半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~

百門一新

文字の大きさ
20 / 44

五章 もふもふと頑張ります!

しおりを挟む
             ◆

 屋敷の敷地に戻ったのち、リリアたちは早速『逆さ草』があるという、庭の一つである広い原へと向かった。

「すっげぇ広いですね! さすが姫様のお屋敷です」

 人間の屋敷には近付かないでいるというカマルが、歩きながら「ほえー」と感心しきりで、きょろきょろしていた。

「元は馬を走らせるための場所でした。オウカ姫が、お腹の中にいる姫様のことを考えて、いずれ仔狐として走り回る頃に使えるようにと、旦那様と話し合って原にしたのです」
「そうなの、母様からの贈り物なのよ!」

 リリアは、アサギの横をふわふわと飛びながら、嬉しさいっぱいに笑った。長らく滞在できない母ではあるけれど、身ごもっていた当時の思い出も、だから屋敷中にたくさん溢れている。

 風邪が吹き抜けるたびに、さらさらと草が立てる心地良い音がする。

 アサギが中央で足を止めて、リリアも着地した。揃ってしゃがみ込む姿に気付いた使用人達が、屋敷の窓から、見慣れないカマルの姿に「一体何かしら?」と首を傾げる。

「まず、土の上を妖力をこめて軽く数回叩くと、つられて根が出てきます」

 言いながら、アサギが実践する。

 すると、新緑色の根が土からするりと出てきた。それは風に吹かれたわけでもないのに、ゆらゆらと左右に振れている。

「茶色じゃないのね」
「実のところ、この妖怪国産の植物は、根の部分が本体なんですよ。こうやって先端部分を引っ張れば、ちぎられたくないので、するすると出てきます」

 その様子を、カマルがリリアと一緒になって、興味津々と見つめていた。

「わー、俺、こんな植物はじめて見たなぁ」
「妖怪国の中央に生息しているものですから、化け狸の土地では見掛けないでしょうね。こう見えて最弱の植物のあやかしの一種です」
「だから『ちぎられたくない』と言ったのね」
「そうです。そして、この根から一本ずつ生えているのが、あやかしが術で使う部分の『逆さ草』です」

 アサギが、指を向けてそう説明した。

 新緑色の細い根には、間隔を開けて一本ずつ小さな草が生えていた。人差し指ほどの長さの細い茎、その上に、四枚からなる小さなひし形の草がある。

 それを一本ずつ取っては、微力に妖力を入れて結んで繋いでいくという作業をした。

 地道で細かい作業だった。じっと座り込んで、細い茎が千切れないように結んでいく。妖力が大きすぎるとボッと火がついた。

「あつっ」

 ――が、そのたび、熱いと訴えるのはカマルの方だった。

 どうやら、妖力が高いあやかしほど平気であるらしい。アサギが同じように妖力を込め過ぎて『逆さ草』を弾けさせると、その飛び火にも騒ぐのは、カマル一人だった。

「アサギさんっ、わざとじゃないですよね!? ――ぐえっ」

 直後、カマルの顔面が原に埋まった。

「『様』を付けてください。私は伯爵家の執事、そしてあなたより格上です」
「お、俺に対してのみ、すごく厳しい」
「今回、姫様に余計な頼みごとをして、余計な労力をさせているんですよ。それ分かっているんですかね」
「『余計』って、二回言った……はい、すみませんでした」

