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2-1 二章 継母ですが、我が子がかわいすぎる
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翌日、アイリスはヴァルトクス大公妃として平和な朝を迎えた。
与えられた部屋は実家の数倍はある。キングサイズのベッドを置いても、ソファセットを置いても、衝立が置かれた気替えコーナーまで余裕で収まるほどだ。
「……結婚したら、まさか連れ子を育てることになってしまったわ」
だが、可愛いアリムの世話担当を願った通りに得てしまった状況は、メイドが起こしに来る起床予定前に目が覚めてしまったくらいに嬉しいことだ。
しかもここでは、いちいち厭味ったらしい家族もいない。
アイリアの外での態度を監視するために付けられた使用人だって一人もいないし、協力者という立場になれたおかげか、ヴァンレックは彼女にメイドも付けてくれた。
そう『アイリス』に初めての付きのメイドができたのだ。
「よしっ、それじゃあがんばろう!」
彼女は今日をスタートさせるべく、メイドたちを呼ぶためのベルを振った。
メイドたちによって心地の良い始まりを迎えられた。
朝の身支度を済ませ、続いて部屋に運ばれた豪華な朝食を一人で気楽にいただく。
いったん退出する際にメイドたちは少し気にしたようだったが、アイリスは一人で大丈夫だと告げた。
一人のほうが気を張らずに済む。
(大公様も愛息子との時間を楽しまれているはずだし)
実家では味わえなかった豪華な食事を楽しんだ。
食後の休憩に素晴らしい紅茶を淹れてもらってしばらく経った頃、ブロンズが来てすべてのメイドたちを下げた。
「おはようございます、奥様。本日の旦那様のご予定を共有いたします」
フロンズはヴァンレックから当面、子育ての協力者をすることを教えてられていた。アイリスはアリムとの時間がないタイミングで雑務を処理する運びだ。
彼はすでいくつか検討していると言い、すぐにできる手紙の返信を早速今日教えるつもりだと話した。
「アリムのほうは大丈夫なの?」
「アリム様は――勉強が入っておりますので」
その間に説明しにきたのだと彼は言った。ヴァンレックは朝食を終え、アリムに見送りを受けて討伐へ出掛けたという。
「領主でもあらせられるのに、本当にお忙しいお方ですね……」
昨日はアリムと合流したのち、結局ヴァンレックは日が暮れるまで姿を見せず、夕食時間にアリムを迎えに来たのだ。
「普段ですと数日、長い時は一ヵ月不在されることもありました。坊ちゃまを育てることになってから、できるだけ邸宅にいようと努力されているのです。そのためこのたびの討伐対象の山へも日を分けて向かっています」
「日帰りで山に行くだなんて、大変ですね」
「獣人族は体力があるとはいえ、旦那様についていく騎士たちの疲弊はすさまじいですね。冬になると少なくなった獲物を探して害獣は人里へ、繁殖期と活動期が重なって魔獣の被害も増えます。奥様が協力してくださることになりましたので、数日は時間を取れそうだと旦那様も安心されておられました」
一ヵ月は必要のところ『数日』で、ということだろう。
(大公様は、できるかぎり子供といたいと考えているのね)
なんていい父親だろう。
そう考えると、アイリスも自分が去るまでに役立ちたいとますます思えた。
(私がすべきことは、アリムに寂しい思いをさせないことが前提。それから大公様が安心して出かけられるような環境作りもしていこう)
そのためにはアリムの味方を作っていく。
何より、彼にとって心地いい〝家〟にしたいとアイリスは思った。
◇∞◇∞◇
時間があったので、ブロンズに騎士団側の執務室も案内された。ここでも〝雑務〟を行うことになる。
とはいえアイリスは自分の噂のことがあったから、大変緊張した。
「……旦那様がいないのに、入っても大丈夫なのですか?」
「わたくしがいますので問題ありませんよ。こちらの補佐もしておりまので」
彼は置き位置や保管場所といった室内の説明もしてくれたが、不安だ。
何せ、アイリスは『悪女』だ。
