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第十章 近衛隊長の屋敷
2 ジュンの書斎
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2 ジュンの書斎
ジュンは、さっきのメイドさんに話があるのだそうだ。僕に服を渡し、自分も手早く着替えると、すぐ戻ると言って応接間に行ってしまった。
僕はバルコニーに出て、風に当たった。少しのぼせたみたいだし、人々の秘密の営みを知ってしまったショックも大きかった。世界の見え方まで一変してしまいそうだ。
午後の日は、徐々に傾きはじめていた。いつも通りの昼下がり。行き来する兵士達も、貴族たちも、下働きの人たちも、平穏な一日を過ごしている。
だがしかし。あの人もこの人も、あの刺激の凄まじさを知った上での、この平穏な表情なのだ……。
不意に、領主様の膝の上で聞いた喘ぎ声を思い出して、僕は手すりに突っ伏した。流石にあのことはジュンにも言えない。知らなかったとはいえ、僕は領主様にとんでもないことをしてしまった。合わせる顔がない。
しばらくするとジュンが戻って来た。
「ずっとこんなところに居たんですか? 風邪をひきますよ」
顔を上げると、あたりは少しずつオレンジ色の夕日に染まり始めていた。
「城内の巡回に行ってきます」
「えっ、また出かけるの?」
てっきり今日の仕事は終わりなのだと思っていた。ジュンは僕の髪を撫でた。
「夕食には帰りますから」
「僕も一緒に行っちゃだめ? 一応、騎士見習いの小姓ってことで……」
一人でじっとしてたら、領主様のことばかり考えてしまいそうだった。
「連れ歩きたいのはやまやまですが」
ジュンは、兵舎の方をちらと見やりながら言った。
「今日、騎士たちが貴方に熱視線を送っていたのに気付きましたか?」
なんのことやら分からなかった。
「兵舎には、貴方と、さっきみたいなことがしたくて仕方ない輩がウヨウヨしているんです」
「えっ……ええええええ」
僕はクラクラしたが、気を取り直して言った。
「ねえ……ジュンてさ、どうしてそんな怖い冗談が思いつくの」
「まあ、貴方が私のものである以上、誰も手出しはしません。片時も離れないと約束してくださるなら一緒に……」
ジュンは真剣に悩んでいるようだった。僕もさすがに怖くなり、お供はやめておくことにした。
屋敷の門まで見送りに出た。兵舎の方にはすでに騎士たちが並んでいるのが見えた。
「なんだ今日は、やけに揃いがいいな……貴方目当てかもしれませんから気をつけて」
「やめてよ」
確かに、騎士たちの視線がこちらに向けられているのは分かった。僕は思わずジュンの背後に隠れてしまった。けど、後で考えたら、騎士たちの視線は、兵長のおでましに対するものに違いなかった。ジュンは真顔で冗談を言うから困る。
「じゃあジュン、頑張ってきてね」
僕は柱の陰から手を振って見送った。
*********
厨房ではマーサさんが夕食の支度をしていた。僕も手伝わせてもらった。
「あら、手際がいいこと」
マーサさんは僕が豆のサヤをむくのも、野菜を切るのも、肉を縛るのも、全て褒めてくれた。おばあちゃんができたみたいで嬉しい。
「そういえば、さっき応接間に知らないメイドさんがいたよ」
「ああ、マリアですね。あれは私の娘なんですよ」
「そうなの?」
マーサさんの娘ともあろう人に、さっきはとんだ失礼をしてしまった。
「あの子は仕立物が得意でね、近頃は随分評判らしいんですよ。時々こうやってお仕事を受けては、貴族の方の家に出向いているんですよ」
「へえ、そうなんだ……マリアさんは、お裁縫が上手なんだね」
今は、上の部屋で仕事をしているらしい。
「僕の家にもメアリって言うメイドさんがいたよ。読み方は違うけど同じ名前だね」
「まあ、それじゃあオトさんは、西の国からいらしたの」
「ううん、僕は違うよ。でもそう、メアリはね、西の出身だった……」
しばらくお互いの家族の話なんかをした。マーサさんの旦那さんは鍛冶場で働いているそうだ。
「マリアさんに、僕、謝らなきゃな……」
「どうしてです?」
「さっき部屋を間違えてびっくりさせちゃったんだ」
さっきのドタバタはマーサさんにも聞こえていたらしい。僕が詳しい状況を説明すると、マーサさんはエプロンで顔を隠してクックと笑った。
