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第二十一章 妖精の家
1 妖精の留守番(妖精視点)
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1 妖精の留守番(妖精視点)
氷の森が近づいてきた。
俺は複雑な気持ちでアリオトを振り返る。
白い翼を広げてついてくる鳥にアリオトの面影はなく、ただ獣の目をしてる。
「アリオト? 大丈夫か」
思わず声をかける。俺の喉からも、哀愁漂う渡り鳥の声しか出なかった。
朝焼けの空を背景に、滑らかな羽根が風を切る。羽ばたくたびに、背中で紫の影がフワフワとうごめく。
俺が名前を呼ばなければ、オトはきっとあの男のものになることを選んだだろう。
あの男を見る目。
あんな目で俺をみて欲しかった。
俺は嫉妬ってやつを覚えた。
あの男は一体誰だ。ケイト、とか言ったか。
俺はてっきり近衛隊長がオトの相手だと思い込んでいた。それで、やつから記憶を奪った。でも、近衛隊長はオトの本命じゃなかったんだ。
ケイトって男はオトのことを忘れてなんかいない。あいつもまた、オトと二人きりの世界に行きたいって目をしてた。
オトのことを、地の果てまでも追いかけてくるかもしれない。
ーー詰めが甘いんだから!
プリッツの言葉が脳裏に蘇る。
「うるさいうるさい!」
俺は脳内のプリッツにキレながら体の向きを変える。白一色の針葉樹の森が見えてきた。
白鳥ってのは、どうも見た目ほど鳴き声は美しくない。
「オト、ちゃんとついてこいよ」
俺は一声がなると、森の中へと飛び込んだ。
********************
「おかえりなさ~い」
プリッツの能天気な声に気が抜ける。
「ただいま」
自分とオトの変身を解いてやる。
「わあ、本当にアリスちゃんだ! 久しぶり~」
プリッツはオトに抱きついて再会を喜んでいる。
「ちょ、離れろよ! なれなれしいやつだな」
俺は慌てて二人を引き離す。オトはといえば、くすくす笑っている。意外と元気そうだ。
いつも通りの、可愛いオトだ。なのに、その笑顔にどこか寂しい影はないかと探ってしまう俺がいた。
「でたでた。やきもち焼きなんだからなピノは」
プリッツのやつは、そう言うなり俺に抱きついてくる。
「暑苦しい! 離せ」
「あー、可愛くない態度! そんなこと言っていいのかな? 僕、留守番頑張ったんだよ?」
「分かったから離せって」
俺はプリッツにもみくちゃにされながらも、オトを連れて小屋に入った。
部屋はあったかい。さっきからうまそうなシチューの匂いがしてる。プリッツが、ちゃんと留守番をしてたというのは間違いないようだ。
「腹減ったー! めしにしようぜ」
「いいよ、あ、でもその前に見せたいものが……」
「何?」
「いや、やっぱいいわ。ご飯の後にしよう」
プリッツはニヤリと笑った。オトはきょとんとして首を傾げた。
「なんだよ、もったいぶって」
「手を洗っておいで」
プリッツのやつ、また何か悪戯でも仕込んでるのだろう。まあいい、オトも退屈しないで済むだろう。
オトと井戸で手と顔を洗って戻ると、テーブルの上には焼きたてのパンとケーキが乗っていた。皿の周りをシマエナガが、味見したげにぴょこぴょこ飛び回っている。
プリッツは暖炉で煮えているシチューをよそって、俺たちの前に置いた。
「よし、食べよー!」
プリッツのさっき言いかけた話はうやむやになった。とりあえず温かいものをお腹に収めて、オトが元気になってから聞いてやるとしよう。
俺たちは腹一杯になるまで食べて飲んだ。城でオトを見つけたこと、フクロウになって大暴れしてやったことを話してやる。プリッツのやつは感心するどころか、腹を抱えて笑った。
オトはゆっくりと食べ物を口に運びながら、楽しそうに俺たちの話を聞いている。
空色の瞳はまだ少し哀しげだった。それを隠してくれてるのも分かった。
ただ、身体が温まってきたのか、頬にはバラ色が差し、小さな唇にも血の気が戻ってきていた。
プリッツがやおら立ち上がり、テーブルに手をついて言った。
「さて、皆さん! お腹はいっぱいになりましたか?」
オトは、はい、と素直にうなずいている。俺はオトの目にかかった前髪を耳にかけてやる。
「ではここで僕からのサプライズがあります!」
プリッツは貯蔵庫のドアの方に歩いていった。俺はプリッツの目を盗んで、オトにキスをした。
「そこ! ぬけがけしない!」
「パン屑をとってやっただけでーす」
「えっ、付いてた?」
オトは恥ずかしそうに口元を手で拭った。
「ばかだな、嘘に決まってるだろ」
俺はオトの柔らかい耳たぶに、またちゅっとキスをした。オトはくすぐったかったらしい。真っ赤になってぴくっと震えて本当に可愛い。
「おーい、早くこいよ」
プリッツがジト目で言った。貯蔵庫のドアから顔を出し、こっちに手を振っている。オトはさっと席を立つとプリッツの方に行ってしまった。
「どうせ特大ケーキか何かだろ? 早く持ってきてよ」
「ふっ、甘いなピノ。大はずれ。そんなんじゃないから!」
プリッツはオトの肩を抱いて首を振る。
「なんだよ」
「やー、ちょっと、来てもらわないと」
プリッツはニヤニヤしながら手招きする。
氷の森が近づいてきた。
俺は複雑な気持ちでアリオトを振り返る。
白い翼を広げてついてくる鳥にアリオトの面影はなく、ただ獣の目をしてる。
「アリオト? 大丈夫か」
思わず声をかける。俺の喉からも、哀愁漂う渡り鳥の声しか出なかった。
朝焼けの空を背景に、滑らかな羽根が風を切る。羽ばたくたびに、背中で紫の影がフワフワとうごめく。
俺が名前を呼ばなければ、オトはきっとあの男のものになることを選んだだろう。
あの男を見る目。
あんな目で俺をみて欲しかった。
俺は嫉妬ってやつを覚えた。
あの男は一体誰だ。ケイト、とか言ったか。
俺はてっきり近衛隊長がオトの相手だと思い込んでいた。それで、やつから記憶を奪った。でも、近衛隊長はオトの本命じゃなかったんだ。
ケイトって男はオトのことを忘れてなんかいない。あいつもまた、オトと二人きりの世界に行きたいって目をしてた。
オトのことを、地の果てまでも追いかけてくるかもしれない。
ーー詰めが甘いんだから!