 リリアとしては、妖力のコントロールの訓練になっていいかなと思っていた。次第にコツが掴めてきて、歪ながら草が繋がっていく様子には達成感も覚えた。

 休みを挟んで作業に没頭した後、夕暮れにアサギが一時撤収を告げた。

「実は、小さい狸に頼み込まれて、協力することになりました」

 屋敷に戻ってきたツヴァイツァーに、経緯がざっと報告された。

 使用人一同も集められたメインフロアで、カマルが狸姿に戻って見せると、彼らと一緒になってツヴァイツァーも「おぉ」と目を輝かせた。

「可愛いなぁ。あっ、もふもふだ!」
「前触れもなく俺を持ち上げましたよこの伯爵様……あの、いちおう大人なので、抱っこされるのは恥ずかしいです」

 大人と言われても、全員ピンと来ていない様子だった。狸姿もそうなのだけれど、人型に変身すると少年姿なのも原因だろう。

「結婚のために頑張っていることは、よく分かったよ。夜になると、外は真っ暗だ。終えるまではウチに泊まっていけばいいよ」

 ただし、リリアは婚前の娘なので、屋敷の中で過ごす時には、動物姿でいることが条件となった。

 そういうことでツヴァイツァーの許しもあって、その日から、化け狸カマルとの生活が始まった。

 喋る動物が歩いているみたいで可愛いと、屋敷の者にも初日からカマルは人気だった。大人のオスなんですがとアサギがツッコミしても、みんなにはペット枠なのか、リリアと同じ部屋で寝泊まりした。

「まぁ、結婚予定の女性たぬきがいますからね。――そうでなかったら、俺が焼いています」

 食事の席で、アサギが拳を掲げて真剣な顔でそう言った。

 狸姿のカマルは、客人扱いで食事の席に同席していた。小さな前足で器用にスプーンを持ち、美味しそうに食べる様子を、使用人達が「かわいー」と見ていた。

「ははは、アサギは厳しいなぁ」

 ツヴァイツァーが笑う声を聞きながら、リリアはもふもふ狸の食事風景に、同じように癒されていた。

「これ、食べてみる? あ、狸も大丈夫だったっけ?」
「俺、化け狸だから基本的になんでも平気ですよー。へへっ、メイも、すごく料理上手なんです」

 惚気を口にしつつも、カマルが「お言葉に甘えて」とフォークを伸ばし、リリアから寄越された皿の上の料理を、ぱくんっと口に入れる。

 もっぐもっぐする彼は、大変ご満悦そうな表情だった。もふもふとしたほっぺが動いていて、幸せそうに目元も緩んでいる。

 その様子を、扉の向こうからこっそり眺めていた料理長やコック達が、狸にも好評価な味なのだと分かって感動していた。

 そのかたわらで、執事としてそばに立つアサギと、屋敷の主人であるツヴァイツァーの話は続いていた。

「旦那様が『結婚する相手がいる』という話だけで、信用しすぎなんです」
「だからアサギも一緒に寝泊まりさせているだろう? はぁ、本当は俺が一緒にリリアと寝たいけど、お前が放電期だというから」
「そこでグチグチ言わない。放電から守らないといけなくなるんで、俺が休めません」

 ――事実、カマルはリリアのクシャミで、何度か若干焦げてもいた。

 その日も、翌日も、大きな岩のあやかしをどかすための下準備作業は続いた。

 量はだいぶたまってきた。慣れ出して、一同の作業効率が良くなったためでもある。

 そんな折り、いつもはないことが起こった。

「あの、お嬢様。お手紙が届いています」
「手紙?」

 学院を休んだことで、手紙を寄越してくるような間柄に覚えはない。

 手紙を持ってきた女性使用人が、戸惑いがちに差し出してくる。疑問に思いながら受け取ったリリアは、宛名を確認して少し驚いた。

 そこには、サイラスの名があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

<完結>溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。 本編完結済み。 続きのお話を、掲載中です。 続きのお話も、完結しました。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

だってわたくし、悪女ですもの

さくたろう
恋愛
 妹に毒を盛ったとして王子との婚約を破棄された令嬢メイベルは、あっさりとその罪を認め、罰として城を追放、おまけにこれ以上罪を犯さないように叔父の使用人である平民ウィリアムと結婚させられてしまった。  しかしメイベルは少しも落ち込んでいなかった。敵対視してくる妹も、婚約破棄後の傷心に言い寄ってくる男も華麗に躱しながら、のびやかに幸せを掴み取っていく。 小説家になろう様にも投稿しています。

モブ令嬢、当て馬の恋を応援する

みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~

ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、 夜会当日── 婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、 迎えに来ることはなかった。 そして王宮で彼女が目にしたのは、 婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。 領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、 感情に流されることもなく、 淡々と婚約破棄の算段を立て始める。 目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、 頭の中で、今後の算段を考えていると 別の修羅場が始まって──!? その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、 エヴァンジェリンの評価と人生は、 思いもよらぬ方向へ転がり始める── 2月11日 第一章完結 2月15日 第二章スタート予定

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...