは僕をマリアさんに紹介してくれた。
「あなたがオトさんでしたか。母がお世話になって……」
「お世話になってるのは僕の方だよ……はいどうぞ」
暖炉のお鍋からスープをよそって渡す。僕は向かいの椅子に座って、マリアさんが食べるのを見守った。
「美味しい?」
マリアさんはほっとため息をつき、笑顔でうなずいてくれた。
「マリアさんはあの後ずっと、部屋でお裁縫をしてたの?」
「ええ、そうなんです」
マリアさんは、ふと何か思い出したようで、裁縫道具の入ったバスケットから巻き尺を取り出した。
「……オトさん、ちょっと、測らせていただいてもいいですか」
そういうなり、僕の肩や腕、胴回りなどの寸法を測った。
「まあ、なんですかマリア、藪から棒に」
「すごいわ。ぴったり……」
マリアさんは、驚いたように首を振った。実は今日、マリアさんは僕の服をいくつか仕立ててくれたそうだ。
「お仕事って、僕の服を作ることだったの?」
僕はびっくりしてしまった。
「ええ。寸法を測らせていただこうとしたら、ジュン様が、大体このくらい……なんて言ってスラスラとあなたのサイズをおっしゃったの」
「えっ……」
「事前に測っていただいたのですかって尋ねたら、そうじゃないっておっしゃるの。だから不安で。でも安心しました。寸分違わずピッタリでした……」
「へー!なんでわかるんだろう。ジュンはそんなとこまで有能なんだねえ」
僕は感心してしまった。マーサさんも深くうなずいた。
「そうなんですよ、ジュン様は一度見聞きしたことは全て覚えてしまうんじゃないかと思うことがありますよ」
すごいすごいと僕とマーサさんで盛り上がる。マリアさんは巻き尺をしまうと、食事を再開した。なんだか少し急いでいるみたい。
「マリアさん、僕のために遅くまでありがとう。大切に着るね」
僕はお礼を言った。その瞬間、マリアさんは食べ物を喉に詰まらせた。
「大丈夫?!」
お水を差し出す。マリアさんは僕の顔を見て、なぜか赤くなった。
「どうしたの?」
「い、いえ……」
なんだかちょっと不安がよぎった。
「一応確認なんだけど、僕の服って、ちゃんと男物だよね……?」
「えーと、はい、あの、ほとんどは……」
「ほとんど……」
一つじゃなかったのにも驚いたけど、ほとんどという言葉に引っかかる。それは、男物以外も混じってるってことなのでは。
「ごめんなさい、何を仕立てたかは、誰にも言うなというお約束なんです」
「僕にも?」
僕はため息をついた。今度は一体、何を着せるつもりなんだ?
「きっと秘密にしておいて、オトさんをびっくりさせたいんですよ」
マーサさんはそう言って笑った。僕はその言葉に頷きながらも、チラとマリアさんを見た。
マリアさんは僕と目を合わせない。赤い顔で俯いて、ひたすらスープをかきまぜている。だめだもう、嫌な予感しかしないよ……。
「マリアさん、何を作らされたのか知らないけど……誰にも言わないでね」
「もちろんです」
「せっかく作ってくれたのに申し訳ないけど……とんでもなく変なのだったら、僕着なくてもいい?」
「ええ、そうなさるのがいいと思います」
マリアさんは僕の言葉に深くうなずいた。なんということだ。否定して欲しかったのに……。
「うう……そんなに変なものなんだね……」
「あっ、すみません……そうですね、そんなに変なものでは……」
僕がじっと目を見つめると、マリアさんはさらに赤くなって、ごめんなさい嘘は申せませんと言った。
「はあああ……」
テーブルに突っ伏した僕の背中を、マリアさんとマーサさんがさすってくれた。
*********
マリアさんが食べ終わるまで、もう少しお話をした。
マリアさんは宮廷のことに詳しかった。僕が本好きだと言ったら、マリアさんは王宮内に立派な図書館があることを教えてくれた。ジュンの許可があれば僕でも入れるはずだという。明日、ジュンが許してくれたら、調べ物の続きをしてみようかと思う。
マリアさんが帰るというので玄関から見送ろうとしたら、ジュンに止められた。
「マリアさん、大変申し訳ないが帰りは裏口から……」
ジュンはマリアさんに何やら耳打ちした。
「僕が送るよ」
僕は勝手口の外までマリアさんを送って行った。
「絶対に誰にも言わないでね」
「大丈夫。誰にも言いません。そういう契約ですし、何より、オトさんの名誉のために」
マリアさんと僕はゆびきりをして別れた。
書斎で本を読んでいるうちに、ジュンが帰ってきた。
夕食を終えるやいなや、ジュンはまた僕を膝に乗せようとするから困る。
僕は後片付けを手伝うと言って、厨房へ逃れた。洗い物が済んだ後もなんとなく戻りたくなくて、厨房のテーブルにつき、マーサさんの隣で明日の下拵えを手伝っていた。
そこへ、マリアさんがやって来た。目を擦ったり肩を回したり、ずいぶん疲れている。
「マリア、終わったのかい」
「うん。遅くなっちゃったけど、なんとかね。そろそろ失礼するわ」
