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(八章)図書委員会の少年たちと 下
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「第二王子殿下は、お立場上でも注目されているお方です。魔法部隊から護衛を派遣して魔力の影響を押さえ、そのうえで個別授業を受けることがお噂になっていました」
しかし、それまでに魔力のコントロールがかなり進んだ。
現在、魔法教育機関の最高責任者である先代の『最強の魔法使い』のお墨付きのもと、本人の意思も引き続きあって、学院の方針に沿い通常通いとなった、のだとか。
「ああ、そこでセットになって噂になったのが、あのアグスティーナ様でしたねっ」
ピンっと思ったままに眼鏡の彼が言った。
サイラスが、他の生徒達と同じように授業を受ける。そう知らされた時、真っ先入学を宣言し、動き出したのが公爵令嬢アグスティーナだったのだという。
「以前から入学のお噂はあったんですけど、淑女教育のみの方を受講する予定だったんですよ。それが急きょ変更されて……その、専門の科目の方も受けることに」
サイラスの婚約者の前であるのを思い出したのか、彼が躊躇い言葉を切った。
アグスティーナのその行動は、サイラスと接触する機会を増やすためだろう。一般教養外の女生徒の受講も、かなり増えたのだとは、リリアも入学した頃に聞いていた。
ただ、専門科目に関しては学びも楽ではない。やっぱり無理と、科目を早々に外してしまうという、教授らが困った事態も続出している。
そんなことを思い返していると、眼鏡ではない方の少年が「あー」とぎこちなく声を出した。
「確かに騒いでいる令嬢達もいるようですが、俺としては、まぁ、あなたが婚約者で良かったかな……て思いますけどね」
「え?」
リリアは、思わず訊き返してしまった。まさかの感想だった。
すると眼鏡の少年も、おずおず手を上げて「実は……」と述べてきた。
「僕も、その派です」
「えっ、あなたも? どうしてそう思うの」
「だって殿下は、すごい魔法使いじゃないですか。普通の令嬢だと、理解が難しいところもあるかもしれないけど、でも、あなたは不思議な力を持っていて、分かる部分だってあるんじゃないかなって思ったんです」
「それに、あなたの方が、よくも悪くも害がないかなって」
ふう、と背の高い少年が溜息をもらす。
ちょっと待て。害がないって、なんだ。リリアは途端に、『理解』の部分を考えていたことも忘れて言い返した。
「ちょっとノッポ君、それどういう意味?」
いい話かと思ったら、何もしない人だから、お飾りでちょうどいいってことなの?
確かに、第二王子の婚約者だからという理由で偉ぶったり、困らせたりしたことはない。それと同時に、婚約者として相手を立てるような役にも、立っていない。
――名ばかりで、相応しくない。
リリアは、ふと思い出して腹のあたりがムカムカした。
いるかいないかも分からない婚約者であれば、まだマシだったろう。自分は学院でもサイラスとやり合い、令嬢と言い合って、日頃から騒がせてもいる。
そう考えると、害がないとも言い切れない。この前だって、強く放電する寸前、コンラッドの存在に助けられたばかりだ。
彼らだって、さぞ嫌だろうに――。
そんなことをリリアが考えていると、背の高い彼が顔を押さえて呻いた。
「やっぱり『ノッポ君』だった……」
その呟きを聞いた眼鏡の少年が、彼の肩にぽんっとする。
リリアは訝った。
「何?」
「いえ、なんでもないです」
背の高い彼は、気を取り直してリリアに答えた。
「ああ、先程のも悪口ではないので誤解しないでください。ほんと社交辞令ではなくて、俺も遠目から見た印象、あなたで良かったなと個人的に思ったんですよ。嫌味っぽくない言い方とか、頭がよくて、パッと決めて即行動に移れるところとか」
よく分からなくて、リリアは見つめ返す。
分かっていないのを表情に見て取り、眼鏡の少年が、意外な反応だと言わんばかりに目を丸くした。背の高い少年が、続けて軽く笑った。
「うん。思っていた通りの人でした」
そう笑って言った彼が、リリアを指差した。
