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三話 『柚子、東京へゆく』
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「……お、来た」
駅の入り口近くのベンチに座ってスマホを弄っている葵は、私に気付くと手を軽く振った。
一方の私はゼエゼエと息を切らせながら走って葵に近づいていく。
「お、おまたせぇぇ……。ごめんね、遅くなってぇ……ぜえ、ぜえ」
「電車出るまでまだ時間あるから大丈夫だよ。チャリ、ちゃんと駐輪場に止めてきた?」
「う、うん。ばっちり……。ぜえ、ぜえ……」
「毎度のコトだけど、そんな焦って出てこないように時間早めに出てくればいいじゃん。柚子らしいといえばらしいけどさ」
葵は汗だくの私を見てケラケラ笑いながら立ち上がる。
……家から、駅までの距離は長い。
少しでも家から出るのが遅れたり風の向きが自分の進行を妨げたりすると、時間が大幅に狂っていく。それが、私がいつも待ち合わせギリギリになる理由だ。
……時間通りに来る電車、という交通手段が羨ましく、恨めしい。
「葵は学校からも駅からも家が近くていいよねー……。なんなら東京だってすぐ行けるもんなー」
「へへー、いいでしょ。……見よ柚子、これを」
そう言って葵がバッグから取り出したのは… 一枚のカードだった。
私はその取り出されたカードを見て、驚愕する。
「! す、Suisa(すいさ)じゃん!!買ったの!?カードの電車乗るやつ!?」
「はっはっは。電車よく使うからねー。東京行くとき用にね。遂に今日、使う時がきた、と」
「うわー……いいなー。私も買っちゃおうかなー」
「おー、いいんじゃない。買っちゃえ買っちゃえ」
「……」
駅の一台しかない券売機に近づき、私はお金を入れ…。
結局、東京行の切符を買った。
「ダメだ。やっぱコワい」
「なんなのよ怖いって……。文明に近づきなさい、田舎者」
「うううー……」
※ 田舎者あるある その一 …… 電子カードの類は持っているだけで都会人っぽい感じがアップする。(地方によります)
――
「一番線ー。電車が参りーます。お足元お気をつけてお待ちくだーさい」
駅員さんの声を聞いて、何故だか緊張する私がいる。
一方の葵はそんな私を見てニヤニヤと笑っていた。
「柚子、電車で都会行くの何回目?」
「に、二回目……」
「そりゃ緊張もするかー。ま、別に怖いところ行くワケじゃないんだからさ。折角の休みなんだし、気楽にしたまえよ」
「う、うん……。そうする……」
まるで遠足に行く前のバスに乗るような、不安と期待が心臓の辺りを渦巻いている気分だ。
今日は、私も葵も、久しぶりの何も予定がない日。
私は民宿のお客さんがおらず、葵は部活が珍しく休みの日だ。
なので久しぶりに一日どこかでかけよう、という事で……普段なら少しいったところのショッピングモールで済ませるところを、なんと今日は、電車で東京に行こうと葵が言いだしたのだった。
なんでも葵が最近はまっているキャラクターのショップが東京に期間限定で出るらしく……私も、一度しか行った事がない東京にもう一度行きたい、という気持ちがあった。
お互いの目的が噛み合い、そして、今日、この場所に至る。
時代を感じる、灰色の無機質な駅のホームに電車が止まる。
ドアが開き、私は葵に続いておそるおそる乗車をした。
「……わー、電車、久しぶりー」
「こっから二時間以上だからね、柚子。ワクワクしすぎて現地で疲れ切らないでよー?」
「……努力、します」
未だに遠足気分が抜けない私と柚子は、座って発車の時を待つのだった。
※ 田舎者あるある その二 …… 車には乗っているけれど電車に未だに乗った事のない人も少なくない(と、思う)。
――
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