氷の森で苺摘み〜女装して継母のおつかいに出た少年が王子に愛される話〜

おりたかほ

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第二十二章 森のほとり

7 熱い盃

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7 熱い盃



「ホットチョコレートだ」

 僕の大好きな飲み物。ザクロさんに隠れて、ときどきこっそりメアリが飲ませてくれるんだ。

「ありがとう」

 僕はザクロさん専用のかっこいいゴブレットを受け取った。いつもの素朴な木のカップがちょっと恋しい。まるで違う飲み物みたい。

「一緒に飲まない?」

 僕はダメもとでメアリを誘った。

「滅相もございません。今テーブルに食事をご用意していますのでお待ちを」

 案の定、断られた。僕はチョコレートを啜った。熱くて全然飲めない。ふうふう冷ましながらちびちび飲む。

「お熱うございましたか?」
「えっ?」
「お許しを! すぐに淹れ直してまいります」

 メアリが手を差し出してくるので、僕はゴブレットを握りしめた。

「いや、大丈夫だよ。こうやって飲むのが好きなだけさ」
「さ、さようでございますか……?」

 メアリは不安げに僕を見つめた。ザクロさんはお茶の温度にもうるさかったからなあ。だいぶ熱めがお好みだった。

 僕は猫舌だから、癖でつい変な飲み方しちゃったけど、もしかして、今のザクロさんの舌ならいけるのかな。

 あつあつのホットチョコレートをがぶ飲みしてもへっちゃらだなんて、まるで夢じゃないか。

 僕は覚悟を決めて、ごくりと男らしく、一飲みにした。

「ぐっ……」

 あっつい! やっぱり熱いよ、ザクロさん! しかし時すでに遅く、燃えるように熱い塊が喉からお腹へと通り抜けていく。

 でも、その後には、爽やかなカカオの香りが身体いっぱいに広がった。

「大丈夫ですか?」
「う、うん。美味しいよ、とっても……」

 僕は涙目になって言った。舌にやけどはしたものの、ホットチョコレートの新たな一面を知ることができた。

 ザクロさんだってやけどはするんだ。でも、あえて緩い甘さより、この鮮烈な爽やかさを取ってるってことなんだなと理解した。

「本当……まるで坊ちゃんみたい」

 メアリがつぶやいた。僕ははっとしてメアリを見た。メアリは真剣な目で僕を見ていた。

「メアリ?」
「……坊ちゃんはどこにいるのでしょう、奥様」

 メアリの目に涙が込み上げていた。

「坊ちゃんはお好きでした……ホットチョコレートが……大切そうに、あかぎれだらけの両手に熱を移しながら、こくこくとお飲みになるんです」

 僕は驚いてメアリを見つめた。

「一体、どういうおつもりなのですか……毎日のようにいじめ倒して、あげくの果てに、雪の中に放り出して……ビョルン様が見たらなんとお嘆きになるか」

 メアリは震えながら言った。

「金目の物一式を持ち出して、夜逃げのように姿を消して。何をなさるおつもりだったのです」

 えっ?

「し、正直……ファラダがあなたを振り落として帰ってきた時は、いい気味だと思いました」

 がーん。

「マフから、奥様が雪の中に倒れていらっしゃったと聞いた時は、天罰が降ったのだと思いました……」

 メアリは震えながらも早口ではっきりと言う。僕はザクロさんの気持ちになったりアリオトの気持ちになったりで忙しく、言葉がまとまらない。

「帰って来たと思えば、坊ちゃんの真似を始めたりして。一体、なんのおつもりです?」
「え、えっと……」

 なんのおつもりかといえば、全力でザクロさんの真似をしてたつもりなんだ。

「奥様? もしかして、記憶がないのですか」

 僕は無言で頷いた。これ以上質の低いモノマネをするのは恥ずかしいので喋るのは控えた。

「皮肉なことですね。まるで、全てなくしたあなたの中に、一番嫌っていた坊ちゃんの記憶だけが残られたみたい」

 メアリは鋭いことを言った。もしかしたら、今ザクロさんの姿をしているのは僕だって、メアリは分かってくれるかもしれない。

「メアリ、実は聞いて欲しいことが……」

 でも、メアリは僕が差し出した手を払いのけた。メアリは自分のしたことに驚いたみたいに、はっと右手を押さえた。

「坊ちゃんをどこへやったのですか? 私が聞きたいのはそれだけです……!」

 そういうとメアリはこぼれる涙を隠すようにして部屋を駆け出して行った。

 僕は唖然としてメアリの出て行ったドアを見つめていた。


********************


 僕は厨房を覗きに行った。メアリは泣いていて、マフがそれを慰めていた。

 僕が入ってきたことに気付くと、メアリはサッと顔を隠して立ち上がった。

「私に腹が立つなら、煮るなり焼くなり、どうぞお好きになさってくださいまし」
「お、おい……メアリ」

 マフはメアリの前に立つと、とりなすように、僕に許しを乞うた。

「お許しくだせえ、奥様……こいつは坊ちゃんが心配な余りに……」
「うん。わかってる。怒ってないよ、メアリ」

 メアリとマフは目をまん丸にして顔を見合わせた。

「手伝いに来たんだ」
「ええっ? あ、ありがとうごぜえます奥様。しかし……」

 マフがおろおろしながら言った。

「食事は四人分用意しておくれ。一緒に食べよう。私も手伝うからさ」
「よ、四人分?」
「私と、ホクトくんと、マフとメアリ。一緒に食べようよ」
「な、なにをおっしゃいます」
「いいだろ? 話がしたいんだ」

 僕はアリオトなんだってこと。スケシタをとりに行って、ちゃんと帰ってきたってこと。森で会ったのに、その後本当のザクロさんは消えてしまったんだってこと。

 信じてもらえなくても、僕の身に起きたことは知っておいて欲しかった。メアリはとっても心配してくれてるみたいだから。

 そして、ザクロさんが消えてしまったことについて、相談したかった。

 僕一人でもんもんとしてるより、みんなで話し合った方がいいに決まっていた。

 でも、マフは意外なことを言った。

「ホクト様は相変わらず、ずっと眠っとりますが……」
「え?」

 そういえば、ザクロさんはホクトくんの具合が良くないと言ってた。

「奥様がなにかされたのではないのですか?」

 メアリが怒ったように言った。

「ホクトくんの容体はそんなに悪いの」

 僕は急いでホクトくんの部屋に様子を見にいくことにした。







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