プリッツの言葉が脳裏に蘇る。
「うるさいうるさい!」
俺は脳内のプリッツにキレながら体の向きを変える。白一色の針葉樹の森が見えてきた。
白鳥ってのは、どうも見た目ほど鳴き声は美しくない。
「オト、ちゃんとついてこいよ」
俺は一声がなると、森の中へと飛び込んだ。
********************
「おかえりなさ~い」
プリッツの能天気な声に気が抜ける。
「ただいま」
自分とオトの変身を解いてやる。
「わあ、本当にアリスちゃんだ! 久しぶり~」
プリッツはオトに抱きついて再会を喜んでいる。
「ちょ、離れろよ! なれなれしいやつだな」
俺は慌てて二人を引き離す。オトはといえば、くすくす笑っている。意外と元気そうだ。
いつも通りの、可愛いオトだ。なのに、その笑顔にどこか寂しい影はないかと探ってしまう俺がいた。
「でたでた。やきもち焼きなんだからなピノは」
プリッツのやつは、そう言うなり俺に抱きついてくる。
「暑苦しい! 離せ」
「あー、可愛くない態度! そんなこと言っていいのかな? 僕、留守番頑張ったんだよ?」
「分かったから離せって」
俺はプリッツにもみくちゃにされながらも、オトを連れて小屋に入った。
部屋はあったかい。さっきからうまそうなシチューの匂いがしてる。プリッツが、ちゃんと留守番をしてたというのは間違いないようだ。
「腹減ったー! めしにしようぜ」
「いいよ、あ、でもその前に見せたいものが……」
「何?」
「いや、やっぱいいわ。ご飯の後にしよう」
プリッツはニヤリと笑った。オトはきょとんとして首を傾げた。
「なんだよ、もったいぶって」
「手を洗っておいで」
プリッツのやつ、また何か悪戯でも仕込んでるのだろう。まあいい、オトも退屈しないで済むだろう。
オトと井戸で手と顔を洗って戻ると、テーブルの上には焼きたてのパンとケーキが乗っていた。皿の周りをシマエナガが、味見したげにぴょこぴょこ飛び回っている。
プリッツは暖炉で煮えているシチューをよそって、俺たちの前に置いた。
「よし、食べよー!」
プリッツのさっき言いかけた話はうやむやになった。とりあえず温かいものをお腹に収めて、オトが元気になってから聞いてやるとしよう。
俺たちは腹一杯になるまで食べて飲んだ。城でオトを見つけたこと、フクロウになって大暴れしてやったことを話してやる。プリッツのやつは感心するどころか、腹を抱えて笑った。
オトはゆっくりと食べ物を口に運びながら、楽しそうに俺たちの話を聞いている。
空色の瞳はまだ少し哀しげだった。それを隠してくれてるのも分かった。
ただ、身体が温まってきたのか、頬にはバラ色が差し、小さな唇にも血の気が戻ってきていた。
プリッツがやおら立ち上がり、テーブルに手をついて言った。
「さて、皆さん! お腹はいっぱいになりましたか?」
オトは、はい、と素直にうなずいている。俺はオトの目にかかった前髪を耳にかけてやる。
「ではここで僕からのサプライズがあります!」
プリッツは貯蔵庫のドアの方に歩いていった。俺はプリッツの目を盗んで、オトにキスをした。
「そこ! ぬけがけしない!」
「パン屑をとってやっただけでーす」
「えっ、付いてた?」
オトは恥ずかしそうに口元を手で拭った。
「ばかだな、嘘に決まってるだろ」
俺はオトの柔らかい耳たぶに、またちゅっとキスをした。オトはくすぐったかったらしい。真っ赤になってぴくっと震えて本当に可愛い。
「おーい、早くこいよ」
プリッツがジト目で言った。貯蔵庫のドアから顔を出し、こっちに手を振っている。オトはさっと席を立つとプリッツの方に行ってしまった。
「どうせ特大ケーキか何かだろ? 早く持ってきてよ」
「ふっ、甘いなピノ。大はずれ。そんなんじゃないから!」
プリッツはオトの肩を抱いて首を振る。
「なんだよ」
「やー、ちょっと、来てもらわないと」
プリッツはニヤニヤしながら手招きする。
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