騎士団員たちになんと噂されているのか。免罪を吹っ掛けられないか気になる。
(時間があればドレスも変えたいわ)
持ち前のドレスは、悪女好みそうなものばかりで朝着る際に嫌になったものだ。しかし自分の趣味ではないとメイドに言えるほどの仲ではない。
(みんないい人たちばかりなのよね。ドレスのことを口にしたら、どうにかしようと言ってくるかもしれないし……でも余計な手間はかけさせられないわ)
親切にしてもらっているだけで有難い。
自分が着るものを改善する時間がいつ開けられるのかは不明だが、今は子育てのスケジュールに慣れていく必要がある。
ただ食いをするつもりはないので、もちろん仕事を最優先にするつもりだ。
「――説明は以上になります。それから奥様、執事に敬語を使ってはなりません」
「はっ」
アイリスは自分の口をパッと押さえた。
いろいろと考えていたし、緊張もあってついやらかしてしまったようだ。
「ご、ごめんなさい、気を付けるわ」
謝ったら、ブロンズがなぜだか珍しく口元を緩めた。
「場の重要性もご理解されているようですので、これからご一緒に仕事ができることが楽しみです」
ブロンズには作業要員として受け入れてもらえているのだろうか。
彼の説明から、これまで討伐で外に行くヴァンレックの内政補佐のために請け負っている業務がかなりあることを知った。
その一部を、アイリスが分散してくれるのは助かるのだろう。
騎士団側の執務室で行う作業の内容について説明を受けたのち、アリムの『授業』とやらが終わった時間だと言って、ブロンズと向かった。
「かわいー!」
「はーなーしーてーっ」
子供部屋で昨日ぶりに姿を見るなり、アイリスはアリムを抱き上げていた。それは昨日そうしていたヴァンレックの印象が残っていたためだ。
「あなたたち、いい仕事をしたわねっ」
扉の前で待機していた彼付きのメイドたちが、笑顔で一礼して応える。
必死になって両手でアイリスを押し返すアリムは、赤面していた。騒がしさを前にブロンズが顔を右手で覆っている。
「今日は大きなリボンが違うのね! 赤は私と揃えたの? それとも、メイドたちがしてくれたのかしら?」
「べ、別にアイリスを意識したわけじゃっ」
「あら、自分で選んだのね」
アリムがハッとして口を閉じ、みるみるうちに真っ赤になっていく。
「私とお揃いを意識したのね!? あーっ、かわいすぎる!」
「か、可愛いって言うなんてっ」
そんなアリムの声に、ハタと我に返る。
というか違和感を覚えた。
少し腕を緩めてアリムを見てみると、本気で恥ずかしそうだ。しかしながら尻尾は左右に揺れていて照れているだけなのも分かる。
(……もしかして旦那様『可愛い』と言ってない?)
いや、まさか、そんなことはないだろう。
「可愛いから、可愛いと言うのよ。恥ずかしがる必要はないわ」
アイリスは気を取り直して、アリムをもう一度ぎゅっと抱き締めてから、優しく床に降ろした。
「……そう、かな?」
「ええ、そうよ」
小さな手を後ろに持っていき、もじもじする彼も口元が緩みっぱなしだ。嬉しいのだろう。
それなら惜しみなく愛情を表現していこうと、アイリスは改めて決意する。
「今日は探索しない? 分からないところがたくさんあるの」
「アイリスがそういうなら仕方ないな。僕に任せて!」
アリムが目を輝かせる。
(今日私と何ができるのか、楽しみにしてくれていたみたい)
少し離れている間に元の距離感に戻っていかないか不安だったが、メイドたちが相談してくるほど確かにアリムはアイリスを信頼しているらしい。
「これから周囲の庭園をぐるりと案内してあげる。あっ、温室もあるから、まずはそこまで歩こう!」
アリムは自ら積極的に手を握ってくれる。
なんて可愛いのだろう。嬉しさで、アイリスも口元が緩んだ。
仕事があるブロンズとはそこで別れた。交流にもなるし、何かあった時のことを考えると心強いのでアリムのメイドを同行させる。
サロンから出られる西の庭園の出入り口へ行くと、護衛に騎士が二人ついた。
(アリムは大丈夫かしら)
使用人もそばに置かなかったことをアイリスは心配した。
