民宿『ヤマガミ』へ ようこそっ!

ろうでい

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六話 『好きなものは、好き』

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――

「――― グワァァッハッハァーーーッ! この会場は、我々怪魔一族が支配したァ! さあ、者ども、我らに従うのだァ!」

ステージ裏から、大きな頭をした一つ目の妖怪の着ぐるみが出てきてステージ中央に陣取る。
『装甲剣士 ジンバ』の悪の軍団、怪魔一族の妖怪だ。ジンバは地球を支配しようとするこの軍団と戦う正義のヒーロー、という事になる。

あれは確か二話に出てきた一つ目妖怪『一目坊いちもくぼう』だな。
今ジンバは六話だからこれがショーに出てくるという事は中々公式と繋がっているショーだと言えるな。アクション用のスーツを流用したのだろうか。よくスタントで傷つかずにあんな綺麗な状態でショーに出せたな。いや、ひょっとしたら同じスーツがあったという事か……。
などという考えを頭に過ぎらせる前に、心配事が頭に次々と浮かび、それどころではない。

この会場には今、周りを見る限り、中学生一人で見に来ている観客は一人もいない。たまらなく心細い。

そしてそれよりも、悠は大丈夫だろうか。
腹が痛いとトイレに行ったが……無事なのだろうか。もしなにか違う病気であったら……。気が気ではない。
もし何かあれば連絡しろと言ったが……アタシはショーをチラチラ見ながら、スマホに何か悠から連絡がこないか、そちらに集中している。

そうこうしている間に、ステージから大量の全身黒ずくめの妖怪戦闘員が出現し、客席の方まで暴れに来る。
子ども達の泣き叫ぶ声で阿鼻叫喚だ。

いよいよ、ジンバが出てくる時間が近い。
ステージの方を見たい。しかし、それ以上に、悠が……。

……やはり、駄目だ。
悠は来るなと言っていたが、トイレの方に行ってみよう。
恨まれてもいい。とにかく今は、悠を……!

アタシが椅子を立とうとした、その時。


「あ、いた。 夏ー」

そう言って、アタシの隣の空いた席に座ってくる一つの人がいた。

それは……。


 姉貴。柚子だった。

「あ……あね、き……?」

「見つかって良かったー。会場結構広いからさ。迷っちゃうかと思ってた」

「ど、どうしてここに……?」

「いや、それがさー。私とお母さんで今日NIOMに買い物に来てたんだよ。民宿に必要な物、買いにさ。それで歩いてたらさっき偶然、悠に会って」

「……!悠に!?」

つまり、この会場からトイレに向かう途中の悠に会ったのか。

「なんかお腹押えてたからさ。お母さんが一緒にトイレに今付き添ってるよ」

「そ、それで悠は……大丈夫なの……!?」

「うん。かき氷食べたって言ってたからね。お母さんが看たらすぐ、ただお腹が冷えただけだろ、って。笑ってたよ」

「よ……良かった……」

やっぱり、腹が冷えただけだったか。それなら良かった……。

しかしそうなると、次の疑問が浮かぶ。
……戦闘員が次々にアタシ達の前を横切っていくが、あまり気にしない事にした。

「……なんで姉貴だけ、ここに?」

「いや、悠がさ。「わたしがショー見たいって言ってたのに、夏ちゃん独りぼっちにしちゃったから、柚子ちゃん行ってあげて」って。だから私だけこっちに来たのよ」

……。悠……。

アタシの趣味を隠しつつ、独りのアタシをフォローしてくれるなんて……。
その優しさに思わず少し、涙目になる。

「へー。これ、ヒーローのショーなんだね。悠、好きなんだ」

「う、うん……。そう、みたい、だな」

……とてつもない罪悪感だ。
しかし、悠の好意を無駄に出来ない。ここは、嘘に乗らせてもらう……!ありがとう、悠……っ!


