半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~

百門一新

文字の大きさ
37 / 44

(八章)図書委員会の少年たちと 下

しおりを挟む
「第二王子殿下は、お立場上でも注目されているお方です。魔法部隊から護衛を派遣して魔力の影響を押さえ、そのうえで個別授業を受けることがお噂になっていました」

 しかし、それまでに魔力のコントロールがかなり進んだ。

 現在、魔法教育機関の最高責任者である先代の『最強の魔法使い』のお墨付きのもと、本人の意思も引き続きあって、学院の方針に沿い通常通いとなった、のだとか。

「ああ、そこでセットになって噂になったのが、あのアグスティーナ様でしたねっ」

 ピンっと思ったままに眼鏡の彼が言った。

 サイラスが、他の生徒達と同じように授業を受ける。そう知らされた時、真っ先入学を宣言し、動き出したのが公爵令嬢アグスティーナだったのだという。

「以前から入学のお噂はあったんですけど、淑女教育のみの方を受講する予定だったんですよ。それが急きょ変更されて……その、専門の科目の方も受けることに」

 サイラスの婚約者の前であるのを思い出したのか、彼が躊躇い言葉を切った。

 アグスティーナのその行動は、サイラスと接触する機会を増やすためだろう。一般教養外の女生徒の受講も、かなり増えたのだとは、リリアも入学した頃に聞いていた。

 ただ、専門科目に関しては学びも楽ではない。やっぱり無理と、科目を早々に外してしまうという、教授らが困った事態も続出している。

 そんなことを思い返していると、眼鏡ではない方の少年が「あー」とぎこちなく声を出した。

「確かに騒いでいる令嬢達もいるようですが、俺としては、まぁ、あなたが婚約者で良かったかな……て思いますけどね」
「え?」

 リリアは、思わず訊き返してしまった。まさかの感想だった。

 すると眼鏡の少年も、おずおず手を上げて「実は……」と述べてきた。

「僕も、その派です」
「えっ、あなたも? どうしてそう思うの」
「だって殿下は、すごい魔法使いじゃないですか。普通の令嬢だと、理解が難しいところもあるかもしれないけど、でも、あなたは不思議な力を持っていて、分かる部分だってあるんじゃないかなって思ったんです」
「それに、あなたの方が、よくも悪くも害がないかなって」

 ふう、と背の高い少年が溜息をもらす。

 ちょっと待て。害がないって、なんだ。リリアは途端に、『理解』の部分を考えていたことも忘れて言い返した。

「ちょっとノッポ君、それどういう意味?」

 いい話かと思ったら、何もしない人だから、お飾りでちょうどいいってことなの?

 確かに、第二王子の婚約者だからという理由で偉ぶったり、困らせたりしたことはない。それと同時に、婚約者として相手を立てるような役にも、立っていない。

 ――名ばかりで、相応しくない。

 リリアは、ふと思い出して腹のあたりがムカムカした。

 いるかいないかも分からない婚約者であれば、まだマシだったろう。自分は学院でもサイラスとやり合い、令嬢と言い合って、日頃から騒がせてもいる。

 そう考えると、害がないとも言い切れない。この前だって、強く放電する寸前、コンラッドの存在に助けられたばかりだ。

 彼らだって、さぞ嫌だろうに――。

 そんなことをリリアが考えていると、背の高い彼が顔を押さえて呻いた。

「やっぱり『ノッポ君』だった……」

 その呟きを聞いた眼鏡の少年が、彼の肩にぽんっとする。

 リリアは訝った。

「何?」
「いえ、なんでもないです」

 背の高い彼は、気を取り直してリリアに答えた。

「ああ、先程のも悪口ではないので誤解しないでください。ほんと社交辞令ではなくて、俺も遠目から見た印象、あなたで良かったなと個人的に思ったんですよ。嫌味っぽくない言い方とか、頭がよくて、パッと決めて即行動に移れるところとか」

 よく分からなくて、リリアは見つめ返す。

 分かっていないのを表情に見て取り、眼鏡の少年が、意外な反応だと言わんばかりに目を丸くした。背の高い少年が、続けて軽く笑った。

「うん。思っていた通りの人でした」

 そう笑って言った彼が、リリアを指差した。

「たとえば、今、ですよ」
「今?」
「ついでに言えば、この前も空を飛んで、教授の荷物を運んでいたでしょう? 裏手のこっちからだと、よく見えるんです」

 そういえば、最近もそんなことがあった。やけに荷物が多かったから「なんなら先に降ろしてきますよ」と、帰るコースついでに提案したのだ。

 あれは、ついでだったから荷物を降ろしてやっただけだ。歩くより、飛んで持った方が負担も少ないし、楽ではある。

 でも結局のところ、彼が何を言いたいのか分からなかったな。

 リリアは、余っていた時間がもう少なくなっているのに気付いて、思案を打ち切る。ダンボール箱を目的の場所まで届けたら、最後の分の授業に向かわないといけない。

「じゃ、ひとまず行くわ」

 ダンボール箱を持って、ふわりと浮いたところで、ふとリリアは思い出した。

「本の返却のこと、ありがとう。また何か借りにくるわ」
「はい、楽しみにお待ちしてます」

 背の高い方の少年が、やっぱり少し物珍しそうにリリアを見上げて、でもまぁいいかという感じですぐに笑って答えた。

 すると眼鏡の少年も、パッと笑顔で言ってくる。

「恋愛小説で『騎士系』のやつ、何か探しておきますね!」

 その親切心たっぷりの台詞を聞いた途端、リリアは「ぶっ」と妙な息を吐いてしまった。

「ちょ、なんでそれを知ってるのよ!」
「え? だって、お好きなんでしょう? 一部の令嬢達からも『実は、私達も好きなんです』とご要望がありまして。一般書コーナーの一部に、これから置かれることになったんですよ」
「えっ、そうなの!?」
「はい。早ければ来週、その第一弾の荷物が大量に届く予定です」

 恋愛小説が好きで、好みのタイプの物語とヒーロー像が知られているのは、恥ずかしい。でも……。

 王都の新作を読めるのは、正直いうと悪くない。

「じゃあ、よろしく」

 リリアは恥じらいつつもそう答えると、ダンボール箱を抱えたまま館内を飛行で移動し、図書館を出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

<完結>溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。 本編完結済み。 続きのお話を、掲載中です。 続きのお話も、完結しました。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

だってわたくし、悪女ですもの

さくたろう
恋愛
 妹に毒を盛ったとして王子との婚約を破棄された令嬢メイベルは、あっさりとその罪を認め、罰として城を追放、おまけにこれ以上罪を犯さないように叔父の使用人である平民ウィリアムと結婚させられてしまった。  しかしメイベルは少しも落ち込んでいなかった。敵対視してくる妹も、婚約破棄後の傷心に言い寄ってくる男も華麗に躱しながら、のびやかに幸せを掴み取っていく。 小説家になろう様にも投稿しています。

モブ令嬢、当て馬の恋を応援する

みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~

ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、 夜会当日── 婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、 迎えに来ることはなかった。 そして王宮で彼女が目にしたのは、 婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。 領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、 感情に流されることもなく、 淡々と婚約破棄の算段を立て始める。 目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、 頭の中で、今後の算段を考えていると 別の修羅場が始まって──!? その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、 エヴァンジェリンの評価と人生は、 思いもよらぬ方向へ転がり始める── 2月11日 第一章完結 2月15日 第二章スタート予定

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...