民宿『ヤマガミ』へ ようこそっ!

ろうでい

文字の大きさ
34 / 67
五話 『悠の、初夏』

(3)

しおりを挟む

――

こうして、悠は、ナナと一緒に近所をぐるりと散歩する事にした。
ただ単に歩くだけではない。自分の知る限りの、楽しい場所をナナに紹介しようと考えていたのだった。

民宿の前から続く、コンクリートで舗装された細い道。
周りには田んぼ、畑、民家、林……田舎道がひたすらと続き、南桑村を横断するように出来ている。

悠が先頭になり歩き、その後ろをナナがキョロキョロと周りを見回しながらついていくのだった。

「ね、どこいくの?」

少しワクワクした声色でナナは悠に聞いた。

「んー、ないしょ」

「教えてよー。あたし、こんな遠くまで来たことないんだから」

「こんな遠くって、民宿からそんな離れてないよ?」

「アタシにとっては遠くなのよ」

「ふーん。……でもないしょ」

「案外性格悪いのよね、アンタ」

そう言う悠も、無表情に見えるがどことなく楽しそうな声色であった。


民宿から離れて、およそ10分。

2人は、小さくて古びたお店にやってきた。
少し曇ったガラスのドアと、無機質なコンクリートの壁が特徴的。上を少し見ると『飛沢商店』の錆びた白い看板が見えた。

「……お店?」

ナナが言うと、悠が頷いた。

「うん。飛沢のおばあちゃんの駄菓子屋さん」

「だがしや?黒糖のお菓子屋さんってコト?」

「こくとー?違うよ、色々なお菓子売ってるの」

「……色々なお菓子!?」

その言葉にナナの表情が輝く。

「え、じゃあなに!?このお店はお菓子をたくさん扱ってるお店ってコト!?すごーい!!」

「うん。ナナちゃん、お菓子好き?」

「大好き! わー、どんなのがあるんだろ?!入ってみましょうよ!!」

先ほどまでは先頭だった悠の前に出て、ナナが店のドアを開ける。まるで餌を前にした犬のように興奮している。

その様子に少し驚きつつも、悠も店の中に入るのだった。

――

飛沢商店は、正確には駄菓子屋ではなく俗に言う『たばこ屋』であった。
商店の店先には小さな窓があり、その中に主であるお婆ちゃんがいつも座り、店内の小さな古いテレビを眺めている。
取り扱っているのはタバコだけではなく、店の中に入ればお菓子、少数の生活用品、アイスクリームの冷凍庫も置いてある、田舎のコンビニといった感じの店だ。
駄菓子屋というほどの種類ではないが、安価の菓子類も置いてあり、近所の子ども達の憩いの場にもなっているのだった。

今日はお婆ちゃんは店先に座っていない。
店が開いていて、奥の方に見える居間からはテレビの音が聞こえていた。どうやら奥の方で休んでいるらしい。

「わぁぁぁ……」

ナナはそんな事は気にせず、店に並んだ色々な商品を眺めていた。
店を一回り周ってみるが、一番気になるのはやはり駄菓子類のようだった。色鮮やかで毒々しい、菓子のパッケージを次々と手に取って眺めている。

「すごい……コレ、どんな味するんだろ……。わ、チョコレートまである……!」

「ナナちゃん、ホントに来たことないんだね」

「うん、初めて……!! 今のお菓子ってこんなのなんだ……!」

「???」

本当に変な子だ。
悠はそう思ったが、とにかくナナが喜んでくれている事がなによりも嬉しかった。

一通り店の中を見てみると、ナナは悠の方をチラッと見る。

「……ね、お店来たのはいいけど……アンタ、お金持ってるの?あたし持ってないわよ」

「大丈夫。お小遣いためてるから」

「え、いいの?ためてるもの使って」

「うん。こういう時に使うものだと思うから、お小遣いって」

「……こういう時、って?」

「友達と楽しむ時」

悠は、少し口を楽しそうに曲げてそう言った。
その様子に、ナナは泣きそうになりながら、悠の頭を撫でる。

「……いい子だね、悠は。ありがとう」

「……」

なんだか、悪い気はしなかった。

「それじゃあ、どれ買うの?ナナちゃん」

「んー、そうね……!とりあえずあたしの知ってる懐かしいヤツと……あ、このラーメンみたいなお菓子おいしそう!あとこの金ぴかのチョコと……わあ、ちっちゃいドーナツ!かわいいなー」

「……」

お小遣いが消えない事を、悠はそっと祈る。

カゴにどんどんとお菓子を入れていくナナ。
その中に、悠はそっと二つ、自分の好きなおまけ付きのお菓子を入れておいた。


計算をして、どうやらお小遣いで足りる分のお菓子がカゴにある事を確認すると、悠は店の奥にいるお婆ちゃんを呼ぶ。

「おばーちゃーん」

数秒して、奥の方から暖簾を分けて飛沢商店の主人の、白髪の小さなお婆ちゃんが出てくる。
眼鏡をくいっ、と上げると、客を確認して笑顔を見せてくれた。

「おや、悠ちゃん。いらっしゃい」

「こんにちは。お会計お願いします」

「はいはい。……ま、こんなにたくさんかい。今日は奮発するのねえ」

「うん、友達の分も一緒に買うから」

「そうなのかい。……お友達は、お家にいるのかい?」

「んーん、一緒に……あれ?」

振り向くと、ナナの姿がなかった。店の奥の方を覗いても姿はない。先に外に出てしまったのだろうか。

「たぶん、外にいると思う」

「そうかいそうかい。じゃ、お金勘定するからちょいと待ってておくれ」

「お願いします」

戸棚から電卓を取り出すと、飛沢のお婆ちゃんは眼鏡をずらして、一つ一つのお菓子の値段を入れていく。会計まで今しばらく時間がかかりそうだった。

その間も、悠はナナの姿を探していた。
さっきまではそこにいたのに……。店のドアは閉まっていて、開いた音もしなかった。


一体、どこにいったのだろう。


――
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

【完結】『左遷女官は風花の離宮で自分らしく咲く』 〜田舎育ちのおっとり女官は、氷の貴公子の心を溶かす〜

天音蝶子(あまねちょうこ)
キャラ文芸
宮中の桜が散るころ、梓乃は“帝に媚びた”という濡れ衣を着せられ、都を追われた。 行き先は、誰も訪れぬ〈風花の離宮〉。 けれど梓乃は、静かな時間の中で花を愛で、香を焚き、己の心を見つめなおしていく。 そんなある日、離宮の監察(監視)を命じられた、冷徹な青年・宗雅が現れる。 氷のように無表情な彼に、梓乃はいつも通りの微笑みを向けた。 「茶をお持ちいたしましょう」 それは、春の陽だまりのように柔らかい誘いだった——。 冷たい孤独を抱く男と、誰よりも穏やかに生きる女。 遠ざけられた地で、ふたりの心は少しずつ寄り添いはじめる。 そして、帝をめぐる陰謀の影がふたたび都から伸びてきたとき、 梓乃は自分の選んだ“幸せの形”を見つけることになる——。 香と花が彩る、しっとりとした雅な恋愛譚。 濡れ衣で左遷された女官の、静かで強い再生の物語。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...