そして、会場のスピーカーから、雄々しい声が聞こえてきた。


「 待て待てェッ! 怪魔一族! てめぇらの悪行、見過ごすワケにはいかねェぜ! 」

会場の泣き叫んでいた子ども達が静まりかえる。
戦闘員たちの動きが止まる。
ステージの妖怪は、辺りをキョロキョロと見回して、叫んだ。

「こ、この声は……まさかッ!?」

「 へッ! 勘の悪い妖怪も気付いたようだな。 …… 覚悟しろよ、一目坊!」

そして、その声は会場に響き渡った。


「 ――― 装甲ッ!! 」

刃と刃の重なる金属音。燃える炎の音。 いつもテレビで見ている、変身音だ。

――― そして、ステージのスモークが勢いよく噴射され、ステージに颯爽と彼は現れた。


「 装甲剣士 ジンバ ! ここに見参ッ !! 」



「…… ぅァァァぁァァッ…… !!」

腹の底から、なるべく小声で。しかし、可能な限りの興奮と感動の叫びを、アタシは発する。
銀に煌めく鎧のような装甲のスーツ。仮面の奥で輝く赤い瞳。スタイリッシュな姿。 まさしく、テレビで観た……ジンバだ。
溢れ出てくる涙を、横にいる姉貴にバレないように必死で拭う。
やっぱりサイコーにカッコイイ…!!

「……」

盛り上がりたい。大声でジンバを応援したい。せめて少しでも感情を表に出したい。

けれど……隣には、姉貴がいる。

例えるなら、家族でテレビを見ている時にふと自分の趣味のものが大々的にCMで流れるような……そんな感覚。要するに恥ずかしいという事だ。
普通の人ならそうだろう。子どもであればこのジンバのかっこよさを分かち合えるのだが、姉貴の感覚はあくまで一般的。
あくまで子どもが楽しむべきヒーローであり、大人が大々的に見るようなものではない。
きっと冷めた目でジンバを見ている事だろう。


「うわー!!!カッコイイね、コレ!」

…… アレ?
今のはアタシの言葉ではないぞ。

その疑問を抱く前に、姉貴は興奮した様子でステージ上のジンバを見ながら言った。

「カッコイイじゃんコレ!アタシが昔見てたヒーローもかっこよかったけど、今のもすごいんだねー!なんかスタイルいいし……うわっ!スゴイ!あんなにジャンプしたよ!?」

「……」

「へー、こりゃ悠もハマるワケだわー!何も知らない私が見てもかっこいいんだもん。カタナ振ってるのもなんか武士みたいでいいし、スーツも武将の鎧みたいなんだねー」

「ま、まあね。実際ジンバのデザインの元になってるのは戦国時代の甲冑がモチーフになってるんだよ。コレはアクション用にちょっとデザイン変わってるけど、それでもテレビのとほとんど変わらないんだ」

「……詳しいんだね、夏」

……しまった、つい。

「い、いや、さっき悠がショーの前に色々語っててさ、それで」

「ふーん、なるほどー。やっぱ夏の目から見てもかっこいいと思う?」

「ま……まあね。実際こうして見るとやっぱりスーツの光沢が絶妙に煌めくように光る感じが綺麗だよね。甲冑みたいなスーツだけどちゃんと筋肉が浮き出てる感じが男らしいし、広背筋なんか特に……」

「……いいねー。夏もハマってるんだー」

「す……少しだけ、ね」

「そっかー。わー、私もハマっちゃおうかなー。今度テレビで見てみよっと!」

……。

意外すぎる反応だった。

あの、姉貴が。ほとんど無趣味で、一般的な女子高生だと思っていた姉貴が。まさかジンバの事をベタ褒めしてくれるなんて。

嬉しかった。アタシの大好きな物を、共感してくれる。他の人が、「好き」を理解してくれている。

――

ステージ上の話はどんどん進んでいく。

いよいよクライマックス。先ほどまでいた戦闘員たちは次々とジンバに斬られてステージ裏にはけ、残りは一目坊とジンバのみ。
激しい戦闘の末、お互いに最後の一撃を決めようと隙をうかがっている。