「たとえば、今、ですよ」
「今?」
「ついでに言えば、この前も空を飛んで、教授の荷物を運んでいたでしょう? 裏手のこっちからだと、よく見えるんです」
そういえば、最近もそんなことがあった。やけに荷物が多かったから「なんなら先に降ろしてきますよ」と、帰るコースついでに提案したのだ。
あれは、ついでだったから荷物を降ろしてやっただけだ。歩くより、飛んで持った方が負担も少ないし、楽ではある。
でも結局のところ、彼が何を言いたいのか分からなかったな。
リリアは、余っていた時間がもう少なくなっているのに気付いて、思案を打ち切る。ダンボール箱を目的の場所まで届けたら、最後の分の授業に向かわないといけない。
「じゃ、ひとまず行くわ」
ダンボール箱を持って、ふわりと浮いたところで、ふとリリアは思い出した。
「本の返却のこと、ありがとう。また何か借りにくるわ」
「はい、楽しみにお待ちしてます」
背の高い方の少年が、やっぱり少し物珍しそうにリリアを見上げて、でもまぁいいかという感じですぐに笑って答えた。
すると眼鏡の少年も、パッと笑顔で言ってくる。
「恋愛小説で『騎士系』のやつ、何か探しておきますね!」
その親切心たっぷりの台詞を聞いた途端、リリアは「ぶっ」と妙な息を吐いてしまった。
「ちょ、なんでそれを知ってるのよ!」
「え? だって、お好きなんでしょう? 一部の令嬢達からも『実は、私達も好きなんです』とご要望がありまして。一般書コーナーの一部に、これから置かれることになったんですよ」
「えっ、そうなの!?」
「はい。早ければ来週、その第一弾の荷物が大量に届く予定です」
恋愛小説が好きで、好みのタイプの物語とヒーロー像が知られているのは、恥ずかしい。でも……。
王都の新作を読めるのは、正直いうと悪くない。
「じゃあ、よろしく」
リリアは恥じらいつつもそう答えると、ダンボール箱を抱えたまま館内を飛行で移動し、図書館を出た。
しかし、それまでに魔力のコントロールがかなり進んだ。
現在、魔法教育機関の最高責任者である先代の『最強の魔法使い』のお墨付きのもと、本人の意思も引き続きあって、学院の方針に沿い通常通いとなった、のだとか。
「ああ、そこでセットになって噂になったのが、あのアグスティーナ様でしたねっ」
ピンっと思ったままに眼鏡の彼が言った。
サイラスが、他の生徒達と同じように授業を受ける。そう知らされた時、真っ先入学を宣言し、動き出したのが公爵令嬢アグスティーナだったのだという。
「以前から入学のお噂はあったんですけど、淑女教育のみの方を受講する予定だったんですよ。それが急きょ変更されて……その、専門の科目の方も受けることに」
サイラスの婚約者の前であるのを思い出したのか、彼が躊躇い言葉を切った。
アグスティーナのその行動は、サイラスと接触する機会を増やすためだろう。一般教養外の女生徒の受講も、かなり増えたのだとは、リリアも入学した頃に聞いていた。
ただ、専門科目に関しては学びも楽ではない。やっぱり無理と、科目を早々に外してしまうという、教授らが困った事態も続出している。
そんなことを思い返していると、眼鏡ではない方の少年が「あー」とぎこちなく声を出した。
「確かに騒いでいる令嬢達もいるようですが、俺としては、まぁ、あなたが婚約者で良かったかな……て思いますけどね」
「え?」
リリアは、思わず訊き返してしまった。まさかの感想だった。
すると眼鏡の少年も、おずおず手を上げて「実は……」と述べてきた。
「僕も、その派です」
「えっ、あなたも? どうしてそう思うの」
「だって殿下は、すごい魔法使いじゃないですか。普通の令嬢だと、理解が難しいところもあるかもしれないけど、でも、あなたは不思議な力を持っていて、分かる部分だってあるんじゃないかなって思ったんです」
「それに、あなたの方が、よくも悪くも害がないかなって」
ふう、と背の高い少年が溜息をもらす。
ちょっと待て。害がないって、なんだ。リリアは途端に、『理解』の部分を考えていたことも忘れて言い返した。
「ちょっとノッポ君、それどういう意味?」
いい話かと思ったら、何もしない人だから、お飾りでちょうどいいってことなの?
