氷の森で苺摘み〜女装して継母のおつかいに出た少年が王子に愛される話〜

おりたかほ

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第十五章 城にて

6 妙なプライド(メイド視点)

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6 妙なプライド(メイド視点)


 コカブ夫人に連れられて、私は衣装部屋に入った。

 隣の部屋からは、退室と口止めを促されたローザが不満を訴える声と、王妃がそれをいさめる声がする。

 夫人はため息をついてソファに腰掛けると、私にも隣に座るように言った。

「誰かをかばっているのね?」

 夫人は言った。

「いいえ」

 私の口は、考えるよりも前にそう答えていた。

 秘密を守るコツは心得ていた。一度口を閉ざすと決めたら、あとは心を無にするだけ。

「どうしてこんなに何枚もの布で包んだのかしら」

 夫人は大量の包布をさした。私は、先ほどと同じように、あくまで刺繍の保護のためだと答えた。

「本当に貴女が巻いたの? 布や皮でこんなに巻いたら、逆に傷むでしょうに……」

 コカブ夫人はつぶやいた。私は余計なことは言わずに俯いていた。

「この下着がどんな物か知っている人でなければ、こんなことはしないでしょう」
「……」

 夫人は私がハサミで切った紐も拾ってきておられた。それを目の前に持ち上げて、まじまじとご覧になっている。

「このしつこい念の入れ方……うちの息子を彷彿とさせるわ」

 私はドキッとした。夫人の見つめている紐の端には、例の厳重な固結びがある。

「この三回重ねる固結び。あの子のやり方にそっくり」

 さらに夫人は、包布に使われたいくつかの端切れに見覚えがあると言う。ジュン殿の屋敷のものだと仰りたいのだろう。

 バレバレじゃないか。

 私は冷や汗をかきながらも、余計なことは言わず黙っていた。夫人が単にカマをかけているだけかもしれないから。

「マーサが言ってたわ。貴女は気丈で、口が硬いって。ジュンも貴女のことをかっているそうね。裁縫はもっぱら貴女に頼っていると聞いたわ」

 私は目を伏せて、淡々と語るコカブ夫人の声を聴いていた。顔に血がのぼってくるのはどうしようもなかった。母さんが夫人にそんな話をしていたなんて。

「どうか本当のことを言ってちょうだい。遠慮はいらないわ。もしも、うちのバカ息子をかばっているのなら……」

 私は首を振った。夫人はため息をついた。

「わかったわ。これ以上貴女を問い詰めてもしょうがないわね。仕事にお戻りなさい」
「えっ……」
「下着も無事に戻ってきたことだし、これで王妃も公務に集中できるでしょう。貴女はもう、通常のお仕事に戻って大丈夫よ」
「なんのお咎めもないのですか」
 
 夫人の言葉が信じられなくて、私は目を見開いた。王妃のものを勝手に持ち出したメイドになんの罰もないなんて、ありえないことだった。

「貴女はあれを誰かに見せた?」
「……いいえ」

 少し返事に間が開いてしまった。誰かに見せることはしていない。ただ、ジュン殿と、おそらくオトは、あの下着の存在を知っているのだ。それをお伝えしないのは、嘘に当たるかもしれなかった。
 
「それならいいのだけれど。あれがここに保管されていることが広まれば、領主様の身に危険が及ぶかもしれないの」
「領主様が?」

 私は思わずコカブ夫人の顔を見た。夫人は真剣な表情で言った。

「脅す訳じゃないのよ。でも、お願い。このことは誰にも口外しないと約束して」
「……はい」
「貴女を信頼しているわマリア」

 私は迷っていた。

 私に修繕を頼んだのはジュン殿で、王妃のお立場を危うくすることはないと仰っていた。そのことをお伝えしたいという欲求に駆られる。

 実際、ジュン殿は、すぐに自分の名前を出していいと仰っていたのだ。それを頑なに黙っている私は、単に意地を張っているだけなのかもしれなかった。

 人の名前を出して自分を守ることは、意地でもしたくなかった。

 この意地を、プライドなんて言っていいのか分からない。ただ、これを捨てたら、私は心の底まで最底辺の労働者になる気がした。

「夫人……私は……」
「言いたくないことは言わなくていいわ。この件は忘れましょう」

 俯いた私にコカブ夫人は言った。

「貴女を私の侍女にしたいと言ったのは本当よ。今も気持ちは変わらないわ」

 王妃のものを無断で持ち出したメイドに、なおもそんなことを言ってくださる理由がわからなかった。
 
「もちろん無理にとは言わないわ。マーサと相談してみてちょうだい」

 それだけ言うと、夫人は立ち上がってドアの方に歩き出した。私もついていく。

「やれやれ、サプライズ公演の後は、説教だわ……」

 夫人は自らドアを開けてくださりながら言った。何のことかと、夫人の顔を見た。

「気にしなくていいわ。あのバカ息子のことよ」

 夫人は苦笑しながら言った。




 
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