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五話 『悠の、初夏』
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――
「……あ、いた」
大量のお菓子の入ったビニール袋を下げて店の外に出ると、案の定、ナナは先にそこにいた。
店の周りをキョロキョロと見回しては、気になる物に近づいてマジマジと見つめている。見るものすべてが珍しいような様子だった。
「ナナちゃん」
悠はナナの後ろに近づき、ポンと肩を叩いた。
ビクッ!とナナは驚いて跳ね上がり、冷や汗をたらしながら悠の方を振り向いた。
「……は、悠……。なによ、脅かさないでよ」
……別に脅かそうと思ってはいなかったが。元が物静かなので、接近してもなかなか気付かれない性質なのだ。
「驚いたのこっち。ナナちゃん、急にいなくなっちゃうんだもん」
「あー……。あはは、ごめん。えーと……外に気になるもの見つけたから、つい」
「気になるもの?」
悠も、その言葉に辺りをキョロキョロと見回してみる。
……別に何もない。店先にはコンクリートの細道と、民家が数件あるのみだった。
何が気になったの?
そう聞く前に、ナナが悠の持っているビニール袋の中身に飛びついた。
「わ!ホントに全部買ってきてくれたんだ! ありがとー、悠っ!」
「……うん」
なんだかはぐらかされたようにも思えるが、まあ、気にしないでおこう。悠はそう思った。
「ね、ね、食べてみようよ。どこで食べるの?一回悠の家に戻るの?」
「んーん、そこで食べるの」
「そこ?」
悠は飛沢商店の店の先。道を挟んで、少し先に見える建物を指さした。
「あれって……」
ナナがその指先を覗き込む。
「神社」
――
「こんなに広い境内なのに、誰もいないのねえ」
「ここ、滅多に人こないから」
「なんでよ?お参りの人とかこないの?」
「お祭りの時とかは来るけど… 普段は、飛沢のおばーちゃんのトコで買ったお菓子食べに来る子しか来ないかな」
「ふーん……。ま、いい景色じゃない。早速食べましょうよ!」
飛沢商店のすぐ近くには、神社があった。
石造りの鳥居の奥には、大きな社殿。赤く塗られた立派な建物には様々な動物が描かれている。かなり古びてはいるが、威厳のある神社だ。
社殿の周りには小さな広場のような庭が広がっている。
苔むして緑がかった地面。周りには子どもが遊べるように、小さなブランコやシーソーが置かれていた。
普段なら何人かの子どもがいる時もあるが、今日は誰もいない。小学校も近いせいか、神社の方に遊びに来る子どもは少ないのだった。
周囲は鎮守の森が広がっており、やや鬱蒼とした雰囲気もこの静けさに拍車をかけているのかもしれない。
悠とナナは、社殿のさい銭箱に続く何段かの階段に腰掛け、お菓子を置いた。
あまり褒められた行為ではないのだが、半分は子ども達の場所と化しているこの神社では、大体の子どもはここでお菓子を食べている。
ビニール袋を置き、その中のお菓子を2人で覗き込む。
「わぁぁ……。ね、悠、どれから食べる!?」
「んー、どれでもいいよ」
「そうねー……。じゃ、せっかくだから……。このちっちゃいドーナツからいただいてみようかしら」
ナナは小袋に数個入ったミニドーナツを取り出す。
包みから取り出すと、砂糖のまぶしてある小さなリング。人差し指と親指でそれをつまむと、そーっと口に運んだ。
「むぐ、むぐ……」
「どう?ナナちゃん」
「むぐ……。あ……」
「あ?」
「あまくて美味しいっ……!あああ、こりゃいけるわぁぁ……」
幸せそうにそう言いながら、ナナはあっというまにすべてのミニドーナツをたいらげてしまった。
「良かった」
「ホントありがとね悠……。こんなもん奢ってもらってアタシ幸せよぉぉ……」
泣きそうに嬉しがりながら、次のお菓子を取り出そうとビニール袋をまさぐるナナを見て、悠はクスッと笑った。
連れてきてよかった。そう思う。
「次、どれ食べるの?」
「えーとね、じゃあこの金色の箱のチョコレートを……!!」
こうして、買ってきたお菓子のほとんどをナナはたいらげた。
悠も何個かは口にしたが、だが何より、こういう時間のために自分のお小遣いを使えるのは、良かった。
子どもながらに、悠はそう思う。
――
「……あ、いた」
大量のお菓子の入ったビニール袋を下げて店の外に出ると、案の定、ナナは先にそこにいた。
店の周りをキョロキョロと見回しては、気になる物に近づいてマジマジと見つめている。見るものすべてが珍しいような様子だった。
「ナナちゃん」
悠はナナの後ろに近づき、ポンと肩を叩いた。
ビクッ!とナナは驚いて跳ね上がり、冷や汗をたらしながら悠の方を振り向いた。
「……は、悠……。なによ、脅かさないでよ」
……別に脅かそうと思ってはいなかったが。元が物静かなので、接近してもなかなか気付かれない性質なのだ。
「驚いたのこっち。ナナちゃん、急にいなくなっちゃうんだもん」
「あー……。あはは、ごめん。えーと……外に気になるもの見つけたから、つい」
「気になるもの?」
悠も、その言葉に辺りをキョロキョロと見回してみる。
……別に何もない。店先にはコンクリートの細道と、民家が数件あるのみだった。
何が気になったの?