だが、意外にもアリムは騎士たちに反応しない。
「どうしたの? ほら、行こう」
彼はアイリス視線を不思議がると、遊び相手を見つけて嬉しそうな表情で庭園へと踏み出した。
与えられた部屋は実家の数倍はある。キングサイズのベッドを置いても、ソファセットを置いても、衝立が置かれた気替えコーナーまで余裕で収まるほどだ。
「……結婚したら、まさか連れ子を育てることになってしまったわ」
だが、可愛いアリムの世話担当を願った通りに得てしまった状況は、メイドが起こしに来る起床予定前に目が覚めてしまったくらいに嬉しいことだ。
しかもここでは、いちいち厭味ったらしい家族もいない。
アイリアの外での態度を監視するために付けられた使用人だって一人もいないし、協力者という立場になれたおかげか、ヴァンレックは彼女にメイドも付けてくれた。
そう『アイリス』に初めての付きのメイドができたのだ。
「よしっ、それじゃあがんばろう!」
彼女は今日をスタートさせるべく、メイドたちを呼ぶためのベルを振った。
メイドたちによって心地の良い始まりを迎えられた。
朝の身支度を済ませ、続いて部屋に運ばれた豪華な朝食を一人で気楽にいただく。
いったん退出する際にメイドたちは少し気にしたようだったが、アイリスは一人で大丈夫だと告げた。
一人のほうが気を張らずに済む。
(大公様も愛息子との時間を楽しまれているはずだし)
実家では味わえなかった豪華な食事を楽しんだ。
食後の休憩に素晴らしい紅茶を淹れてもらってしばらく経った頃、ブロンズが来てすべてのメイドたちを下げた。
「おはようございます、奥様。本日の旦那様のご予定を共有いたします」
フロンズはヴァンレックから当面、子育ての協力者をすることを教えてられていた。アイリスはアリムとの時間がないタイミングで雑務を処理する運びだ。
彼はすでいくつか検討していると言い、すぐにできる手紙の返信を早速今日教えるつもりだと話した。
「アリムのほうは大丈夫なの?」
「アリム様は――勉強が入っておりますので」
その間に説明しにきたのだと彼は言った。ヴァンレックは朝食を終え、アリムに見送りを受けて討伐へ出掛けたという。
「領主でもあらせられるのに、本当にお忙しいお方ですね……」
昨日はアリムと合流したのち、結局ヴァンレックは日が暮れるまで姿を見せず、夕食時間にアリムを迎えに来たのだ。
「普段ですと数日、長い時は一ヵ月不在されることもありました。坊ちゃまを育てることになってから、できるだけ邸宅にいようと努力されているのです。そのためこのたびの討伐対象の山へも日を分けて向かっています」
「日帰りで山に行くだなんて、大変ですね」
「獣人族は体力があるとはいえ、旦那様についていく騎士たちの疲弊はすさまじいですね。冬になると少なくなった獲物を探して害獣は人里へ、繁殖期と活動期が重なって魔獣の被害も増えます。奥様が協力してくださることになりましたので、数日は時間を取れそうだと旦那様も安心されておられました」
一ヵ月は必要のところ『数日』で、ということだろう。
(大公様は、できるかぎり子供といたいと考えているのね)
なんていい父親だろう。
そう考えると、アイリスも自分が去るまでに役立ちたいとますます思えた。
(私がすべきことは、アリムに寂しい思いをさせないことが前提。それから大公様が安心して出かけられるような環境作りもしていこう)
そのためにはアリムの味方を作っていく。
何より、彼にとって心地いい〝家〟にしたいとアイリスは思った。
◇∞◇∞◇
時間があったので、ブロンズに騎士団側の執務室も案内された。ここでも〝雑務〟を行うことになる。
とはいえアイリスは自分の噂のことがあったから、大変緊張した。
「……旦那様がいないのに、入っても大丈夫なのですか?」
「わたくしがいますので問題ありませんよ。こちらの補佐もしておりまので」
彼は置き位置や保管場所といった室内の説明もしてくれたが、不安だ。
何せ、アイリスは『悪女』だ。
騎士団員たちになんと噂されているのか。免罪を吹っ掛けられないか気になる。
(時間があればドレスも変えたいわ)
