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三話 『柚子、東京へゆく』
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「わー、これ可愛いー!柚子、こういうの似合うんじゃないの?」
「い、いやぁ……確かに可愛いけど、私にはちょっとハードルが高いというか……。葵の方がいいんじゃない?」
「そうかなぁ。アタシはもうちょっとカジュアル系でさ……」
私と葵は、駅周辺のアパレルブランドの店を見て回る。
折角東京に来たのだ。東京っぽい衣服をチェックしてみよう、という女子高生らしい提案を葵がしてきたのだった。
私は……正直、自分の服装にイマイチこだわりが持てないタイプだ。
オシャレな店の服を見ていても自分が着るというイメージがまるでもてず、興味が湧いてこない。
普通の女子並に服装に気を遣いはするが……どうもこう、こだわりやら信念やら、自分に合うような服が見つからない。
今日着てきたのだって、NIOMのセールで買ってきた白のブラウスと茶のフレアスカート。総額は……言いたくはないが、これでも自分なりに最大級に近いオシャレをしてきている。
一方の葵はワンピースタイプの淡い白のガウンをはおり、白のセーターとジーンズをオシャレに着こなしている。きっとお気に入りのブランドとかあるのだろう。
「ま、なんにしてもこのデニムジャケットは気に入ったかなー。せっかく来たんだし、お土産に買ってくとするかねー」
葵が気にいった服があったようで、それを広げてみてみる。
一方の私も、一応は目に留まったワイドパンツがあり、それを手に取った。
「どれどれ、値段は、と……」
私は止めてあったタグの値段を見てみる。葵も同じタイミングでチェックしてみたようだ。
「……」
「……」
そして、私達は固まる。
「あっ、なんかそろそろ小腹減ったかもねー、柚子。そこのカフェでなんかのもーよー」
「う、うんっ。賛成! それじゃ、いこっかー」
私達は店員に気付かれないように二人で目を見合わせるとそんな会話をわざとらしくかわし、お店をあとにした。
……とても、女子高生のお小遣いで賄えるような値段ではないその服達を、なるべく丁寧にたたんで戻して。
※ 田舎者あるある その七 …… 都会の服は、高い。
――
「ふいー、やっぱりアタシ達にはウインドウショッピングがお似合いだねぇ」
「あははは…。びっくりしちゃったよあの値札……。葵、あんな値段の服買うのかと思った」
「まさか。このカフェラテだって700円もするしさ。都会はなにもかも高いねー」
「でも……やっぱりオシャレだよね。このカフェのお客さん達もさ」
私と葵は、先ほどのショップと同じ階層にあるカフェで休憩をしていた。私はアイスティー、葵はカフェラテを飲んでいる。
見回すと、お客さんはカップルか、私達と同じような女友達二、三人のグループが多い。
どの人も、地元ではあまり見ないような春らしい洋服を着ていて、爽やかな店内の空気にばっちりと合っている。
流石都会、という感じだろうか。地元でも探せばこういう店もあるのだろうが、少なくとも私はオシャレなカフェなどは行った事はないし……。
こういうのを見るのも、東京観光に含まれるんだろうな。感心しながらアイスティーを啜る。
私の意見に、葵も賛同して深く頷く。
「だね。やっぱ田舎とは色々と違うねぇ」
「うん……。なんか私の今着てる服でこんな店入っていいのかなって不安になってきた」
「アハハ、ドレスコードが必要なカフェなんてあってたまるかっての。いいんだよ、柚子は。その服が一番似合うんだし。休みの日、いつもそれだし」
「い、いつもコレじゃないよ!?……何着かは、違うの持ってるし……」
「アハハハハ。嫌味言ってるわけじゃないよ。ただ、柚子らしい格好だなって思うのよ。高い服とかオシャレな服着るより、自分に似合う服着るのが一番だと思うしさ」
「……似合う服」
どうなのだろう。
正直この白のブラウスと茶のスカートが自分に合っているのかも分からないけれど…。どうしても安物の服なのでそこを負い目に感じてしまう。
「千円のブラウスと一万円のブラウスの違いなんて、ふと見られただけじゃ誰にも分からないって。そこを引け目に感じなくていいってコトよ。
大事なのは、急に柚子がヘビメタのタンクトップ一枚にズタズタのダメージジーンズとか着なければいいってだけだよ」
「そ、そんな格好しないよ」
「そうそう。ファッションなんてその程度なんだよ。所詮、すれ違う人達がアタシらの服装チェックなんてしないワケなんだからさ。堂々としてればいいの」
「んー……。でも葵は結構自分の着る服とか気にしてるんじゃない?」
「全然。ま、一応こだわりはあるけどね。だからって好きなブランドがあるとか幾らかけるとか決めてるワケじゃないよ。好きな色と、コーディネートがあるくらいかな」
「……そうなんだ……」
なんだか、葵にそう言ってもらえると安心する。
少なくとも私よりはオシャレに見えていた葵がそういう考え方なら、私がこの場所でお茶をしているのもなんとなく……居住権を得たような感じだ。
「背伸びして高い服買ったり奇抜な服着てみたりするより、この自分なら少しはカワイイ、カッコイイって思う服じゃないとね。だから柚子は安心していいと思うよ」
「ありがとう葵。なんか落ち着いた」
「どーいたしまして。さ、この後どうしよっか。ぼちぼち帰りも考えなきゃだから、寄れるとしたらあと一つくらいかなぁ」
「あ、そっか。帰りの電車のコトも考えないとなんだね……」
時計を見ると、15時15分。行きに鈍行で二時間以上かかったワケだから……17時か18時には電車に乗りたい。
なにせ田舎の夜は、暗い。街灯はありはするが、逆に言えばそれしかない。街の灯りも人々の喧噪もない畦道を、駅から一時間近くかけて自転車で帰るワケだから……最低でも20時には地元に戻りたいところだ。
それ以降の時間だと、完全に人気が消える。まだ多少の人気が残る21時前には我が家には着いておきたいのだ。
ちなみに、新幹線を使うという手段は、高校生の私達には、一切無い。
「柚子はどっか行きたいところないの?」
「うーん、東京で行きたいところかぁ……」
「なんでもいいからさ。今日は色々付き合ってもらったから、柚子が最後は決めてよ」
「うーん……」
行きたいところ。
見たいところ。
窓の外の景色を見ながら、考えてみる。
普段ならそんなコトは考えても中々出てこないのだが……今日はヤケにあっさりと決まった。
「じゃあ……そこの、公園」
「公園?あー、駅前の?結構大きいけど……桜とかもう散っちゃってるよ?」
「いいの。なんとなく散歩したい気分だし。すぐ駅に行けるから、ちょうどいいと思うし」
「ま、それもそうか。いいよ、観光で行ってみようか」
「よろしく、葵」
私達は席を立って、お会計のカウンターへと伝票を持っていく。
――
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