氷の森で苺摘み〜女装して継母のおつかいに出た少年が王子に愛される話〜

おりたかほ

文字の大きさ
62 / 182
第十章 近衛隊長の屋敷

3 繕い物と調べ物

しおりを挟む
3 繕い物と調べ物



 書斎で本を読んでいるうちに、ジュンが帰ってきた。

 夕食を終えるやいなや、ジュンはまた僕を膝に乗せようとするから困る。

 僕は後片付けを手伝うと言って、厨房へ逃れた。洗い物が済んだ後もなんとなく戻りたくなくて、厨房のテーブルにつき、マーサさんの隣で明日の下拵えを手伝っていた。

 そこへ、マリアさんがやって来た。目を擦ったり肩を回したり、ずいぶん疲れている。

「マリア、終わったのかい」
「うん。遅くなっちゃったけど、なんとかね。そろそろ失礼するわ」
「夕飯を食べてお行き」
「ありがと……」

 目をあげたマリアさんは、ここで僕に気がついて、あっと声をあげた。僕は立ち上がって挨拶した。

「お疲れ様です。あの……さっきは失礼しました」
「い、いいえ……」

 マリアさんは少し顔を赤らめた。僕は椅子をすすめて、マリアさんのために取ってあったパンと香草焼きの皿を出した。マーサさんは僕をマリアさんに紹介してくれた。

「あなたがオトさんでしたか。母がお世話になって……」
「お世話になってるのは僕の方だよ……はいどうぞ」

 暖炉のお鍋からスープをよそって渡す。僕は向かいの椅子に座って、マリアさんが食べるのを見守った。

「美味しい?」

 マリアさんはほっとため息をつき、笑顔でうなずいてくれた。

「マリアさんはあの後ずっと、部屋でお裁縫をしてたの?」
「ええ、そうなんです」

 マリアさんは、ふと何か思い出したようで、裁縫道具の入ったバスケットから巻き尺を取り出した。

「……オトさん、ちょっと、測らせていただいてもいいですか」

 そういうなり、僕の肩や腕、胴回りなどの寸法を測った。

「まあ、なんですかマリア、藪から棒に」
「すごいわ。ぴったり……」

 マリアさんは、驚いたように首を振った。実は今日、マリアさんは僕の服をいくつか仕立ててくれたそうだ。

「お仕事って、僕の服を作ることだったの?」

 僕はびっくりしてしまった。

「ええ。寸法を測らせていただこうとしたら、ジュン様が、大体このくらい……なんて言ってスラスラとあなたのサイズをおっしゃったの」
「えっ……」
「事前に測っていただいたのですかって尋ねたら、そうじゃないっておっしゃるの。だから不安で。でも安心しました。寸分違わずピッタリでした……」
「へー!なんでわかるんだろう。ジュンはそんなとこまで有能なんだねえ」

 僕は感心してしまった。マーサさんも深くうなずいた。

「そうなんですよ、ジュン様は一度見聞きしたことは全て覚えてしまうんじゃないかと思うことがありますよ」

 すごいすごいと僕とマーサさんで盛り上がる。マリアさんは巻き尺をしまうと、食事を再開した。なんだか少し急いでいるみたい。

「マリアさん、僕のために遅くまでありがとう。大切に着るね」

 僕はお礼を言った。その瞬間、マリアさんは食べ物を喉に詰まらせた。

「大丈夫?!」

 お水を差し出す。マリアさんは僕の顔を見て、なぜか赤くなった。

「どうしたの?」
「い、いえ……」

 なんだかちょっと不安がよぎった。

「一応確認なんだけど、僕の服って、ちゃんと男物だよね……?」
「えーと、はい、あの、ほとんどは……」
「ほとんど……」

 一つじゃなかったのにも驚いたけど、ほとんどという言葉に引っかかる。それは、男物以外も混じってるってことなのでは。

「ごめんなさい、何を仕立てたかは、誰にも言うなというお約束なんです」
「僕にも?」

 僕はため息をついた。今度は一体、何を着せるつもりなんだ? 

「きっと秘密にしておいて、オトさんをびっくりさせたいんですよ」

 マーサさんはそう言って笑った。僕はその言葉に頷きながらも、チラとマリアさんを見た。

 マリアさんは僕と目を合わせない。赤い顔で俯いて、ひたすらスープをかきまぜている。だめだもう、嫌な予感しかしないよ……。

「マリアさん、何を作らされたのか知らないけど……誰にも言わないでね」
「もちろんです」
「せっかく作ってくれたのに申し訳ないけど……とんでもなく変なのだったら、僕着なくてもいい?」
「ええ、そうなさるのがいいと思います」

 マリアさんは僕の言葉に深くうなずいた。なんということだ。否定して欲しかったのに……。

「うう……そんなに変なものなんだね……」
「あっ、すみません……そうですね、そんなに変なものでは……」

 僕がじっと目を見つめると、マリアさんはさらに赤くなって、ごめんなさい嘘は申せませんと言った。

「はあああ……」

 テーブルに突っ伏した僕の背中を、マリアさんとマーサさんがさすってくれた。


*********

  
 マリアさんが食べ終わるまで、もう少しお話をした。

 マリアさんは宮廷のことに詳しかった。僕が本好きだと言ったら、マリアさんは王宮内に立派な図書館があることを教えてくれた。ジュンの許可があれば僕でも入れるはずだという。明日、ジュンが許してくれたら、調べ物の続きをしてみようかと思う。

 マリアさんが帰るというので玄関から見送ろうとしたら、ジュンに止められた。

「マリアさん、大変申し訳ないが帰りは裏口から……」

 ジュンはマリアさんに何やら耳打ちした。

「僕が送るよ」

 僕は勝手口の外までマリアさんを送って行った。

「絶対に誰にも言わないでね」
「大丈夫。誰にも言いません。そういう契約ですし、何より、オトさんの名誉のために」

 マリアさんと僕はゆびきりをして別れた。





 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったら引くほど執着されてた

BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。 けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。 もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。 ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。 「俺と二人組にならない?」 その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。 執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

処理中です...