半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~

百門一新

文字の大きさ
42 / 44

(九章)大きな妖狐(姫様)VS大きな化け狸

しおりを挟む
 リリアは、金色の狐の姿で空を駆けるように飛び、領地の境を目指した。

 森の上空には、妖狐が数頭いた。

「あっ、え、姫様!?」
「マジかよ」

 何度も確認した彼らが、リリアが到着したのを見届け、どよめいた。

 リリアは、ずっと森の向こうの大地を見据えていた。バカデカい化け大狸が、何やら「出て来い」やら「こんちくしょーっ」やらと喚いて、地団太を踏んでいる。

 どしんっ、どしんっと大地が揺れていた。

 なんだか騒がしい巨大あやかしだ。

 確かに、姿は狸ではあるのだけれど、異国の服っぽい布を巻いている。茶色の紐で締められて、じゃかじゃか音を立てる鉄器と武器も持っていて、余計に煩い。

「あとは、私がやるわ」

 何アレ、と思いつつも、リリアは狐達に言った。

「しかし――」
「あなた達は、森の方で待機! もしも森に踏み込まれそうになった時は、全力で押し返すのが役目よ!」
「ひぇっ、りょ、了解です!」

 牙を剥かれ、有無を言わさず指示された狐達が、揃って右前足で敬礼を取った。

 リリアは大きな金色の尾を揺らすと、暴れているデカい狸の方へと向かった。

 すると大狸の方が、その姿に気付いた。アサギを連れたリリアが、近くの上空で立ち止まるなり、彼がくわっと目を見開いた。

「貴様が『リリア姫』かああああ!」

 唐突に、怒鳴ったその大きな声が、爆音となって空気を震わせた。

 とにかく煩い。リリアは、発声された余韻の風を感じながら、凛々しい狐の顔を顰めた。アサギは「うわー」と半笑いで言う。

「すんげぇ無駄な妖力込めてますね~。微塵にも感じてない姫様、さすがです」

 その後ろの方こうでは、森の上空に残っている狐達が「ひぇ」と声を上げてひっくり返っていた。

「この距離にいるんだから、聞こえてるわよ。私が『リリア』よ」
「ワシは大妖怪にして、ウゲン様に土地の一つを任された領地主、化け大狸の『タヌマヌシ』!」

 名乗った巨大な狸、タヌマヌシが迫力ある形相で睨み付けた。

 間違いない。彼が、カマルの結婚相手であるメイの父親だ。この大きさなら、確かにあの大きな岩のあやかしも、素手であっさり持ち上げられそうである。

 ひとまず、相手に敬意を払ってリリアは声をかけた。

「カマルから話は聞いてます。末の娘、メイさんの父親ですよね? この前の件は、無事にカマルとあなたの間で話の決着がついたかと。それなのに、どうしてウチに?」

 すると、不意にタヌマヌシが、いかつい目を「うっ」と潤ませた。

 リリアは、狐姿の凛々しい顔面がピキンと強張った。アサギが「うわぁ」とドン引き、後ろの森側で眺めていた狐達が「げぇ」「可愛くない……!」などなど騒ぎ出す。

「お、お前のせいで、出ていかれてしまったではないかあ!」

 突如、タヌマヌシが、ぶわっと涙を浮かべて雄叫びを上げた。

「たった一人の女の子だったんだぞ! 一番下のっ、唯一ワシのところに残っていた、可愛い可愛い末娘じゃ! それなのにどうしてくれる!? めっちゃ寂しいわいっ!」

 うおおおおんと、タヌマヌシが大泣きしながら叫んだ。

 ……うわぁ、くだらない。

 リリアは、その一千年越えの大妖怪の狸親父の主張を前に思った。かなり娘を溺愛していたのだろうか?

 だが、こちらとしても、本人に会ったらどうしても言っておきたいことがあった。

 そう思い出したリリアは、容赦という言葉など一文字も浮かばない態度で、クワッと目を見開いて牙をむき出しに怒鳴った。

「んなの知るかあぁ! そういえば思い出したけどっ、娘の結婚に反対して、好きになってくれた相手に意地悪な難題吹っ掛けるなんて、サイテーよっ!」
「なんだと!? ワシはな、絶対に無理だと思って、試練だと言い渡したんだ!」
「はああああああ!? だから、それがだめなんだってば!」

 ぎゃんぎゃん、二頭の大妖怪が歯をむき出しに主張し合う。

「だってメイちゃんがいなくなったら、ヤだ! ワシ、めっちゃ寂しい! そうしたら貴様らが、あのチビ狸に余計な狐知恵を貸しおってからに!」
「開き直るな! それから、見た目に全っ然合わない可愛い台詞も、やめろ!」