確かに、第二王子の婚約者だからという理由で偉ぶったり、困らせたりしたことはない。それと同時に、婚約者として相手を立てるような役にも、立っていない。
――名ばかりで、相応しくない。
リリアは、ふと思い出して腹のあたりがムカムカした。
いるかいないかも分からない婚約者であれば、まだマシだったろう。自分は学院でもサイラスとやり合い、令嬢と言い合って、日頃から騒がせてもいる。
そう考えると、害がないとも言い切れない。この前だって、強く放電する寸前、コンラッドの存在に助けられたばかりだ。
彼らだって、さぞ嫌だろうに――。
そんなことをリリアが考えていると、背の高い彼が顔を押さえて呻いた。
「やっぱり『ノッポ君』だった……」
その呟きを聞いた眼鏡の少年が、彼の肩にぽんっとする。
リリアは訝った。
「何?」
「いえ、なんでもないです」
背の高い彼は、気を取り直してリリアに答えた。
「ああ、先程のも悪口ではないので誤解しないでください。ほんと社交辞令ではなくて、俺も遠目から見た印象、あなたで良かったなと個人的に思ったんですよ。嫌味っぽくない言い方とか、頭がよくて、パッと決めて即行動に移れるところとか」
よく分からなくて、リリアは見つめ返す。
分かっていないのを表情に見て取り、眼鏡の少年が、意外な反応だと言わんばかりに目を丸くした。背の高い少年が、続けて軽く笑った。
「うん。思っていた通りの人でした」
そう笑って言った彼が、リリアを指差した。
「たとえば、今、ですよ」
「今?」
「ついでに言えば、この前も空を飛んで、教授の荷物を運んでいたでしょう? 裏手のこっちからだと、よく見えるんです」
そういえば、最近もそんなことがあった。やけに荷物が多かったから「なんなら先に降ろしてきますよ」と、帰るコースついでに提案したのだ。
あれは、ついでだったから荷物を降ろしてやっただけだ。歩くより、飛んで持った方が負担も少ないし、楽ではある。
でも結局のところ、彼が何を言いたいのか分からなかったな。
リリアは、余っていた時間がもう少なくなっているのに気付いて、思案を打ち切る。ダンボール箱を目的の場所まで届けたら、最後の分の授業に向かわないといけない。
「じゃ、ひとまず行くわ」
ダンボール箱を持って、ふわりと浮いたところで、ふとリリアは思い出した。
「本の返却のこと、ありがとう。また何か借りにくるわ」
「はい、楽しみにお待ちしてます」
背の高い方の少年が、やっぱり少し物珍しそうにリリアを見上げて、でもまぁいいかという感じですぐに笑って答えた。
すると眼鏡の少年も、パッと笑顔で言ってくる。
「恋愛小説で『騎士系』のやつ、何か探しておきますね!」
その親切心たっぷりの台詞を聞いた途端、リリアは「ぶっ」と妙な息を吐いてしまった。
「ちょ、なんでそれを知ってるのよ!」
「え? だって、お好きなんでしょう? 一部の令嬢達からも『実は、私達も好きなんです』とご要望がありまして。一般書コーナーの一部に、これから置かれることになったんですよ」
「えっ、そうなの!?」
「はい。早ければ来週、その第一弾の荷物が大量に届く予定です」
恋愛小説が好きで、好みのタイプの物語とヒーロー像が知られているのは、恥ずかしい。でも……。
王都の新作を読めるのは、正直いうと悪くない。
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