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高校生、始まりました(5)
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白鷗学園にヘロインと覚せい剤を持ちこんだ外部関係者と、覚せい剤常用者の構想がぼんやりと浮かび上がる。
怪談話は、夜の学園に人を近づけないためにでっち上げたものだとすると、これから大きな取引きを行うというのも、あながちガセでもなさそうだ。二つを関連付けると、どこか予防線を張っているようにも感じる。
もしこの高校生も共犯者となっているのなら、やはりナンバー1が言っていたように、推測通り高校生も覚せい剤に手を出していないとは言い切れなくなる。厄介なヘロインが動いていないという保証もなかったが、覚せい剤については、内部で配っている者がいて、確実に出回っていることを雪弥は思った。
覚せい剤は、興奮と覚醒の薬物である。摂取によって脳が強制的に覚醒するため、効果が出ている間は全く眠気を感じず、記憶力も高いままが持続する。
日本で多く乱用されているのはメタンフェタミンだが、それは主に吸引型だ。合成されたものには手軽に口内摂取できる種類もあり、気軽に始められるとして、今でも社会人だけでなく学生の間でも多く出回っている。
ヘロインは強烈な快楽を及ぼし、直接脳内で強く作用させるため、静脈注射や筋肉注射が主だった。値段も麻薬の中で一番高価であり、規制が厳しいので簡単には手に入らない。
注射器を使う事への謙遜もあって、ヘロインが学生内で出回る事はほとんどなかった。協力者が覚せい剤に手を出していない可能性も捨てられないので、その女子学生の現状については、薬物によって欲が剥き出しになっているとも推測できる。
「大人しい子だったって聞いたけどなぁ」
ややあって、修一が一人呟いた。
暁也が空になったパンの袋をくしゃくしゃにしながら「どうせ聞いただけの話だろ。俺は今年に入ってからのあいつしか知らねぇ」と、刺のある言葉を返す。
「お前が言う祟りとか呪いとかだってんなら、そのせいですっかり人が変わっちまったっていう事になるんだろうな」
「むぅ、なんか厳しい発言だ……もしかして、怒ってんの? 確かに暁也、そういう話とか好きじゃないだろうけどさ」
でも幽霊も怪談も、きっと本当にあるんだぜと修一が唇を尖らせた。そこに非難の感情はなく、好きでもない話を聞かせて気分を悪くしてしまったのなら申し訳ない、という本音が滲んでいた。
そんなちょっとした気分の沈みを察知して、暁也がフォローするようにこう言った。
「別にそんなんじゃねぇよ。ただ、本当はそういう奴だったのかも知れないって話さ。人間、どんなに取り繕っても、根本的な芯みたいなやつは簡単に変われるようなものじゃないだろ。いい奴はどんなに悪党ぶっても悪い奴にはなりきれねぇし、悪党はどんなに善人ぶっても、結局は悪党のまんまなんだ」
暁也は言葉を切ると、食べ物が空になった袋をくしゃくしゃにした。彼を見つめている修一は、よく分からないといった表情で首を傾げる。
――どんなに善でいようとしても、結局のところは〔悪〕なのだ。
思考を続けていた雪弥は、暁也の台詞に引きずられるように、そんな見えない言葉の羅列がすっと自身の身体を突き通すのを感じた。
ついと顔を上げて彼を見つめたものの、一瞬さざ波を立てたはずの心にはすでに静寂が戻り、彼の中では無意識に情報整理と推測が再開されていた。自分が何かを感じて、何かを想ったはずだが、どうしてか覚えていない。
暁也の言葉を聞いた時、雪弥は何かを思い出していたはずだった。しかし、再び静まり返った頭の中では「高校生の中にも覚せい剤を配っている者がいる」と推測された事項ばかりが上がっていた。
多分、気のせいなんだろう。
個人的な心情を置き去りにし、雪弥は仕事へ意識を戻す。
滅多に開閉されなくなった旧地下倉庫に、大量のヘロインがあるらしいという事に関しては、恐らく事件の内部関係者の手引があっての事だろうと容易に推測される。そして、それなりに大学側で地位を持っている者でないと難しい。
入手した情報が次から次へと推測を重ね、頭が重くなると同時に耳鳴りがした。
雪弥は視覚で映し出される風景の向こうに、脳裏を流れていく映像や思考をぼんやりと眺めた。高校生に混ざってのんきに過ぎしている間に、蒼緋蔵家はどうなっているだろうか、と、ふと思ってしまう。
休みがあれば、大ごとになる前に、蒼緋蔵家の問題もあっさり片づけられるはずであった。話し合いをする時間があれば、少なくとも心に余裕は生まれる。
仕事の合間だとゆっくり考えられる時間もなく、父から連絡があったとしても、どちらかと言えばほとんどのらりくらりと言葉を交わしていただけだった。思えば、これまでおろそかにしていた事が、今になって一気に来ているような気もする。
曖昧になっていた蒼緋蔵家との関係を、はじめから妥協の余地もなく断ちきってしまっていたら、どうだったのか。
唯一の家族の繋がりのようにも思えて、母が愛していた『蒼緋蔵』の名字はそのままにしていた。権利関係から一切離れる法律上の手続きは行ったが、父達の意見もあって、その際にわざわざ名字だけは残す方法を取った。
特殊機関の雪弥は、部下やそのとき使う人間には妥協したりしない。「家族でしょう?」と声を震わせる亜希子や父に構わず、蒼緋蔵の名を突き返して「家族とは紙一枚の関係ではないでしょう」と断言し、どこの誰でもないただの『雪弥』となっていれば、こんな面倒な事に巻き込まれなかったのだろうか?