 リリアは、こいつムカツク!と全身で語って、ビシッと言い返した。

 そこで、こらえきれなくなったのか。森の方から半ばこちら側へと飛んできて、狐達が後ろからリリアへ声を投げた。

「ひ、姫様! 領地主になんて口の利き方を……!」
「そうですよ、もう少し穏便に――」
「格下は黙ってろ!」

 リリアが振り向きもせず吠えた途端、強い妖力に当てられた彼らが「はいいぃ!」と反射的に謝って小さくなった。

 持ち合わせている妖力は、今のところほぼ同等だ。

 アサギは、リリアとタヌマヌシの言い合いを、ニヤニヤと面白がって眺めていた。

「そもそも娘の結婚に協力したからって、八つ当たりのごとく向かってきたわけ? どんだけ小さいのよ!」
「小さいっていうな! ワシ、心はめっちゃデカいんじゃ!」

 ぎゃあぎゃあ言い合う二頭の妖力が、感情に煽られて大きくなっていく。

 ピシリッ、ピシリと、空気に亀裂音が混じり始めていた。大妖怪である化け大狸の影響を受けた紫色の妖力と、大妖怪の妖狐リリアの影響をまとった銀色の妖力が、大気を痛めながらぶつかっているためだ。

「カマルが可哀そうでしょう!? あーんなに小さな狸なのにッ」
「ワシだって可哀そうじゃぞ! 上の子はみーんなオスで、ようやく三十五番目に授かった娘が可愛くってたまらんのだ!」
「だーかーらー、娘の幸せ考えるんなら意地悪するなって話なの!」
「意地悪で結構! ワシは狐も化かした大狸ぞ!」

 頭上の空には、あっと言う間に禍々しい色をした雷雲が集まり、不自然にとぐろを巻いていた。一吠えごとに風が吹き荒れ、雷もがんがん落ち始める。

 タヌマヌシのたっぷりの妖力に反応して、地団太を踏むたび大地も揺れた。

 クワッとリリアが激昂を飛ばせば、容赦なく雷撃が走りまくった。

 尻尾に若干感電を喰らった狐が「あっちー!」と悲鳴を上げ、尻を押さえて後ろ足で空を走る。

「姫様! これ、領地上空でやったら、まずいやつですからね!?」
「ひぃええええ、大怪獣合戦みたくなってるうううう!」
「アサギ様なんとかして――っ!」
「ははは、うん、無理」
「もうヤだアサギ様ってS狐なんだもんんんんん!」

 うわーんと狐達が騒いでいる。

 ――だが、そんな小さなことなど知ったことではない、というのが大妖怪気質だ。

 タヌマヌシが、ふんっと大きな鼻息を上げて大地を踏みしめた。

「妻の目を盗んで、ようやくこっちにきたのだ! 鬱憤を晴らさせてくれるっ!」
「じゃあこっちは力づくで帰してくれるわ! ついでに、あんたの奥さんにも、チクる!」
「こ、こらっ、いい年頃の仔狐が『チクる』なんて言葉を使っちゃいけません! そ、そもそも妻に言うとは卑怯だぞっ、どのオスも妻にはめっぽう弱いんだ……」

 ごにょごにょ、と一瞬、タヌマヌシのテンションが下がる。

 直後、咆哮したリリアの雷撃と、一瞬にして戦闘モードに戻ったタヌマヌシの妖術が衝突していた。

 その衝撃でいよいよ風は吹き荒れ、バリリリィッと雷が走る。
 
 牙を剥いた大きな二頭の獣のさまは、人間にはまさに暴れ狂ったような〝怒り〟を体現しても見えた。互いが牙と爪をむき出しに、妖力もぶつけ合っての大喧嘩となった。

 その時だった。不意に狐姿のリリアの耳が、地上からの微かな物音を拾った。

 それは吹き荒れる風の合間に、混じった人の悲鳴だった。

 ……ん? 悲鳴?

 そちらに目を向けて、リリアは目を剥いた。

 そこには巨大な魔法陣があり、その陣の中には多くの人間が立っていたのだ。

「は――はあああああ!? なんで転移魔法が……っ!」

 しかも見る限り、全員が王都で見るような、綺麗な恰好をした貴族達だ。そこには、なぜか公爵令嬢アグスティーナ達の姿もあって、リリアは驚愕で絶句した。

 と、目が合った途端、彼女達が化けものでも見たような悲鳴を上げた。

 恐怖する表情だった。ああ、人以外を見る者の目だわ……だから私、できるだけ狐の姿になりたくなかったのだったと、今更のようにリリアは自覚する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

<完結>溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。 本編完結済み。 続きのお話を、掲載中です。 続きのお話も、完結しました。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

だってわたくし、悪女ですもの

さくたろう
恋愛
 妹に毒を盛ったとして王子との婚約を破棄された令嬢メイベルは、あっさりとその罪を認め、罰として城を追放、おまけにこれ以上罪を犯さないように叔父の使用人である平民ウィリアムと結婚させられてしまった。  しかしメイベルは少しも落ち込んでいなかった。敵対視してくる妹も、婚約破棄後の傷心に言い寄ってくる男も華麗に躱しながら、のびやかに幸せを掴み取っていく。 小説家になろう様にも投稿しています。

モブ令嬢、当て馬の恋を応援する

みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~

ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、 夜会当日── 婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、 迎えに来ることはなかった。 そして王宮で彼女が目にしたのは、 婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。 領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、 感情に流されることもなく、 淡々と婚約破棄の算段を立て始める。 目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、 頭の中で、今後の算段を考えていると 別の修羅場が始まって──!? その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、 エヴァンジェリンの評価と人生は、 思いもよらぬ方向へ転がり始める── 2月11日 第一章完結 2月15日 第二章スタート予定

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...