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ろうでい

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三話 『柚子、東京へゆく』

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――

「……ふえー」

電車に乗って一時間以上が過ぎた。
窓から見える景色から緑色が段々と少なくなり、灰色や明るい色が目立つようになる。
要するに、木々と田んぼと畑だらけの風景が時間が経つにつれて大きなビルや商店の電光掲示板の光が増えていく。
すなわち、東京が近づいているという証拠だった。

私はその様子を車内に座りながら口を半開きにして眺めている。

「柚子、口、口」

「……はえ」

葵に口を上に押し上げられた。

「あと30分ってところかな。寝ないで大丈夫だったの?柚子」

「……こんな景色見てたら興奮して寝れないよー。遂に窓から田んぼなくなってきたし……山も見えなくなってきたし」

「まあ、東京来るの二回目ならそりゃそうか。すごいよねー」

「……うん。なんでこんな大きい建物ばっかりあるんだろ。あんな大きいマンションが……あんなにいっぱい。アレ、全部人住んでるのかな」

「そりゃ住んでるでしょ。じゃなきゃ建てないだろうし」

「わー。電車乗ってくる人も増えてきたよ葵ー。これ、満員電車ってやつ?」

「いやいや。本物はもっとすごいらしいよ。平日の朝とか地獄らしいし」

「こ、これより電車に人乗ってくるの……?信じられない……。テレビで見た事はあるけどホントにそうだとは……」

ずっとそんな事を言っている私の顔を見て、葵はクス、と笑った。

「え、どうしたの?葵」

「いやー、柚子ってさ。正直だよね」

「正直?」

「普通はもっとこう、『田舎から出てきたー』ってコト、隠すもんだよ。普通の女子は」

「……え、なんか、私田舎者っぽかった!?」

「かなり」

……自分の言動を思い返すと……確かにそうだったかもしれない。
誰かに聞かれていたかもしれないとなると……ものすごく恥ずかしい。

「柚子、東京一回行ったことある、って言ってたよね?それっていつくらいの話?」

「……7歳、くらい。妹と一緒に遊園地連れてってもらって、帰ってきた」

「……そりゃあまあ、初めてに近いね。東京」

「東京って、テレビのニュースとかドラマでしか見た事ないから……。ホントにこんなにビルばっかりだとは…」

「……現実の景色だからね、一応」


※ 田舎者あるある その三 …… 東京は、思った以上にテレビの中の世界である。

――

「間もなくー、終点でーございます。お降りの方はーお忘れ物のないよう、お気をつけー……」

車内にアナウンスが流れると、すっかり満員になった電車の中の人々が荷物を背負いはじめる。
いよいよ降りる時間が近づいてきた。

私は嬉しいような怖いような複雑な心境のまま、半笑いで葵の方を見た。

「うわー、なんか緊張するー……」

「なんでよ。別に外国に来たわけじゃないんだから」

私とは対照的に葵は慣れた様子だ。同じ出身なのに、なんだか都会人のような雰囲気さえ醸し出している。

「だって、この人数が一斉に電車から出ていくわけでしょ?私、人混みって慣れてなくて…」

「まあ、はぐれないように気をつけたほうがいいかもね」

「みんな東京に用事があるんだよねぇ…。なんでこんなに沢山用事がある人がいるんだろう……。というかそもそも、どうしてこんなに沢山人がいるんだろう。地球ってこんなに人間に溢れてたんだね。知らなかった……」

「おーい、柚子ー。緊張して変な方向いってるから戻ってきなさーい」

半笑いで冷や汗をかいている私の肩を葵が優しく叩く。



電車が止まる。
ドアが開く。

乗客が一斉に出ていくのを少し待って、葵と私は座席から立ち上がり、駅のホームに足を踏み入れる。

「う、わぁ……」

大きな駅。そして、活気。
行き交う人々。走る人。家族と歩く人。スマホを見て歩く人。
飛び交う笑い声。泣き声。会話。

まるで絵本の世界のお城に来たような、別世界の感覚を私は味わっていた。

「どう、柚子。久々の東京」

「……お祭り以外でこんなに人がいるの、初めて見た」

「あー、アタシも同じ事思った。初めて来たとき」


※ 田舎者あるある その四 …… 人の多さに、どこかでお祭りをやっていると勘違いする。


呆然と駅の様子を見る私の手を葵がとった。

「さ、行くよ。こっからまた乗り換えなくちゃいけないから」

「え、そ、そうなの?葵、どう行けばいいか分かるの?」

「下調べもしといたし、大丈夫。えーと次は……10番線だね。さ、いこ」

「じ、10番……!?何本電車あるのココ……!?」

「はいはい、いいからアタシに任せておいて。柚子はとにかく一緒に来てくれればいいから」

「ううううう……」

なんだか自分が情けなくなると同時に、葵が物凄く頼もしく見えてくる。

久しぶりの都会は、初めての都会に近い感覚だった。
人と、街。
自分が知らなかった世界を歩くのは怖いけれど……とても楽しみでもある。

まずは、葵の目当てのキャラクターショップがある場所へと向かう。

私の手をとって未開のジャングルを切り分けるように進む葵は、なんだか別人のようにかっこよく見えるのであった。


※ 田舎者あるある その五 …… 道案内をしてくれる人がいないと、駅で詰む人も少なくはない。
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