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二話 『長女と、次女』
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翌朝。
「……ぷはぁ」
私は再び、明け方の外の空気を浴びながら外の自販機でスポーツドリンクを飲んでいた。
体調は万全。
普段はこんな時間に目は覚めないが、昨日からずっと布団で寝っぱなしのおかげでこんな時間に起きてしまった。
二日間家に籠っていた。田舎の、肌寒い春の朝の空気がこんなに心地いいものだとは今までの人生で感じた事もない。
私は大きく深呼吸をして、その空気に酔いしれる。
その時、家の玄関が開いて、中学のジャージ姿の夏が顔を出した。
「……あ、夏」
「あ。姉貴」
お互い、同じタイミングで声をかけた。
言葉を続けたのは、夏の方だ。
「もう体調いいのかよ。一応アタシ、部活休んだけど」
「……あ、そうなの……。……ごめんね、夏。もう大丈夫みたい」
部活が休みなのに、こんな朝早くから自主練をしようと家を出てきたらしい。
……本当に、妹には迷惑をかけてしまった。折角部活を張り切っているところなのに、私がこの忙しい時期に風邪をひいてしまったせいで……。
……なんて考えると、夏が私に近づいてきて、私の額にデコピンを軽くしてきた。
「いたっ」
「だから、謝るなって。忙しい時はアタシも手伝うから」
そして夏は、肩にかけたタオルを手で持ちながら私の一歩前に出て、私の顔を見ないようにして続ける。
「……今は、一応アタシ、部活で忙しそうに見えるかもしれないけど……。これでも罪悪感もってるんだよ」
「罪悪感?」
「姉貴にだけ民宿の手伝い押し付けてるみたいでさ。…ホントはアタシだって、もっと手伝いできるのに」
「……夏」
私は、その言葉を貰えただけで嬉しかった。
民宿の手伝いをしなければいけない、というのは義務感でも責任感でもなんでもないし、まして夏に手伝ってほしい、なんて考えたコトもなかった。
それは……きっと、私の中で妹の存在がまだ幼く、頼りないものだったからであろう。
手伝いなんて出来るわけがない、夏は、夏のまま……元気に育ってほしい。なんて、保護者じみた考えを。
しかし、私の妹はいつの間にかこんなに大きな存在になって……私を、家を、守りたいという気持ちをもっていてくれたのだ。
私よりずっとたくましくて、頼りになる妹に。
「……たまには、アタシも姉貴のコト、助けたいし」
「え?なにか言った?」
「……小学校の頃、さ。アタシが上級生に囲まれてる時に……姉貴が……その……」
「小学校?私が?……えーと、なんか、あったっけ……?」
……最近、そんな記憶がどこかで駆け巡ったような気もするが……。どうもその記憶が曖昧で、思い出せない。
しかし後ろ姿の夏の耳は、どんどん赤くなっていった。
「だーーー!!なんでもないよ!! 走ってくる!!」
「あ、ちょ、な、夏……!?教えてよ!?なんか小学校の頃、あったっけ!?ねえ!」
私が声をかけているうちに、夏は猛ダッシュで田舎道を駆けていき… 見る見るうちに見えなくなってしまった。
……なんだろう。私が、夏を助けた?そんなコトがあったのだろうか。
……。
駄目だ。どうも夢で見た記憶は、曖昧のまま消えてしまう。
でも……もしそんなコトがあって夏がそれを覚えていてくれたのなら。夏は、まだ私のコトを姉としてしっかり見ていてくれたんだなあ。
なんて思って、私は少し嬉しくなった。
「……さっ!朝食準備、がんばるぞー!」
私は大きく背伸びをしながら、宣言する。
今朝で団体客も終わり。
朝食を作って、掃除をすれば今日の仕事は終わりだ。長らく休んでいた分、夏が頑張ってくれた分、しっかり働かなくては。
山々に日の光が差し込み、朝が訪れる。
日曜日がこれで終わるのはなんだか悲しい気持ちもあるが……。
それよりも何よりも。私の心は、満ち足りた気持ちでいっぱいになっていたのだった。
――
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