「気になさらないでください。気丈な子ですから」
スープも出来上がり、お肉もオーブンの中。洗い物もすませ、ひとまず夕食の下準備はできてしまった。驚いたことに、この屋敷では水を井戸まで汲みにいかなくてもすむ。水道が引かれていて、蛇口が至る所にあるのだった。城内の屋敷は全てそんな仕様らしい。
テーブルもセットした。あとはジュンの帰りを待つばかりだ。厨房のテーブルでひと休みする。マーサさんは僕にお茶を出してくれた。
「あの、他に何かすることはない? お掃除でも、力仕事でも、なんでもするよ」
「まあ頼もしいこと」
マーサさんは嬉しそうにしてくれるけど、自分からは何にもお願いしてくれないのだ。あとは大丈夫ですよと言いながら、どこかへ行こうとする。何かするのかなと後ろからこっそり見守っていた。
マーサさんは手すりにつかまってゆっくりと階段を登り、二階の寝室脇の部屋に入って行った。僕はピンときて階段を駆けあがり、声をかけた。
「書斎の片付け?」
「まあっ」
僕はマーサさんに頼み込んで、片付けを代わらせてもらった。本当に何かしていないと、馬鹿なことばっかり……つまり、悩んでもしょうがない領主様のことばかり、考えてしまうから。
「暖炉に薪を入れて、埃を払って、本を本棚に戻す……ね。了解!」
僕はマーサさんの肩を抱いてくるっと回れ右をさせた。そのまま背中を押して廊下に送り出すと、マーサさんは苦笑した。
「なんだか申し訳ないですね……」
「ぜーんぜん!……ほら、久々に娘さんと会ったんでしょ? お話しておいでよ」
マーサさんが行ってしまうと、僕はランプを灯して、書斎を見まわした。真ん中に大きな机があり、本棚に囲まれたこじんまりした部屋だ。毎日お掃除されているので、ほとんど散らかっていない。僕の仕事はすぐに終わってしまった。
机の上は、マーサさんによれば、あまり触らない方がいいらしい。色々本とか書類が開かれていたけど、そのままにして、埃を払う程度にした。
椅子の背後には、天井からの長いカーテンがある。紐を引いて開けると、そこは壁で、数々の絵が飾られていた。ちょうど僕の視線の高さに、綺麗な少年の絵があった。栗色の髪に鳶色の瞳。幼い頃のケイトらしかった。思わず見とれてしまう。
その隣を見れば、現在の、領主姿のケイトの絵。
「はっ……!こ、これはもしや……」
壁から一歩離れてざっと見渡したところ、この壁の絵は、ケイトを描いたものばっかりだ。
僕は、何も見なかったことにしてカーテンをそっと閉めた。
やはりジュンからケイトを奪って良いはずがないなと思う。ジュンはああ言ってくれるけど、僕は、早くここを出て行くべきなんだ。できるだけ、ケイトの心に何も残さぬ状態で。
ちょうど部屋には本がたくさんあった。どこかに、妖精の魔法を解く方法や、あるいは、恋をなかったことにする方法は書かれていないだろうか。
探してみたけれど、この部屋にあるのは、兵法の本や法律関係の本がほとんどだった。あとは、百科事典や辞書のたぐい。こんなにたくさん本があるのに、恋愛の本なんてどこにもない。
「ジュンて、本棚まで真面目だなあ……」
僕はふと思い立って、スケシタ禁止令とやらが実在するのかを調べることにした。
結果、そのニッチで馬鹿馬鹿しい法律は、ちゃんと実在していた。「法律全書」に刻まれた、大真面目な文言に笑ってしまう。
ついでに「法律で禁じられた品々」という本を読んでみたところ、わかったことがいろいろあった。
スケシタは本来、東の国の魔女たちが使う品物だったらしい。男を誘惑する魔力を宿した衣服として魔女たちが編み出し、恋に悩む女性たちに売り歩いたという伝承があるそうだ。
ただし、十数年まえにシブヤの衣料品店などで大流行したものは、その民間伝承から名前を借りただけの模造品。単なるえっちな下着で、当然、それらに魔力はこもっていない。
「ザクロさんが僕に持ってこいって言ったのは、この模造品の方で良かったのかな」
確か、ザクロさんは「シブヤのイチマルキウで」って言ったと思うんだよな。つまり、市販されてるものでいいってことだよね。
でも一方で、「ちゃんとした物」を持ってこいとも言われたんだ。それは模造品ではなく、本来の魔力がこもったスケシタが欲しいという意味にもとれる。
そうすると、ザクロさんの命令はそもそもが矛盾していたことになる。僕は聞き間違いをしたのだろうか?
