最強の女騎士さんは、休みの日の過ごし方を知りたい。

ろうでい

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九話 戯れの楽園《遊園地》

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――

「はいはーいっ、というワケで一旦アトラクションから離れて、こちらのコーナーで楽しもーっ!!」

 虚ろな目をして首を傾け、半開きの口のまま歩いてきたリーシャの元気を取り戻そうとマリルが連れてきたのは、『カーニバルゲーム』と書かれた場所だった。
 まるでサーカスのテントのようなカラフルな建物が軒を連ね、それぞれがオープンスペースの出店のような佇まいをしている。
 吊り下げられたぬいぐるみや玩具などは、どうやら景品。店の奥側には、積み重ねられた缶や穴が無数に空いた板など、なにかのゲームのような装置が構えられていた。

 飾られている可愛らしいぬいぐるみを見て、リーシャの気分も少しは良くなってきたようだった。

「つまり、ゲームをして成功すればここにある景品がもらえるって事ね」

「そういうこと。……あはは、アタシはこういうの、からっきしダメなんだけどさ。運動神経抜群の二人ならいけるんじゃないかなー、と思って」

 この場所のゲームはパスポートとは別料金。ゲームを一つ遊ぶごとにお金のかかるシステムなので、そうそう気軽に参加は出来ない。
 しかし、オキト国を代表する騎士二人がいるのならば別。既にリーシャやマリルは、どの景品を獲ろうかという品定めをしながらテントの周りをうろついているのだった。

「沢山ゲームがあるが……私はルールが分からないぞ。大丈夫なのか?」

「あ、大丈夫大丈夫。店員さんがしっかり説明してくれるから。ね、やってみない?ルーちゃん」

「うむ……。じゃあ、どれにしようかな……」

ルーティアは、一先ず分かりやすそうなゲームをやってみたいと思い辺りを見回す。
 しかしその前に、マリルがルーティアの肩をとんとん、と叩き、一軒のゲームコーナーを指さした。

「ねえねえ、アレなんかどう?ルーちゃん」

――

「…… はァッ!!」

 ブォンッ!!
 ガシャァァンッ!!

 お手玉を投げたとは思えない風圧と音が、店の隅の女性店員の髪を揺らした。

 『缶倒し』と書かれた看板のゲームコーナーでは、お手玉を投げて数メートル先の積み重ねられた缶を倒すゲーム。ここでは三球を使ってタワーのように積まれた缶六つを全て倒せばクリアなのだが……通常ではなかなかこれが倒せない。軽い空き缶とはいえ、小さくて軽いお手玉ではなかなかコントロールがつかず、頭のイメージより空き缶が上手く倒れてくれない。簡単に倒せそう、という心理を上手くついたはずのカーニバルゲームなのだが……。

 ルーティアの放った一球は、六つの缶全てを吹き飛ばし、威力を失わないお手玉は壁に激突をして、店員の前まで跳ね返ってきたのだった。

「……お、おめでとうございまーす!!景品獲得でーすっ!!」

 呆然としていた店員は我に返り、景品獲得の祝福をする金のベルを鳴らした。

「い、一撃で倒す人、初めて見たんだけど……。こういうゲームだっけコレ……」

 マリルはルーティアが先ほど投げたのと同じお手玉を手に取ってみる。中身は少しの小豆が入った、普通より軽いお手玉。しかしルーティアの投球はまるで、石の塊を投げたような破壊力を帯びたものだった。

「どれでも好きなものをもらっていいのか?」

「は、はいっ。どうぞ、どれでも結構ですよ」

「うむ。しかし、私も運が良かったな。一球で、となるとやはりかなり気合いを入れないと難しいものだ」

「いや、コレ三球投げていいルールなのよルーちゃん。一球で全部吹き飛ばすなんて芸当、普通は出来ないから」

「え。三つも投げて良かったのか」

どうやらルーティアは、一撃勝負だと勘違いをしていたらしい。

 マリルは冷や汗を一つ流し、カウンターを隔てて立ち尽くす店員さんにひそひそと声をかけた。

「……あの。一応他のゲームもやらせてもらいますけれど、何度も同じゲームさせませんから。安心してくださいね……」

「……そうしていただけると、本当に幸いです。ありがとうございます、お客様……!」

 このままルーティアにゲームを続けさせられると、店の景品が全てなくなりそうな予感がするマリルと店員。流石に申し訳ないと思ったマリルは、店員さんと密かな協定を結んだのであった。

――

「だりゃりゃりゃりゃーーーっ!!」

 リーシャが挑戦するのは、モグラ叩き。
 草むらを模した板には何個も穴が空き、そこから魔法動力で動くモグラの人形が出てきては引っ込む。柔らかい素材で出来たハンマーでその人形を叩いていき、一定の数を叩く事が出来れば、クリア。
 しかしこちらも、決して常人のモグラ叩きではない。
 かなりのスピードで出て、引っ込み、しかもそれが別の穴で次々と出現をするのでまず普通の人間は完璧にそれに追いつく事は出来ず、モグラを取り逃がしていってしまう。
 しかし、リーシャは別である。
 持ち前の動体視力と反射神経で、モグラのスピードを上回る音速のハンマーを振り下ろし、確実にモグラの頭を捉えていく。取りこぼしは一切なく、その動きは長年このゲームを見てきた店員さんでも見た事のないほどの速度と正確さであった。

「おりゃーっ!フィニッシュっ! さあ、どうよ!」

 電気魔法で光る掲示板が、リーシャのスコアを出す。
 そこには『100点』の文字が煌々と光り出していた。

「やったーっ!!パーフェクトね!!」

 子どものようにぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶリーシャ。唖然とそれを見つめる、店員さんとマリル。ちなみに、合格ラインは60点である。普通の大人でも、かなりのスピードで出現するモグラを捉えきれず50点未満で終わる事が普通であるこのゲームで……満点を出す人間がここに存在するのであった。

「お、おめでとう、ございます……」

 カランカラン、と力なくベルが鳴った。

「……あの、店員さん。このモグラ叩き、百点って出るもんなんですか?」

「……いえ。初めて、見ました……」

「……ですよね」

 マリルは何故か、この場所に二人を連れてきた事を少し後悔していた。景品を獲る嬉しさより、反則級の選手をスポーツに連れ出してきてしまったような罪悪感が背中にのしかかるからであった。

「えっとー、どれにしよっかなー。わー、アカシュモクザメのぬいぐるみがあるっ!これにしよっかなー。あーでもケナガネズミのぬいぐるみもすごくかわいい!あー、迷うなー!」

 リーシャは無邪気に、天井に吊り下げられた珍妙な動物のぬいぐるみを、キラキラした瞳で品定めするのであった。

――

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