蒼緋蔵家の番犬 3~現代の魔術師、宮橋雅兎~

百門一新

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蒐集か風間の店 上

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 風間の案内で、雪弥は宮橋と共に店内を進んだ。外から見ると普通の一軒家という感じもあったのだが、中は小さな窓がいくつかあるだけで薄暗いイメージがあった。

「俺の生活部屋とかは、ちゃんと別にあるんで誤解しないように。ここは、店専用のところなの」

 きょろきょろとしている雪弥に向かって、風間が先に言った。

 室内には展示ケースが置かれていて、古い物が色々と置かれてある。骨董、甲冑、絵、アクセサリーといった装飾品や胸当て、よく分からない置物も大小様々だった。

「なんだか、ごちゃごちゃしていますね」

 雪弥は、しばし考えたところで、素直な感想を口にした。

 するとようやく上がった彼の発言に、前を進んでいる風間が一瞬、がくっと歩みを落としかけた。

「正直な新米だなぁ……仕方ないじゃないか。俺は、元はただの蒐集かで、家の大半の物置き部屋を店にしただけなんだから」

 ――〝蒐〟集。

 ふと、雪弥は「収集」が「蒐集」とも書ける事に気付いた。昨日は『また骨だ』と思ったものだが、また、鬼だ。

「名は引っ張る、縁があるのさ。はじめっからずっと〝鬼〟繋がりだ」

 まるで心でも読んだタイミングで、宮橋が言ってきた。雪弥が目を向けるそばで、風間が訝って肩越しに振り返ってくる。

「いきなり、なんすか宮橋先輩?」
「別に。それよりもお前、僕の事をさん付けで呼ぶのか、先輩と呼ぶのか、統一したらどうだい?」
「あっ、しまった。『先輩』とは呼ばないようにしていたのに」

 風間が、うっかり、とでも言わんばかりに口を押さえる。

「大学時代からずっと付き合いがあって、先輩と呼んでしまうくらいには、親睦があったわけですよね? ならば普通なのでは」

 雪弥は不思議に思って口にした。すると風間が「いや、まぁ、そうなんだけど」とぎこちなく呟きながら、思い返すような顔をする。

「俺、大学の時、下僕でパシリだったんスよね。その名残というか」
「…………」

 二人の関係が分からなくなってきた。雪弥は、なんと応えていいのかと口をつぐんだ。

 しばし風間の後に続きながら、黙って歩いた。
 そうして辿り着いたのは、頑丈な一つの小振りな鉄の扉だった。

 その扉は、まるで取ってつけたみたいに古くて雰囲気も違っていた。そのせいで室内の様子とは、アンバランスな印象があった。

「元々、これ自体外の倉庫だったんだよ。こっちの建物に繋げるように増築して、この扉はその際に〝その手の専門家〟にもらったやつなんだ」

 じっと見ていた雪弥が、初めての来店である事を気遣ったのか。施錠をがちゃがちゃと外していきながら風間が言った。

 すると暇を潰すように、形のいい唇を少し引き上げて宮橋も教えた。

「雪弥君、この扉は、元々いわくつきの物件にあったものなんだよ。そういった物は、使いようによってはいい術具になる。実際、外結界の要としてかなり役立っている」
「はぁ、なるほど……?」

 どこかの廃墟にでもあった鉄の扉、というのはなんとなく分かった。でも正直、宮橋が何を言っているのかはよく分からない。

 そんな事を思っている間にも、風間がやけに厳重に施錠されている最後の鍵まで外した。

「こっちへどうぞ」

 ここから向こうが、店内の最奥。新米刑事であると思われているせいだろうか。風間が宮橋に続いて、初対面の雪弥を見て手で柔らかにそう促した。

 雪弥は、中へと入っていく宮橋に続いて鉄の扉をくぐった。後ろから風間が入って扉を閉め直す中、不意に、一瞬変な感じがして足を止めた。

 ――なんだろう。あまり、好(す)かない。

 その時、ピーンと警戒を張った雪弥の耳に、宮橋の声が入った。

「〝結界〟を通り抜けたからさ」

 目を向けると、足を止めて雪弥を待っている宮橋がいた。まるで落ち着かせるみたいに、珍しくどこか柔らかな微笑を口元に浮かべてくる。

「大丈夫だよ。大丈夫だから、安心しなさい。君にとっては、ちょっと嫌なタイプのものかもしれないが、害はない」

 どこか含むような口調で、宮橋がただただ落ち着かせるような柔和さでそう言った。

 訝って様子を見ていた風間が、そこでふと、納得した顔をする。

「なんだ、結界を感じるって事は、この綺麗な顔した新人さんも〝そっち関係〟なんですか?」
「――ま、そんなところかな」

 宮橋が話を打ち切った。風間は詮索せず「どうりで、それっぽい空気があると思った」と感想して案内すべく歩き出した。

 風間の言う『倉庫』の中を、そのまま奥へと進んだ。窓は一つもなくて、天井近くにぽつぽつと空いた通気口から差し込む明かりで、薄暗い風景がぼんやりと浮かび上がっているくらいだった。