あるいはザクロさんは、シブヤのイチマルキウになら模造品だけでなく本物のスケシタもあると思っていたのかもしれない。でも、焚書ならぬ焚シタが行われた後のシブヤでは模造品すら探すのは難しい。
本物の「ちゃんとした」スケシタを手に入れたかったら、東の国の魔女を探す必要があるのかもしれない。なんだか、雲を掴むような話だ。単なる伝説の可能性が高いというのに……。やっぱりただの無茶ぶりだったのかなあ。
「東の国かあ……」
ザクロさんの故郷は東の国だろうと、マフが言っていたことがある。ザクロさんは出身地について何も語らないけど、マフによれば、微かな東訛りがあるのだそうだ。
お父さんが消えたのも東の国の海、ザクロさんの故郷も東の国、ついでに今日お会いした皇女様も東の国のお姫様。ここに来てからというもの、色々な場面で東の国との縁は感じているのに、なかなか実のある情報は得られない。
「そうだ、何か東の国の情報はないかな」
本棚を色々物色するが、なかなかいい本にぶつからない。
東の国といえば、昔ながらの魔法の伝承が盛んな国。父さんの話を聞いて、僕も幼い頃から憧れていた。本当は今日の訪問では、皇女様に東の国のお話をたくさん聞かせてもらいたかったんだけどね。ほとんど口を開く暇もなかったもんな……。
今日の訪問のことをまた反省してしまう。ふと、僕に腰を擦り付けられて顔を真っ赤にしていた領主様の姿が頭をよぎる。
「わあああ、だめ! 変なこと考えるな!」
僕は激しい独り言とともに、本棚にひたいを打ちつけた。
ジュンは、さっきのメイドさんに話があるのだそうだ。僕に服を渡し、自分も手早く着替えると、すぐ戻ると言って応接間に行ってしまった。
僕はバルコニーに出て、風に当たった。少しのぼせたみたいだし、人々の秘密の営みを知ってしまったショックも大きかった。世界の見え方まで一変してしまいそうだ。
午後の日は、徐々に傾きはじめていた。いつも通りの昼下がり。行き来する兵士達も、貴族たちも、下働きの人たちも、平穏な一日を過ごしている。
だがしかし。あの人もこの人も、あの刺激の凄まじさを知った上での、この平穏な表情なのだ……。
不意に、領主様の膝の上で聞いた喘ぎ声を思い出して、僕は手すりに突っ伏した。流石にあのことはジュンにも言えない。知らなかったとはいえ、僕は領主様にとんでもないことをしてしまった。合わせる顔がない。
しばらくするとジュンが戻って来た。
「ずっとこんなところに居たんですか? 風邪をひきますよ」
顔を上げると、あたりは少しずつオレンジ色の夕日に染まり始めていた。
「城内の巡回に行ってきます」
「えっ、また出かけるの?」
てっきり今日の仕事は終わりなのだと思っていた。ジュンは僕の髪を撫でた。
「夕食には帰りますから」
「僕も一緒に行っちゃだめ? 一応、騎士見習いの小姓ってことで……」
一人でじっとしてたら、領主様のことばかり考えてしまいそうだった。
「連れ歩きたいのはやまやまですが」
ジュンは、兵舎の方をちらと見やりながら言った。
「今日、騎士たちが貴方に熱視線を送っていたのに気付きましたか?」
なんのことやら分からなかった。
「兵舎には、貴方と、さっきみたいなことがしたくて仕方ない輩がウヨウヨしているんです」
「えっ……ええええええ」
僕はクラクラしたが、気を取り直して言った。
「ねえ……ジュンてさ、どうしてそんな怖い冗談が思いつくの」
「まあ、貴方が私のものである以上、誰も手出しはしません。片時も離れないと約束してくださるなら一緒に……」
ジュンは真剣に悩んでいるようだった。僕もさすがに怖くなり、お供はやめておくことにした。
屋敷の門まで見送りに出た。兵舎の方にはすでに騎士たちが並んでいるのが見えた。
「なんだ今日は、やけに揃いがいいな……貴方目当てかもしれませんから気をつけて」
「やめてよ」