そう聞く前に、ナナが悠の持っているビニール袋の中身に飛びついた。
「わ!ホントに全部買ってきてくれたんだ! ありがとー、悠っ!」
「……うん」
なんだかはぐらかされたようにも思えるが、まあ、気にしないでおこう。悠はそう思った。
「ね、ね、食べてみようよ。どこで食べるの?一回悠の家に戻るの?」
「んーん、そこで食べるの」
「そこ?」
悠は飛沢商店の店の先。道を挟んで、少し先に見える建物を指さした。
「あれって……」
ナナがその指先を覗き込む。
「神社」
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「こんなに広い境内なのに、誰もいないのねえ」
「ここ、滅多に人こないから」
「なんでよ?お参りの人とかこないの?」
「お祭りの時とかは来るけど… 普段は、飛沢のおばーちゃんのトコで買ったお菓子食べに来る子しか来ないかな」
「ふーん……。ま、いい景色じゃない。早速食べましょうよ!」
飛沢商店のすぐ近くには、神社があった。
石造りの鳥居の奥には、大きな社殿。赤く塗られた立派な建物には様々な動物が描かれている。かなり古びてはいるが、威厳のある神社だ。
社殿の周りには小さな広場のような庭が広がっている。
苔むして緑がかった地面。周りには子どもが遊べるように、小さなブランコやシーソーが置かれていた。
普段なら何人かの子どもがいる時もあるが、今日は誰もいない。小学校も近いせいか、神社の方に遊びに来る子どもは少ないのだった。
周囲は鎮守の森が広がっており、やや鬱蒼とした雰囲気もこの静けさに拍車をかけているのかもしれない。
悠とナナは、社殿のさい銭箱に続く何段かの階段に腰掛け、お菓子を置いた。
あまり褒められた行為ではないのだが、半分は子ども達の場所と化しているこの神社では、大体の子どもはここでお菓子を食べている。
ビニール袋を置き、その中のお菓子を2人で覗き込む。
「わぁぁ……。ね、悠、どれから食べる!?」
「んー、どれでもいいよ」
「そうねー……。じゃ、せっかくだから……。このちっちゃいドーナツからいただいてみようかしら」
ナナは小袋に数個入ったミニドーナツを取り出す。
包みから取り出すと、砂糖のまぶしてある小さなリング。人差し指と親指でそれをつまむと、そーっと口に運んだ。
「むぐ、むぐ……」
「どう?ナナちゃん」
「むぐ……。あ……」
「あ?」
「あまくて美味しいっ……!あああ、こりゃいけるわぁぁ……」
幸せそうにそう言いながら、ナナはあっというまにすべてのミニドーナツをたいらげてしまった。
「良かった」
「ホントありがとね悠……。こんなもん奢ってもらってアタシ幸せよぉぉ……」
泣きそうに嬉しがりながら、次のお菓子を取り出そうとビニール袋をまさぐるナナを見て、悠はクスッと笑った。
連れてきてよかった。そう思う。
「次、どれ食べるの?」
「えーとね、じゃあこの金色の箱のチョコレートを……!!」
こうして、買ってきたお菓子のほとんどをナナはたいらげた。
悠も何個かは口にしたが、だが何より、こういう時間のために自分のお小遣いを使えるのは、良かった。
子どもながらに、悠はそう思う。
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