「お、おのれェ、ジンバァ…。…!よくも我々の計画を……!」

「ここにいる皆は、俺が絶対に守ってみせる! ……皆、俺に力を貸してくれッ!!」

その言葉に反応して、司会のお姉さんが客席に向けて叫んだ。

「さあみんな!ジンバに皆の応援の力を貸してあげて!! いいね、いくよッ! …… せーの!」


「「「 がんばれジンバ - - !!! 」」」

アタシも、姉貴も。周りの子どもたちと一緒に、大声で声援を送った。


「うおおおおッ!! ありがとうな、みんな!! …… いくぜ、『閃光両断』ッ!!!」

ど派手な効果音がスピーカーから流れ、ジンバのカタナの一振りが、怪人を斬る。

「ぐああああああああッ!!」

断末魔と共にスモークが上がり、怪人はステージ上から姿を消すのだった……。


「やったー!皆の応援の力で、ジンバが勝ったよー!ありがとうね、会場のお友達!」

「皆の応援の力がなければ危ないところだったぜ!ありがとよ!」

会場の子ども、そして付き添いの大人。……一部の、大きなお友達。皆の拍手喝采が、ステージ上のジンバに向けられていた。

「はー、いいねー。なんかこう、久しぶりに心が躍ったよー。恥ずかしいと思わないで思いっきり応援するのもいいもんだねー」

「……そう、だね」

恥ずかしいと、思わない、か。……なんか、本当に、ごめん……悠。
嬉しさと惨めさがアタシの中で激しいバトルを繰り広げていた。

そんな中、司会のお姉さんが次の行程の説明をしてくれる。


「さあ、これからはジンバとの握手会になります! このジンバのキーホルダーを購入してくれたお客さんはステージに上がって特別にジンバと握手ができますのでご希望の方は……」

あ……握手会。流石にそれは少し……。

躊躇うアタシをよそに、姉貴はノリノリだった。

「えー!握手いいなー!近くでジンバみたい! ね、ね、夏!買おうよキーホルダー!私出すからさ!」

「……マジか (マジか)」

心の声と同じセリフが口から出た。

「ほら!結構大きい人とかも並んでるしさ、恥ずかしくないよ。ね、いこうよー!」

「……し、仕方ないなぁぁぁ……じゃあ並んでみようかぁぁぁぁ……」

「夏、顔赤いけど大丈夫?」

「いやあ……少し緊張してきてしまって……」

「そうなの?緊張?なんで?」

「と……とにかく緊張するんだよ……!!」

「ま、とにかく並ぼうよ!ほらほら!」

アタシは姉貴に腕を引かれ、キーホルダーを購入する列に並んだ。

――

姉貴が興奮した様子で、ブンブンと握手をして……いよいよ、アタシの番が来た。

目の前に、テレビで観た、あのジンバがいる。

まるで本物のヒーローのように……。……いや。 今、この瞬間は……ジンバは、アタシにとって『本物のヒーロー』だ。

分厚い手袋をした右手を、アタシに向けて差し出してくる。
アタシは……真っ白な頭のまま、その右手を、そっと掴む。

力強い握手。

怪人からアタシ達を守ってくれた、力強い、ヒーローの握手。それを感じる。


ダメだ。泣く。

我慢しようと思っていても、涙が溢れてくる。かっこよすぎて……憧れすぎて。


夢の時間はあっというまに終わった。

涙を拭いながらステージから降りてくるアタシの肩を、姉貴が心配そうに掴んだ。

「だ、大丈夫?夏。やっぱり嫌だった?」

「……!ぜ、全然!全然! いい経験になったから!ホントに!」

アタシは俯いて、また必死に涙を拭って首を大きく横に振った。

「……そう?なら良かったけど」

「……さ、行こうよ、姉貴。悠と母さん、一緒なんだろ。合流しよう」

「そうだね。まだステージにジンバもいるし、悠も呼んできてあげようね」

「……ああ」

アタシはそう言われて、ステージ上の、まだ小さな子ども達と握手をしているジンバの方を見る。

……ありがとう。ジンバ。

そして、隣にいる姉貴の方を見る。

……ありがとう。姉貴。

なんか……付き合うんなら、姉貴みたいな人が、いいのかな。

そんな事を考えて、何を考えてるんだアタシは、と自嘲気味に笑い、アタシと姉貴はステージを後にするのだった。

――
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