確かに、騎士たちの視線がこちらに向けられているのは分かった。僕は思わずジュンの背後に隠れてしまった。けど、後で考えたら、騎士たちの視線は、兵長のおでましに対するものに違いなかった。ジュンは真顔で冗談を言うから困る。
「じゃあジュン、頑張ってきてね」
僕は柱の陰から手を振って見送った。
*********
厨房ではマーサさんが夕食の支度をしていた。僕も手伝わせてもらった。
「あら、手際がいいこと」
マーサさんは僕が豆のサヤをむくのも、野菜を切るのも、肉を縛るのも、全て褒めてくれた。おばあちゃんができたみたいで嬉しい。
「そういえば、さっき応接間に知らないメイドさんがいたよ」
「ああ、マリアですね。あれは私の娘なんですよ」
「そうなの?」
マーサさんの娘ともあろう人に、さっきはとんだ失礼をしてしまった。
「あの子は仕立物が得意でね、近頃は随分評判らしいんですよ。時々こうやってお仕事を受けては、貴族の方の家に出向いているんですよ」
「へえ、そうなんだ……マリアさんは、お裁縫が上手なんだね」
今は、上の部屋で仕事をしているらしい。
「僕の家にもメアリって言うメイドさんがいたよ。読み方は違うけど同じ名前だね」
「まあ、それじゃあオトさんは、西の国からいらしたの」
「ううん、僕は違うよ。でもそう、メアリはね、西の出身だった……」
しばらくお互いの家族の話なんかをした。マーサさんの旦那さんは鍛冶場で働いているそうだ。
「マリアさんに、僕、謝らなきゃな……」
「どうしてです?」
「さっき部屋を間違えてびっくりさせちゃったんだ」
さっきのドタバタはマーサさんにも聞こえていたらしい。僕が詳しい状況を説明すると、マーサさんはエプロンで顔を隠してクックと笑った。
「気になさらないでください。気丈な子ですから」
スープも出来上がり、お肉もオーブンの中。洗い物もすませ、ひとまず夕食の下準備はできてしまった。驚いたことに、この屋敷では水を井戸まで汲みにいかなくてもすむ。水道が引かれていて、蛇口が至る所にあるのだった。城内の屋敷は全てそんな仕様らしい。
テーブルもセットした。あとはジュンの帰りを待つばかりだ。厨房のテーブルでひと休みする。マーサさんは僕にお茶を出してくれた。
「あの、他に何かすることはない? お掃除でも、力仕事でも、なんでもするよ」
「まあ頼もしいこと」
マーサさんは嬉しそうにしてくれるけど、自分からは何にもお願いしてくれないのだ。あとは大丈夫ですよと言いながら、どこかへ行こうとする。何かするのかなと後ろからこっそり見守っていた。
マーサさんは手すりにつかまってゆっくりと階段を登り、二階の寝室脇の部屋に入って行った。僕はピンときて階段を駆けあがり、声をかけた。
「書斎の片付け?」
「まあっ」
僕はマーサさんに頼み込んで、片付けを代わらせてもらった。本当に何かしていないと、馬鹿なことばっかり……つまり、悩んでもしょうがない領主様のことばかり、考えてしまうから。
「暖炉に薪を入れて、埃を払って、本を本棚に戻す……ね。了解!」
僕はマーサさんの肩を抱いてくるっと回れ右をさせた。そのまま背中を押して廊下に送り出すと、マーサさんは苦笑した。
「なんだか申し訳ないですね……」
「ぜーんぜん!……ほら、久々に娘さんと会ったんでしょ? お話しておいでよ」
マーサさんが行ってしまうと、僕はランプを灯して、書斎を見まわした。真ん中に大きな机があり、本棚に囲まれたこじんまりした部屋だ。毎日お掃除されているので、ほとんど散らかっていない。僕の仕事はすぐに終わってしまった。
机の上は、マーサさんによれば、あまり触らない方がいいらしい。色々本とか書類が開かれていたけど、そのままにして、埃を払う程度にした。
椅子の背後には、天井からの長いカーテンがある。紐を引いて開けると、そこは壁で、数々の絵が飾られていた。ちょうど僕の視線の高さに、綺麗な少年の絵があった。栗色の髪に鳶色の瞳。幼い頃のケイトらしかった。思わず見とれてしまう。
その隣を見れば、現在の、領主姿のケイトの絵。
「はっ……!こ、これはもしや……」
壁から一歩離れてざっと見渡したところ、この壁の絵は、ケイトを描いたものばっかりだ。
僕は、何も見なかったことにしてカーテンをそっと閉めた。
やはりジュンからケイトを奪って良いはずがないなと思う。ジュンはああ言ってくれるけど、僕は、早くここを出て行くべきなんだ。できるだけ、ケイトの心に何も残さぬ状態で。
ちょうど部屋には本がたくさんあった。どこかに、妖精の魔法を解く方法や、あるいは、恋をなかったことにする方法は書かれていないだろうか。
探してみたけれど、この部屋にあるのは、兵法の本や法律関係の本がほとんどだった。あとは、百科事典や辞書のたぐい。こんなにたくさん本があるのに、恋愛の本なんてどこにもない。
「ジュンて、本棚まで真面目だなあ……」
僕はふと思い立って、スケシタ禁止令とやらが実在するのかを調べることにした。
結果、そのニッチで馬鹿馬鹿しい法律は、ちゃんと実在していた。「法律全書」に刻まれた、大真面目な文言に笑ってしまう。
ついでに「法律で禁じられた品々」という本を読んでみたところ、わかったことがいろいろあった。
スケシタは本来、東の国の魔女たちが使う品物だったらしい。男を誘惑する魔力を宿した衣服として魔女たちが編み出し、恋に悩む女性たちに売り歩いたという伝承があるそうだ。
ただし、十数年まえにシブヤの衣料品店などで大流行したものは、その民間伝承から名前を借りただけの模造品。単なるえっちな下着で、当然、それらに魔力はこもっていない。
「ザクロさんが僕に持ってこいって言ったのは、この模造品の方で良かったのかな」
確か、ザクロさんは「シブヤのイチマルキウで」って言ったと思うんだよな。つまり、市販されてるものでいいってことだよね。
でも一方で、「ちゃんとした物」を持ってこいとも言われたんだ。それは模造品ではなく、本来の魔力がこもったスケシタが欲しいという意味にもとれる。
そうすると、ザクロさんの命令はそもそもが矛盾していたことになる。僕は聞き間違いをしたのだろうか?
あるいはザクロさんは、シブヤのイチマルキウになら模造品だけでなく本物のスケシタもあると思っていたのかもしれない。でも、焚書ならぬ焚シタが行われた後のシブヤでは模造品すら探すのは難しい。
本物の「ちゃんとした」スケシタを手に入れたかったら、東の国の魔女を探す必要があるのかもしれない。なんだか、雲を掴むような話だ。単なる伝説の可能性が高いというのに……。やっぱりただの無茶ぶりだったのかなあ。
「東の国かあ……」
ザクロさんの故郷は東の国だろうと、マフが言っていたことがある。ザクロさんは出身地について何も語らないけど、マフによれば、微かな東訛りがあるのだそうだ。
お父さんが消えたのも東の国の海、ザクロさんの故郷も東の国、ついでに今日お会いした皇女様も東の国のお姫様。ここに来てからというもの、色々な場面で東の国との縁は感じているのに、なかなか実のある情報は得られない。
「そうだ、何か東の国の情報はないかな」
本棚を色々物色するが、なかなかいい本にぶつからない。
東の国といえば、昔ながらの魔法の伝承が盛んな国。父さんの話を聞いて、僕も幼い頃から憧れていた。本当は今日の訪問では、皇女様に東の国のお話をたくさん聞かせてもらいたかったんだけどね。ほとんど口を開く暇もなかったもんな……。
今日の訪問のことをまた反省してしまう。ふと、僕に腰を擦り付けられて顔を真っ赤にしていた領主様の姿が頭をよぎる。
「わあああ、だめ! 変なこと考えるな!」
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