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ろうでい

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二話 『長女と、次女』

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――

「大丈夫?柚子。難しい顔してるけど」

親友の葵が、顔を覗き込む。

「……大丈夫。とりあえず」

「なによとりあえずって」

いつの間にか授業は終わり、帰りのホームルームも終わっていた。
ゾロゾロと教室から同級生が出ていくのと同時に、空いた私の隣の席に葵が座り込んでいる。

体調は、悪化しなかった。
喉の奥底にある違和感やなんとなくのダルさはあるものの、気にするレベルには達していない。
念のため保健室にも足を運んだし、朝からマスクもつけているが、微熱かどうかくらいの体温なのは朝と変わらなかった。春の陽気のせいだろうか。

「いや、なんか風邪っぽくてさ。でもとりあえず大丈夫みたい」

「ふーん。まあ顔色もそこまで悪くなさそうだしね。心配して損した」

「あはは……お心遣い、感謝します」

葵は鼻から溜息をはいて、私の顔を笑ってみていた。なんだか申し訳なくて、私は照れ笑いする。

「家帰れる?柚子の家までずっと上り坂だよね?自転車キツいでしょ」

「まぁキツいのはいつものコトだし。気合いでなんとかするよ、気合いで」

「ずっと自転車通学だもんね。鍛え上げた足は裏切らないか」

そう言って葵は私の足をパンパンと叩く。
……お世辞にも細くてスレンダーな足とは言い難くなってしまった、山間部との往復自転車通学で鍛え上げられた、私の足を。

「……嬉しくない」

「ま、仕方ないよ。アタシ達、田舎の女子高生だし。はっはっは」

「葵は家近くていいよねー…。なんか忘れ物してもすぐに帰れるし……」

葵の家はこの高校から走れば5分もかからない、超近場。田舎の学生なら誰もが憧れる学校近くの家だ。
一方の私は、どれだけ頑張っても自転車で30分以上はかかる、山中の村の住人……。模範的田舎高校生。上り坂が果てしなく続く帰路。
風邪をひいても自力で家に戻れる、というのはとても羨ましい限りである。

っと。
今日は話し込んでいる時間はないのだった。私は机の中の教材を急いでバッグにしまいこむ。

「ごめん、葵。今日忙しくてすぐ帰らなきゃなんだ」

「あれ、民宿忙しいの?」

「今日から二泊で、合宿が入るの。男子中学生の野球部、30人」

「ひえー。みんな金曜日で浮かれてるっていうのに、柚子は忙しいねぇ」

「……ははは……」

本当に。金曜日の今日の夜から、日曜の朝まで。その後に部屋の掃除をすれば……もう日曜日の半分が過ぎているわけで。休みもあったもんじゃない。風邪気味で済んでいるのは幸いしているが。

「ま、ほどほどにね。お互いがんばろ」

「葵も部活?」

「相変わらずね。落ち着いたら電車で買い物でもいこーよ」

「あ、行きたい行きたい。……それじゃ、それを糧に頑張るわ……」

いつかくる親友との休みのために……。
今は、踏ん張るしかない。私は決意を新たにした。


家に帰っても、体調は変わらなかった。
体力はなんとなく落ちていていつもより自転車を押して戻る時間が多く、一時間近く帰りにかかっちゃったけど…… 身体を犠牲には出来ない。

男子中学生の野球部の合宿。

……なにより侮ってはいけないのは……その、食欲だ。

――
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