 ここは、本当に倉庫としてあるようだ。先程まで通ってきたところと違って、誰かに見られるように配慮された〝展示〟はなかった。

 物が一層、ごちゃごちゃとまとまりなく置かれている。保存のために布がかぶせられていたり、ガラスケースに入れられている物が床の上までも埋め尽くしてあった。

「んで? 宮橋先輩のおめあては、一体なんすか?」

 ふと、風間が思い出した様子で、肩越しに振り返って宮橋に尋ねる。

「『怨鬼の衣』だよ」
「それはまた、かなりのレア物っすね。んでもって、実在する『怨鬼の衣』のオリジナルのうち、三着は俺が持っているんですけどね!」

 にこーっと風間がご満悦の様子で笑う。

 滅多にない『鬼の着物』。それを三つもと考えると、蒐集かとしてはめちゃくちゃ嬉しく思ってしまうくらい、たっぷり自慢できる事……なのかもしれない。

 そもそも雪弥は、その価値がよく分からない。ただの人間が鬼と変じていく〝材料〟の一つというイメージも、ピンとこないでいる。

「ただの着物で、人が鬼になったりするんですかね?」

 ぽつりと疑問を口からこぼしてしまった。すると首を傾げた雪弥に、風間がきょとんとした目を向けた。

「あんた、『怨鬼の衣』を知らないのか? 鬼の着物と呼ばれているものは、いくつかあるけど〝着るだけで簡単に鬼になるわけじゃない〟ぞ?」
「え? そうなんですか? でも危険なんですよね? だから、奥に厳重にしまわれている」

 雪弥は、不思議に思ってそう尋ね返した。見つめ返す風間も、彼と似たような表情を浮かべて、しばし見つめ合っていた。

「まぁ、危ないのは確かだけど」

 ややあって、風間がようやく切り出した。

「それは〝きっかけ〟と〝影響〟を強く与えるからさ。着物に宿った想いが、鬼の物であれば尚更、人はあっさりと〝引きずられる〟」
「心理的に影響を受ける、と……?」
「なんだ、べっぴんの兄さんは、こっちの世界に関しても入ったばかりの新人さんなのか?」

 ますます余計に分からなくなってきた雪弥を見て、風間は、なら教えてあげないとなと先輩風に続ける。

「怨鬼ってのは、怨んで鬼。自分(てめぇ)で恨んで、人が勝手に鬼になるのさ。けど、それだけならいい。でも自分の意思ではないのに『怨み鬼』になっちまうのは、だめだ。影響よりも厄介なのが、それを道具にすれば恨みだとかいった感情や事情なんて、必要なくなるってところ」

 奥へと向かいながら話す風間が、そこで視線を前へと戻して「なんて言ったらいいのかなぁ」とぼやきガリガリと頭をかく。

「なんつうか、人が鬼になるってのは相当な想いの強さがないと、滅多にならないもんなんだよ。それを外から、他者の手で、意思と運命を捻じ曲げられて鬼に堕とされる。これは、あっちゃいけない事なんだ」
「誰かを鬼にしてしまえるかもしれないから、危ないものとして奥にしまってあるんですか?」

 雪弥が確認すると、風間が詳細説明をしない事にして「まっ、そういうこと」と吐息交じりに答えて肩を竦めてみせた。

 その時、凛、と美しい声が二人の間に割って入った。

「もしくは、偶然にも手にした人間が影響を受けて、まるで自分が考えたかのように鬼になる事を望んで動きだすのを防ぐために、だよ」

 そう口にしたのは、宮橋だった。

「ああいうモノは、人を呼ぶ。だからこうやって、結界の中に封印しておくわけさ」
「ふうん。人を呼ぶ、というのも不思議なものですね」
「んなの、ごろごろあるんスよ新人君。俺としては、趣味の蒐集が仕事になって何より。まさか保管庫に需要があるとか、無理してサラリーマンになったばっかり当時は、全く思わなか――あああああああああ!?」

 不意に風間が、仰天した悲鳴を響かせた。宮橋が、心底うるさいと言わんばかりに片手で耳を押さえている。

「いきなりなんだ、煩いぞ」
「だ、だって、み、みみみ宮橋先輩、俺の、えっ、えええええぇぇ」
「きちんと話せ。分からん」

 そんなやりとりのそばで、雪弥は、彼が見ている方へ目を留めた。

 その途端、風間の驚きっぷりの理由が分かって「あ」と声を上げた。
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