25 / 122
四話 全能の要塞《ショッピングモール》
(2)
しおりを挟む――
「ふーん、ルーちゃんの服ねぇ」
結局、マリルの『春の新作』は魔術団長の発熱との因果関係が証明されるまで飲まないと告げられ、仕方なくマリルが二本飲み干している。
二人は持参した水筒で水分補給をしながら、マラソン後の休憩を城の外堀で歓談をしながら過ごしていた。
外堀の川の傍には木製のベンチが置いてあり、水音を聞きながらの夕暮れの会話は、心の落ち着く安らぎの時間となる。
「そういや、アタシもジャージと甲冑以外の服見たこと……あ、いや。初めて会った時は私服だったよね。カーディガンとジーンズ。あれ、どうしたの?」
「なんだ、ちゃんとした服持ってるんじゃないの」
リーシャが聞くと、ルーティアは首を横に振った。
「あれは休日に出かけるということで、王が侍女に用意させたものだ。使用後に洗濯して返却した」
「返しちゃったの!?」
「別に返さなくてもいいと言われたんだがな。私は運動着があればそれでいいし」
しかし、ルーティアはそう言ったあとしばし考えるように手を口元に当てる。
「……でも、やはり休みの日を過ごすにはなにか私服があった方がいいのかな」
マリルとリーシャの二人はルーティアに芽生えた疑問を首を縦に振って肯定した。
「ルーちゃんスタイルいいし美人なんだから。背も高いし。絶対なんかオシャレな格好した方がいいって。ジャージも似合うけどさ」
「ラフな格好お断りのレストランとかもあるのよ。ちょっとは色んな服試してみた方がいいに決まってるじゃない」
二人に言い寄られ、ルーティアは少したじろぎながらも検討を重ねる。
「リーシャは随分と可愛らしい格好をしてきたな、前回の動物園の時は」
ルーティアの言葉に、リーシャは少し照れるが少し嬉しそうにした。
「か、可愛らしいっていうな。普通でしょ、あんな格好。わたしくらいの年代なら今はああいう服が多いのよ」
「ルーちゃんがああいう服着ても案外似合うかもしれないしねー。あー、なんかコーディネートしたいなー、アタシ」
前回の、リーシャの格好。
フリル付のピンクのトレーナーに、キュロットスカート。膝を覆う白のハイソックス……。
ルーティアは、慌てて否定した。
「馬鹿を言うな。似合うはずがなかろう」
「いいや、普段冷徹なルーちゃんがああいうカワイイ格好してればギャップでイチコロだって。男も女も」
「別にイチコロにしたいワケじゃないぞ。私服が少し欲しいというだけだ」
「まあとにかく、そういう服の一着や二着あっても絶対に損じゃないってコトよ。……うーん」
マリルは少し考えて、ルーティアに提案した。
「ルーちゃん、明日給料日よね。アタシもだけどさ」
「ああ、そうだが」
「よし。思い切って今週の休みはルーちゃんの服選びっていうのはどう?アタシもちょっと出すからさ、色々コーディネートさせてよ」
「ふ……服選び、か?」
突拍子もないマリルの提案にルーティアは困惑した。
「いいのか?私の服選びに付き合うだけで、マリルの休みを使ってしまって」
「いいわよ。アタシも色々見せてもらうから。……あー、服だけじゃなくて、靴とか小物とか色々見たいなー。…………よし」
マリルは少し考え込んで、再びルーティアに提案した。
「決めたッ!!今回のお休みは『ショッピングモール』に行くわよ!! ルーちゃん、リッちゃん!!」
「おー」
パチパチと、ルーティアは小さく拍手をした。未知の場所へ行く期待からだろう。
「……はあ。ショッピングモールね、仕方な…… え。ちょっと待って」
なんとなくその場のノリで承諾をしたリーシャだが…… すぐに否定をした。
「なんでわたしが一緒に行く事になってるのよ!?関係ないでしょ!?アンタら二人で行ってきなさいよ!!」
「だってリッちゃんだってしたいでしょ?ルーちゃんの服のコーディネート」
「…………。べ、別にしたくないわよ!!なんでコイツの服をアタシが選ばないといけないの!!」
あ、ちょっとやりたそう。と、マリルは推察する。これは少し押せば簡単に動きそうだ、と。
「それとは別にリッちゃんだって行きたいでしょ?カワイイ服とか小物とか色々売ってるよー」
「うっ。……い、行きたくなんて……」
「お給料日、リッちゃんもでしょ?たまにはお買い物も悪くないよね?皆で行くと楽しいよー、買い物」
「うううう……ッ。な、なんでアンタらと一緒、にッ……」
「お昼も美味しいもの食べてさ。あー、ケーキ屋さんとかもあるのよねー。あまーいケーキ、お姉さんが奢ってあげるよー?」
「うぐぐぐぐぐぐ……。ぐぅぅぅ……ッ!!」
「ね?一緒にお出かけ、付き合って?」
マリルが、にっこりと微笑む。それが、最後の一押し。
リーシャはその場に崩れ落ちて地べたに座り、敗北した。
「し、仕方ないわね……。そこまで言われるのなら、付き合って、あげるわ……」
「フッ」
マリルはリーシャに見えないように、勝ち誇った笑みを浮かべた。
「それで、ショッピングモールとはなんなんだ?」
ルーティアの質問にマリルは腕組みをしてしばし考えた。
「んー……。内緒。実際に行ってみた方が多分、びっくりすると思うし」
「なんだ、またそのパターンか。流石に私も色々見てきたし、簡単には驚かんぞ」
「ふっふっふ。どうかな。 多分ルーちゃんは、また驚くと思うよ」
「?」
ルーティアは首を傾げる。
彼女は、知らないのだ。
この王国最大の、商業施設。その巨大さを。
それは彼女の想定を遥かに超える、未知の店であろう事を。
ルーティアの驚く顔を、今からマリルは楽しみにするのであった。
――
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!
アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。
思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!?
生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない!
なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!!
◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる