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第二十一章 妖精の家
2 妖精の貯蔵庫(妖精視点)
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2 妖精の貯蔵庫(妖精視点)
「めんどくさいなあ」
俺はしぶしぶ席を立った。
「何」
「まあまあ、黙ってついて来てくださいよ」
プリッツは、貯蔵庫へ続く階段を降りはじめた。地下からはひんやりとした冷気が漂ってくる。
「寒くない? アリスちゃん」
プリッツに聞かれたオトはうなずくものの、白い息を吐きながら、階段をおそるおそる降りている。
「ったく、寒いに決まってるだろ。わざわざこんなとこに呼びだして何なんだ」
「ふん、驚いても知らないよ」
「大袈裟だな。ちょっとやそっとじゃ驚かないぜ?」
ワインの樽に、ビールの樽。干し肉、チーズやジャムの瓶詰め。それらに混じって、光る鉱石や魔法の品々、長年集めた財宝がところ狭しと雑多に並ぶ。ごちゃついた棚を見上げて、オトはため息をついた。
「すごいな……」
「こっちの畑からも、好きにとっていいからね」
「畑?!」
野菜やハーブ、果物などが新鮮な状態で手に入るに越したことはないと、プリッツは魔法で水と陽光をあてて育てているのだ。貯蔵庫なのに、プリッツはもはや畑って呼んでる。
「うわあ、きれい!」
ほの暗い地下に育った果樹や畑の作物に、オトはすでに驚いてしまっている。蛍や光苔、色とりどりのキノコと宝石が七色にキラキラ光っている。ここの内装は完全にプリッツの趣味に染まってる。
「見てこれ、金色のカボチャ。キラキラのポタージュスープにしても美味しいし、プディングにしても……」
「なんだよ、オトにお前の畑を自慢したかっただけ?」
「もー、違うよ。せっかちだなあ」
プリッツはリンゴの木の下で立ち止まった。
「じゃーん、見てください!」
リンゴの木の枝から、巨大なミノムシのような袋がぶら下がっている。
「な、なんだよその、禍々しい袋は」
何かを包んだ袋からはひんやりとした冷気が漂ってくる。俺は思わずオトの手を握った。
「留守番中に、僕はぼーっとしていたわけではありません! ちゃんと頑張りましたよ?!」
プリッツはにこやかに笑いながら袋を叩いた。
「能書きはいいから答えろよ。何なんだよそれは」
こいつ時々とんでもないことをするからな。俺はちょっと不安になってオトを背後に庇いながら言った。
「危ないものじゃないだろうな」
「いやー、どうかな。話を聞く限り、結構危ないやつだと思うんだよね」
オトと俺は顔を見合わせた。
「では、ご開帳と参りましょう!」
プリッツは得意げに袋に手をかけた。
「おい待て! 開けても大丈夫なのか?」
「おや、ピノ。びびってんの?」
「は? びびってなんか……」
せーの、と声をかけながらプリッツは袋の紐を引いた。縛り目がほどけて布袋が落ちる。
あらわれたのは、巨大な氷の柱。
「何だ? 氷か?」
「中を見てよ」
俺とオトはおそるおそる近づいて、氷の柱を眺めた。氷の中に、何か閉じ込められている。
「………!」
俺の隣で、オトが息を呑んだ。
「うわぁあ!」
俺もほぼ同時に、叫んだ。氷の中のものが人間だと分かったんだ。
「あはは! ほーら、驚いたでしょ!?」
プリッツは得意げに笑った。
「ななななんだよこれ! キモいな!」
俺は人間が嫌いだ。からかうのがせいぜい。家にまで連れてきたのはオトが初めて。
「人間をほいほい捕まえるのはやめろっていってるだろ?!」
人間はずる賢いし、執念深い。そのくせ、姿の見えないものはひどく恐れるっていう謎の習性がある。そこを突くくらいが面白くって、ちょうどいいんだ。
でもプリッツのやつは、人間を他の動物と同じように思ってる節がある。すぐ拾ってくる。
「お前のそういう神経、まじで信じられな……」
俺がプリッツを叱りかけたとき、オトが俺にしがみついて言った。
「こ、これ、ザクロさん……」
「は?」
「ザクロさんだ!」
オトは青ざめた顔で言った。俺は何のことだか分からなかった。オトに抱きつかれて、いい匂いがして、頭がほわーとなった。
「やっぱり! これ、ザクロさんで合ってた?」
得意満面のプリッツの声に、ようやく、俺の思考が復活した。
「………はああああ?!」
ザクロって、オトのことをいじめまくってたって言う、あのザクロか?!
「その通り!」
俺は口をパクパクさせていただけなんだけど、プリッツは勝手に心を読んで答えた。
「めんどくさいなあ」
俺はしぶしぶ席を立った。
「何」
「まあまあ、黙ってついて来てくださいよ」
プリッツは、貯蔵庫へ続く階段を降りはじめた。地下からはひんやりとした冷気が漂ってくる。
「寒くない? アリスちゃん」
プリッツに聞かれたオトはうなずくものの、白い息を吐きながら、階段をおそるおそる降りている。
「ったく、寒いに決まってるだろ。わざわざこんなとこに呼びだして何なんだ」
「ふん、驚いても知らないよ」
「大袈裟だな。ちょっとやそっとじゃ驚かないぜ?」
ワインの樽に、ビールの樽。干し肉、チーズやジャムの瓶詰め。それらに混じって、光る鉱石や魔法の品々、長年集めた財宝がところ狭しと雑多に並ぶ。ごちゃついた棚を見上げて、オトはため息をついた。
「すごいな……」
「こっちの畑からも、好きにとっていいからね」
「畑?!」
野菜やハーブ、果物などが新鮮な状態で手に入るに越したことはないと、プリッツは魔法で水と陽光をあてて育てているのだ。貯蔵庫なのに、プリッツはもはや畑って呼んでる。
「うわあ、きれい!」
ほの暗い地下に育った果樹や畑の作物に、オトはすでに驚いてしまっている。蛍や光苔、色とりどりのキノコと宝石が七色にキラキラ光っている。ここの内装は完全にプリッツの趣味に染まってる。
「見てこれ、金色のカボチャ。キラキラのポタージュスープにしても美味しいし、プディングにしても……」
「なんだよ、オトにお前の畑を自慢したかっただけ?」
「もー、違うよ。せっかちだなあ」
プリッツはリンゴの木の下で立ち止まった。
「じゃーん、見てください!」
リンゴの木の枝から、巨大なミノムシのような袋がぶら下がっている。
「な、なんだよその、禍々しい袋は」
何かを包んだ袋からはひんやりとした冷気が漂ってくる。俺は思わずオトの手を握った。
「留守番中に、僕はぼーっとしていたわけではありません! ちゃんと頑張りましたよ?!」
プリッツはにこやかに笑いながら袋を叩いた。
「能書きはいいから答えろよ。何なんだよそれは」
こいつ時々とんでもないことをするからな。俺はちょっと不安になってオトを背後に庇いながら言った。
「危ないものじゃないだろうな」
「いやー、どうかな。話を聞く限り、結構危ないやつだと思うんだよね」
オトと俺は顔を見合わせた。
「では、ご開帳と参りましょう!」
プリッツは得意げに袋に手をかけた。
「おい待て! 開けても大丈夫なのか?」
「おや、ピノ。びびってんの?」
「は? びびってなんか……」
せーの、と声をかけながらプリッツは袋の紐を引いた。縛り目がほどけて布袋が落ちる。
あらわれたのは、巨大な氷の柱。
「何だ? 氷か?」
「中を見てよ」
俺とオトはおそるおそる近づいて、氷の柱を眺めた。氷の中に、何か閉じ込められている。
「………!」
俺の隣で、オトが息を呑んだ。
「うわぁあ!」
俺もほぼ同時に、叫んだ。氷の中のものが人間だと分かったんだ。
「あはは! ほーら、驚いたでしょ!?」
プリッツは得意げに笑った。
「ななななんだよこれ! キモいな!」
俺は人間が嫌いだ。からかうのがせいぜい。家にまで連れてきたのはオトが初めて。
「人間をほいほい捕まえるのはやめろっていってるだろ?!」
人間はずる賢いし、執念深い。そのくせ、姿の見えないものはひどく恐れるっていう謎の習性がある。そこを突くくらいが面白くって、ちょうどいいんだ。
でもプリッツのやつは、人間を他の動物と同じように思ってる節がある。すぐ拾ってくる。
「お前のそういう神経、まじで信じられな……」
俺がプリッツを叱りかけたとき、オトが俺にしがみついて言った。
「こ、これ、ザクロさん……」
「は?」
「ザクロさんだ!」
オトは青ざめた顔で言った。俺は何のことだか分からなかった。オトに抱きつかれて、いい匂いがして、頭がほわーとなった。
「やっぱり! これ、ザクロさんで合ってた?」
得意満面のプリッツの声に、ようやく、俺の思考が復活した。
「………はああああ?!」
ザクロって、オトのことをいじめまくってたって言う、あのザクロか?!
「その通り!」
俺は口をパクパクさせていただけなんだけど、プリッツは勝手に心を読んで答えた。
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