持ち前のドレスは、悪女好みそうなものばかりで朝着る際に嫌になったものだ。しかし自分の趣味ではないとメイドに言えるほどの仲ではない。
(みんないい人たちばかりなのよね。ドレスのことを口にしたら、どうにかしようと言ってくるかもしれないし……でも余計な手間はかけさせられないわ)
親切にしてもらっているだけで有難い。
自分が着るものを改善する時間がいつ開けられるのかは不明だが、今は子育てのスケジュールに慣れていく必要がある。
ただ食いをするつもりはないので、もちろん仕事を最優先にするつもりだ。
「――説明は以上になります。それから奥様、執事に敬語を使ってはなりません」
「はっ」
アイリスは自分の口をパッと押さえた。
いろいろと考えていたし、緊張もあってついやらかしてしまったようだ。
「ご、ごめんなさい、気を付けるわ」
謝ったら、ブロンズがなぜだか珍しく口元を緩めた。
「場の重要性もご理解されているようですので、これからご一緒に仕事ができることが楽しみです」
ブロンズには作業要員として受け入れてもらえているのだろうか。
彼の説明から、これまで討伐で外に行くヴァンレックの内政補佐のために請け負っている業務がかなりあることを知った。
その一部を、アイリスが分散してくれるのは助かるのだろう。
騎士団側の執務室で行う作業の内容について説明を受けたのち、アリムの『授業』とやらが終わった時間だと言って、ブロンズと向かった。
「かわいー!」
「はーなーしーてーっ」
子供部屋で昨日ぶりに姿を見るなり、アイリスはアリムを抱き上げていた。それは昨日そうしていたヴァンレックの印象が残っていたためだ。
「あなたたち、いい仕事をしたわねっ」
扉の前で待機していた彼付きのメイドたちが、笑顔で一礼して応える。
必死になって両手でアイリスを押し返すアリムは、赤面していた。騒がしさを前にブロンズが顔を右手で覆っている。
「今日は大きなリボンが違うのね! 赤は私と揃えたの? それとも、メイドたちがしてくれたのかしら?」
「べ、別にアイリスを意識したわけじゃっ」
「あら、自分で選んだのね」
アリムがハッとして口を閉じ、みるみるうちに真っ赤になっていく。
「私とお揃いを意識したのね!? あーっ、かわいすぎる!」
「か、可愛いって言うなんてっ」
そんなアリムの声に、ハタと我に返る。
というか違和感を覚えた。
少し腕を緩めてアリムを見てみると、本気で恥ずかしそうだ。しかしながら尻尾は左右に揺れていて照れているだけなのも分かる。
(……もしかして旦那様『可愛い』と言ってない?)
いや、まさか、そんなことはないだろう。
「可愛いから、可愛いと言うのよ。恥ずかしがる必要はないわ」
アイリスは気を取り直して、アリムをもう一度ぎゅっと抱き締めてから、優しく床に降ろした。
「……そう、かな?」
「ええ、そうよ」
小さな手を後ろに持っていき、もじもじする彼も口元が緩みっぱなしだ。嬉しいのだろう。
それなら惜しみなく愛情を表現していこうと、アイリスは改めて決意する。
「今日は探索しない? 分からないところがたくさんあるの」
「アイリスがそういうなら仕方ないな。僕に任せて!」
アリムが目を輝かせる。
(今日私と何ができるのか、楽しみにしてくれていたみたい)
少し離れている間に元の距離感に戻っていかないか不安だったが、メイドたちが相談してくるほど確かにアリムはアイリスを信頼しているらしい。
「これから周囲の庭園をぐるりと案内してあげる。あっ、温室もあるから、まずはそこまで歩こう!」
アリムは自ら積極的に手を握ってくれる。
なんて可愛いのだろう。嬉しさで、アイリスも口元が緩んだ。
仕事があるブロンズとはそこで別れた。交流にもなるし、何かあった時のことを考えると心強いのでアリムのメイドを同行させる。
サロンから出られる西の庭園の出入り口へ行くと、護衛に騎士が二人ついた。
(アリムは大丈夫かしら)
使用人もそばに置かなかったことをアイリスは心配した。
だが、意外にもアリムは騎士たちに反応しない。
「どうしたの? ほら、行こう」
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