「夕飯を食べてお行き」
「ありがと……」
目をあげたマリアさんは、ここで僕に気がついて、あっと声をあげた。僕は立ち上がって挨拶した。
「お疲れ様です。あの……さっきは失礼しました」
「い、いいえ……」
マリアさんは少し顔を赤らめた。僕は椅子をすすめて、マリアさんのために取ってあったパンと香草焼きの皿を出した。マーサさんは僕をマリアさんに紹介してくれた。
「あなたがオトさんでしたか。母がお世話になって……」
「お世話になってるのは僕の方だよ……はいどうぞ」
暖炉のお鍋からスープをよそって渡す。僕は向かいの椅子に座って、マリアさんが食べるのを見守った。
「美味しい?」
マリアさんはほっとため息をつき、笑顔でうなずいてくれた。
「マリアさんはあの後ずっと、部屋でお裁縫をしてたの?」
「ええ、そうなんです」
マリアさんは、ふと何か思い出したようで、裁縫道具の入ったバスケットから巻き尺を取り出した。
「……オトさん、ちょっと、測らせていただいてもいいですか」
そういうなり、僕の肩や腕、胴回りなどの寸法を測った。
「まあ、なんですかマリア、藪から棒に」
「すごいわ。ぴったり……」
マリアさんは、驚いたように首を振った。実は今日、マリアさんは僕の服をいくつか仕立ててくれたそうだ。
「お仕事って、僕の服を作ることだったの?」
僕はびっくりしてしまった。
「ええ。寸法を測らせていただこうとしたら、ジュン様が、大体このくらい……なんて言ってスラスラとあなたのサイズをおっしゃったの」
「えっ……」
「事前に測っていただいたのですかって尋ねたら、そうじゃないっておっしゃるの。だから不安で。でも安心しました。寸分違わずピッタリでした……」
「へー!なんでわかるんだろう。ジュンはそんなとこまで有能なんだねえ」
僕は感心してしまった。マーサさんも深くうなずいた。
「そうなんですよ、ジュン様は一度見聞きしたことは全て覚えてしまうんじゃないかと思うことがありますよ」
すごいすごいと僕とマーサさんで盛り上がる。マリアさんは巻き尺をしまうと、食事を再開した。なんだか少し急いでいるみたい。
「マリアさん、僕のために遅くまでありがとう。大切に着るね」
僕はお礼を言った。その瞬間、マリアさんは食べ物を喉に詰まらせた。
「大丈夫?!」
お水を差し出す。マリアさんは僕の顔を見て、なぜか赤くなった。
「どうしたの?」
「い、いえ……」
なんだかちょっと不安がよぎった。
「一応確認なんだけど、僕の服って、ちゃんと男物だよね……?」
「えーと、はい、あの、ほとんどは……」
「ほとんど……」
一つじゃなかったのにも驚いたけど、ほとんどという言葉に引っかかる。それは、男物以外も混じってるってことなのでは。
「ごめんなさい、何を仕立てたかは、誰にも言うなというお約束なんです」
「僕にも?」
僕はため息をついた。今度は一体、何を着せるつもりなんだ?
「きっと秘密にしておいて、オトさんをびっくりさせたいんですよ」
マーサさんはそう言って笑った。僕はその言葉に頷きながらも、チラとマリアさんを見た。
マリアさんは僕と目を合わせない。赤い顔で俯いて、ひたすらスープをかきまぜている。だめだもう、嫌な予感しかしないよ……。
「マリアさん、何を作らされたのか知らないけど……誰にも言わないでね」
「もちろんです」
「せっかく作ってくれたのに申し訳ないけど……とんでもなく変なのだったら、僕着なくてもいい?」
「ええ、そうなさるのがいいと思います」
マリアさんは僕の言葉に深くうなずいた。なんということだ。否定して欲しかったのに……。
「うう……そんなに変なものなんだね……」
「あっ、すみません……そうですね、そんなに変なものでは……」
僕がじっと目を見つめると、マリアさんはさらに赤くなって、ごめんなさい嘘は申せませんと言った。
「はあああ……」
テーブルに突っ伏した僕の背中を、マリアさんとマーサさんがさすってくれた。
*********
マリアさんが食べ終わるまで、もう少しお話をした。
マリアさんは宮廷のことに詳しかった。僕が本好きだと言ったら、マリアさんは王宮内に立派な図書館があることを教えてくれた。ジュンの許可があれば僕でも入れるはずだという。明日、ジュンが許してくれたら、調べ物の続きをしてみようかと思う。
マリアさんが帰るというので玄関から見送ろうとしたら、ジュンに止められた。
「マリアさん、大変申し訳ないが帰りは裏口から……」
ジュンはマリアさんに何やら耳打ちした。
「僕が送るよ」
僕は勝手口の外までマリアさんを送って行った。
「絶対に誰にも言わないでね」
「大丈夫。誰にも言いません。そういう契約ですし、何より、オトさんの名誉のために」
マリアさんと僕はゆびきりをして別れた。
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