88 / 122
九話 戯れの楽園《遊園地》
(6)
しおりを挟む――
「はいはーいっ、というワケで一旦アトラクションから離れて、こちらのコーナーで楽しもーっ!!」
虚ろな目をして首を傾け、半開きの口のまま歩いてきたリーシャの元気を取り戻そうとマリルが連れてきたのは、『カーニバルゲーム』と書かれた場所だった。
まるでサーカスのテントのようなカラフルな建物が軒を連ね、それぞれがオープンスペースの出店のような佇まいをしている。
吊り下げられたぬいぐるみや玩具などは、どうやら景品。店の奥側には、積み重ねられた缶や穴が無数に空いた板など、なにかのゲームのような装置が構えられていた。
飾られている可愛らしいぬいぐるみを見て、リーシャの気分も少しは良くなってきたようだった。
「つまり、ゲームをして成功すればここにある景品がもらえるって事ね」
「そういうこと。……あはは、アタシはこういうの、からっきしダメなんだけどさ。運動神経抜群の二人ならいけるんじゃないかなー、と思って」
この場所のゲームはパスポートとは別料金。ゲームを一つ遊ぶごとにお金のかかるシステムなので、そうそう気軽に参加は出来ない。
しかし、オキト国を代表する騎士二人がいるのならば別。既にリーシャやマリルは、どの景品を獲ろうかという品定めをしながらテントの周りをうろついているのだった。
「沢山ゲームがあるが……私はルールが分からないぞ。大丈夫なのか?」
「あ、大丈夫大丈夫。店員さんがしっかり説明してくれるから。ね、やってみない?ルーちゃん」
「うむ……。じゃあ、どれにしようかな……」
ルーティアは、一先ず分かりやすそうなゲームをやってみたいと思い辺りを見回す。
しかしその前に、マリルがルーティアの肩をとんとん、と叩き、一軒のゲームコーナーを指さした。
「ねえねえ、アレなんかどう?ルーちゃん」
――
「…… はァッ!!」
ブォンッ!!
ガシャァァンッ!!
お手玉を投げたとは思えない風圧と音が、店の隅の女性店員の髪を揺らした。
『缶倒し』と書かれた看板のゲームコーナーでは、お手玉を投げて数メートル先の積み重ねられた缶を倒すゲーム。ここでは三球を使ってタワーのように積まれた缶六つを全て倒せばクリアなのだが……通常ではなかなかこれが倒せない。軽い空き缶とはいえ、小さくて軽いお手玉ではなかなかコントロールがつかず、頭のイメージより空き缶が上手く倒れてくれない。簡単に倒せそう、という心理を上手くついたはずのカーニバルゲームなのだが……。
ルーティアの放った一球は、六つの缶全てを吹き飛ばし、威力を失わないお手玉は壁に激突をして、店員の前まで跳ね返ってきたのだった。
「……お、おめでとうございまーす!!景品獲得でーすっ!!」
呆然としていた店員は我に返り、景品獲得の祝福をする金のベルを鳴らした。
「い、一撃で倒す人、初めて見たんだけど……。こういうゲームだっけコレ……」
マリルはルーティアが先ほど投げたのと同じお手玉を手に取ってみる。中身は少しの小豆が入った、普通より軽いお手玉。しかしルーティアの投球はまるで、石の塊を投げたような破壊力を帯びたものだった。
「どれでも好きなものをもらっていいのか?」
「は、はいっ。どうぞ、どれでも結構ですよ」
「うむ。しかし、私も運が良かったな。一球で、となるとやはりかなり気合いを入れないと難しいものだ」
「いや、コレ三球投げていいルールなのよルーちゃん。一球で全部吹き飛ばすなんて芸当、普通は出来ないから」
「え。三つも投げて良かったのか」
どうやらルーティアは、一撃勝負だと勘違いをしていたらしい。
マリルは冷や汗を一つ流し、カウンターを隔てて立ち尽くす店員さんにひそひそと声をかけた。
「……あの。一応他のゲームもやらせてもらいますけれど、何度も同じゲームさせませんから。安心してくださいね……」
「……そうしていただけると、本当に幸いです。ありがとうございます、お客様……!」
このままルーティアにゲームを続けさせられると、店の景品が全てなくなりそうな予感がするマリルと店員。流石に申し訳ないと思ったマリルは、店員さんと密かな協定を結んだのであった。
――
「だりゃりゃりゃりゃーーーっ!!」
リーシャが挑戦するのは、モグラ叩き。
草むらを模した板には何個も穴が空き、そこから魔法動力で動くモグラの人形が出てきては引っ込む。柔らかい素材で出来たハンマーでその人形を叩いていき、一定の数を叩く事が出来れば、クリア。
しかしこちらも、決して常人のモグラ叩きではない。
かなりのスピードで出て、引っ込み、しかもそれが別の穴で次々と出現をするのでまず普通の人間は完璧にそれに追いつく事は出来ず、モグラを取り逃がしていってしまう。
しかし、リーシャは別である。
持ち前の動体視力と反射神経で、モグラのスピードを上回る音速のハンマーを振り下ろし、確実にモグラの頭を捉えていく。取りこぼしは一切なく、その動きは長年このゲームを見てきた店員さんでも見た事のないほどの速度と正確さであった。
「おりゃーっ!フィニッシュっ! さあ、どうよ!」
電気魔法で光る掲示板が、リーシャのスコアを出す。
そこには『100点』の文字が煌々と光り出していた。
「やったーっ!!パーフェクトね!!」
子どものようにぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶリーシャ。唖然とそれを見つめる、店員さんとマリル。ちなみに、合格ラインは60点である。普通の大人でも、かなりのスピードで出現するモグラを捉えきれず50点未満で終わる事が普通であるこのゲームで……満点を出す人間がここに存在するのであった。
「お、おめでとう、ございます……」
カランカラン、と力なくベルが鳴った。
「……あの、店員さん。このモグラ叩き、百点って出るもんなんですか?」
「……いえ。初めて、見ました……」
「……ですよね」
マリルは何故か、この場所に二人を連れてきた事を少し後悔していた。景品を獲る嬉しさより、反則級の選手をスポーツに連れ出してきてしまったような罪悪感が背中にのしかかるからであった。
「えっとー、どれにしよっかなー。わー、アカシュモクザメのぬいぐるみがあるっ!これにしよっかなー。あーでもケナガネズミのぬいぐるみもすごくかわいい!あー、迷うなー!」
リーシャは無邪気に、天井に吊り下げられた珍妙な動物のぬいぐるみを、キラキラした瞳で品定めするのであった。
――
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!
アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。
思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!?
生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない!
なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!!
◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる