氷の森で苺摘み〜女装して継母のおつかいに出た少年が王子に愛される話〜

おりたかほ

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第十四章 告白

6 妖精と狼(領主視点)※

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6 妖精と狼(領主視点)※


 彼の瞳の中には、僕がいた。そして僕の視界の中にも、彼しかいない。誰かに触れて、こんな幸せな気持ちになったのは初めてだった。

 不意にオトがぴくりと跳ねた。そこには僕の舌で膨らみだした桃色のつぼみがあった。僕はすぐに身を引く。

「ごめん、嫌だった?」
 
 オトは困ったように僕から目を逸らした。首から耳まで真っ赤にしている。

 もうしないよ、という意味を込めてオトの額にキスをした。可愛くて仕方がないけど、オトの嫌がることは絶対にしない。

「いやな訳じゃない」

 オトは目を潤ませながら白い腕を上げて、僕の首を抱いた。 

「ケイトには、何をされても嫌じゃないよ……」

 オトの顔を見つめたまま、僕は固まっていた。可愛い花弁のような唇が、小さな声で何か言うのをただ見守ることしかできなかった。

「僕も、ぎゅってしていい?」

 脳内で白い火花が炸裂して、死ぬかと思った。

「ああもう……」

 僕は再びオトの身体をかき抱いた。オトは子供のような無邪気な声で笑いながら、その腕で僕にぎゅうっと抱きついてきた。

 その時だった。

「領主様……! こちらにおいでですか? 領主様……!」

 温室の入り口の方で、誰かの声がした。

 小生は反射的に、オトのはだけた服を直した。

「領主様……!」

 足音が近づいてくる。

「オト、おいで」

 小生はオトの手を引いて地下室に向かった。


****************


 禁書の部屋を抜けて、絵画の裏の螺旋階段を駆けのぼり、暗い廊下を、オトの手を引いて歩く。オトは、静かに着いてくる。時々振り返ると、ちゃんとオトがいる。

 小生があんまり何度も振り向くからだろう、オトはとうとう吹き出した。こんなことを言っている場合ではないのは重々承知なのだが、返す返すも、幸せだった。

「ちょっとだけ待ってて」

 小生の部屋の隠し扉を開けて、中の様子を伺う。昨夜の反省を踏まえてのことだ。幸いにも、部屋には誰もいなかった。小生はオトを部屋に迎え入れた。

「ここは……領主様の部屋?」
「そうだよ」

 オトは、ふわりと微笑を浮かべて、あちこち興味深そうに見てまわる。

 やはり信じられない。この部屋にオトがいるなんて。

 妖精を見つけた少女のように、小生は奇跡を噛み締めながらオトを見守った。

 そう、あくまでそういう気持ちでいたい。彼は妖精。断じて獲物ではない。

 自分の目が、狼のようにギラついていないことを祈るばかりだ。

「領主様を探してたのは誰だったの?」
「さあ、執事か厩舎長みたいだったな」
「行かなくて平気?」

 そんなことを話しながら、小生とオトは近づいて行き、どちらからともなく、自然に抱き合っていた。なんの脈絡もないハグだった。単に、くっついていたかっただけ。

「行ってもいいの?」
「え……」

 オトは僕の顔を見上げた。ちょっと眉が下がっている。

「う、うん、もちろん……お仕事の邪魔をしてごめんなさい」

 冗談が通じていない。あんなにキスしたのに、まだ分かっていないんだろうか。僕が君を置いていけるはずがないじゃないか。

「邪魔なんかじゃないよ」
「でも……」
「どこにも行かないよ。君と居たいから」

 抱き合ったまま、言葉もなく揺れる。身体が熱くなって来るのをどうすることもできない。僕の昂りに気付いたのか、オトが小さくあっと言った。

「ナイフじゃないからね」
「わ、わかってます……」

 赤らんだ耳たぶを甘噛みすると、オトの身体からふにゃりと力が抜けた。

 そばにあった長椅子にオトを座らせて、キスをする。

「好きだよ……」

 服のボタンを、また一つ一つ外していく。オトは僕の肩に手を乗せたまま、目を伏せている。

 赤くなった目尻、首筋、胸へとキスを落とす。膝から腿へと指を滑らせると、オトは小さく震えた。

「怖い?」

 オトは首を振った。だが、顔を覗き込んでみると、オトの目には涙が浮かんでいた。

 オトを抱きしめて、あやすように髪をなでた。呼吸と鼓動が静かに重なっていくまでずっとそうしていた。

 やがてオトは、そっと僕から身を離して言った。

「ごめんなさい領主様……僕、話さなきゃいけないことがあるんだ……」

 小生は思わず耳を閉ざしたいような気持ちになった。

「それは……どうしても今話さなきゃダメなこと?」

 ありったけの甘さを込めた声で囁く。できることなら、流してしまいたかった。

 しかしオトは顔を真っ赤にしながらも、うんと頷いた。

「むしろ、もっと早くに話さなきゃいけなかったんだ」

 もしもその話というのが、オトの出生にまつわることなら。血のつながりの話なら。小生は何も知らないふりをするつもりだった。

 覚悟を決めて、オトの話を待つ。

「領主様は、僕を好きになるように呪いをかけられているんだ」

 オトは真剣な表情で、そう言った。






 
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