怪談話は、夜の学園に人を近づけないためにでっち上げたものだとすると、これから大きな取引きを行うというのも、あながちガセでもなさそうだ。二つを関連付けると、どこか予防線を張っているようにも感じる。
もしこの高校生も共犯者となっているのなら、やはりナンバー1が言っていたように、推測通り高校生も覚せい剤に手を出していないとは言い切れなくなる。厄介なヘロインが動いていないという保証もなかったが、覚せい剤については、内部で配っている者がいて、確実に出回っていることを雪弥は思った。
覚せい剤は、興奮と覚醒の薬物である。摂取によって脳が強制的に覚醒するため、効果が出ている間は全く眠気を感じず、記憶力も高いままが持続する。
日本で多く乱用されているのはメタンフェタミンだが、それは主に吸引型だ。合成されたものには手軽に口内摂取できる種類もあり、気軽に始められるとして、今でも社会人だけでなく学生の間でも多く出回っている。
ヘロインは強烈な快楽を及ぼし、直接脳内で強く作用させるため、静脈注射や筋肉注射が主だった。値段も麻薬の中で一番高価であり、規制が厳しいので簡単には手に入らない。
注射器を使う事への謙遜もあって、ヘロインが学生内で出回る事はほとんどなかった。協力者が覚せい剤に手を出していない可能性も捨てられないので、その女子学生の現状については、薬物によって欲が剥き出しになっているとも推測できる。
「大人しい子だったって聞いたけどなぁ」
ややあって、修一が一人呟いた。
暁也が空になったパンの袋をくしゃくしゃにしながら「どうせ聞いただけの話だろ。俺は今年に入ってからのあいつしか知らねぇ」と、刺のある言葉を返す。
「お前が言う祟りとか呪いとかだってんなら、そのせいですっかり人が変わっちまったっていう事になるんだろうな」
「むぅ、なんか厳しい発言だ……もしかして、怒ってんの? 確かに暁也、そういう話とか好きじゃないだろうけどさ」
でも幽霊も怪談も、きっと本当にあるんだぜと修一が唇を尖らせた。そこに非難の感情はなく、好きでもない話を聞かせて気分を悪くしてしまったのなら申し訳ない、という本音が滲んでいた。
そんなちょっとした気分の沈みを察知して、暁也がフォローするようにこう言った。
「別にそんなんじゃねぇよ。ただ、本当はそういう奴だったのかも知れないって話さ。人間、どんなに取り繕っても、根本的な芯みたいなやつは簡単に変われるようなものじゃないだろ。いい奴はどんなに悪党ぶっても悪い奴にはなりきれねぇし、悪党はどんなに善人ぶっても、結局は悪党のまんまなんだ」
暁也は言葉を切ると、食べ物が空になった袋をくしゃくしゃにした。彼を見つめている修一は、よく分からないといった表情で首を傾げる。
――どんなに善でいようとしても、結局のところは〔悪〕なのだ。
思考を続けていた雪弥は、暁也の台詞に引きずられるように、そんな見えない言葉の羅列がすっと自身の身体を突き通すのを感じた。
ついと顔を上げて彼を見つめたものの、一瞬さざ波を立てたはずの心にはすでに静寂が戻り、彼の中では無意識に情報整理と推測が再開されていた。自分が何かを感じて、何かを想ったはずだが、どうしてか覚えていない。
暁也の言葉を聞いた時、雪弥は何かを思い出していたはずだった。しかし、再び静まり返った頭の中では「高校生の中にも覚せい剤を配っている者がいる」と推測された事項ばかりが上がっていた。
多分、気のせいなんだろう。
個人的な心情を置き去りにし、雪弥は仕事へ意識を戻す。
滅多に開閉されなくなった旧地下倉庫に、大量のヘロインがあるらしいという事に関しては、恐らく事件の内部関係者の手引があっての事だろうと容易に推測される。そして、それなりに大学側で地位を持っている者でないと難しい。
入手した情報が次から次へと推測を重ね、頭が重くなると同時に耳鳴りがした。
雪弥は視覚で映し出される風景の向こうに、脳裏を流れていく映像や思考をぼんやりと眺めた。高校生に混ざってのんきに過ぎしている間に、蒼緋蔵家はどうなっているだろうか、と、ふと思ってしまう。
休みがあれば、大ごとになる前に、蒼緋蔵家の問題もあっさり片づけられるはずであった。話し合いをする時間があれば、少なくとも心に余裕は生まれる。
仕事の合間だとゆっくり考えられる時間もなく、父から連絡があったとしても、どちらかと言えばほとんどのらりくらりと言葉を交わしていただけだった。思えば、これまでおろそかにしていた事が、今になって一気に来ているような気もする。
曖昧になっていた蒼緋蔵家との関係を、はじめから妥協の余地もなく断ちきってしまっていたら、どうだったのか。
唯一の家族の繋がりのようにも思えて、母が愛していた『蒼緋蔵』の名字はそのままにしていた。権利関係から一切離れる法律上の手続きは行ったが、父達の意見もあって、その際にわざわざ名字だけは残す方法を取った。
特殊機関の雪弥は、部下やそのとき使う人間には妥協したりしない。「家族でしょう?」と声を震わせる亜希子や父に構わず、蒼緋蔵の名を突き返して「家族とは紙一枚の関係ではないでしょう」と断言し、どこの誰でもないただの『雪弥』となっていれば、こんな面倒な事に巻き込まれなかったのだろうか?
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