仮想空間に巻き込まれた男装少女は、軍人達と、愛猫との最期の旅をする

百門一新

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4章 仮想空間と『支柱』~ハイソン~(3)

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「いかん、いかんな。そんな事を思い出している暇はないというのに」

 ハイソンは、自分の集中力が低下してしまっている事を自覚した。まるで、頭の中心が痺れているように考えがまとまらない。

 珈琲のおかわりが必要かもしれないと、彼は空になった珈琲カップを手に取った。まだ外は明るく、所長も不在の今、当時の研究を一番知っているのは自分だからこそ頑張らなくてはならないのだと、自身に言い聞かせた。

 ハイソンは、既に出来上がっている珈琲をカップに注ぎ足し、両頬を自分の手で軽く叩いて、改めてパソコンに向き直った。別のモニターを見ていた部下が、「第三エリアへの突入を確認。支柱の特定に入ります」とハイソンに報告した。

 その時、ハイソンの脳裏に、突如として一つの映像が鮮明に思い出された。ああ、コレだ、と彼は息を呑んだ。


――こんにちは。初めまして、ハイソン君。


 まだエリスが健在していた頃、一人研究室に残って残業していたハイソンは、居眠りをしてしまった。その時、彼は夢の中で、真っ暗闇に浮かぶ一人の男を見たのである。

 その男は、夢に出てきた登場人物の癖に、やけにリアルな印象を受けた。まるで暗闇の中に、その男と二人で浮かんだまま向かい合っているような錯覚を覚えた。

 ハイソンの夢の中で、その男は、宙に腰かけたまま含み笑いを浮かべていた。

 顔は真っ暗で見えなかったが、男の小奇麗な唇は確認出来た。彼は唇にそっと人差し指をあてると、ハイソンにこんなことを言ったのだ。


――そんなところで寝ていると、ほら。せっかく彼からもらった珈琲カップを割ってしまいますよ?


 あの時、ハイソンはリアルな夢に驚いて目を覚ました。そして、自分の腕で外側へと押されていた雑誌の上に、もう少しのところで机の外へ放り出されそうな珈琲カップを見付けたのだ。

 研究のテーマという事もあり、『夢』に敏感になっているせただろうとあの頃は思っていた。

 けれどハイソンは、思わず身震いしてしまった。現実の世界で経験していない映像や声を、十数年後の今になって鮮明に思い出す事など、在り得るのだろうか。

 ハイソンは、悪寒を振り払うように報告書の一つを手に取った。これまでに発見されている行方不明者と、発見されている死体のリスト、詳細情報に改めて目を通す。

 そのうちの一枚を引き抜き、椅子の背に身体を預けてぼんやりと眺めた。

「……三十七歳、サラリーマン、会社を出てから行方不明。発見時されたのは手首と、特注の腕時計のみ。趣味は戦争ゲームと戦争映画」

 四肢が切断された女性会社員の趣味は映画鑑賞で、友達と一緒に行方不明になっているが、友人女性の方はまだ見つかっていなかった。

 彼女達か最近見たであろう映画の題名を、ハイソンは言い当てられるような気さえして、ぎゅっと目を閉じた。
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