最強の女騎士さんは、休みの日の過ごし方を知りたい。

ろうでい

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十一話 煌めく宝物《リユースショップ》

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「アーラカ玩具……って大手の玩具メーカーよね!ランディルさんスゴイじゃない、そこの営業の仕事だなんて!」

「ふははは……!お近くの玩具取り扱い店に立ち寄った時には是非とも当社の商品を見るが良い。ちなみにこの俺の名刺を見せれば一割引で販売をしてくれるであろう!」

 そう言ってマリルとルーティアに両手で腰を低くして自分の名刺を渡すランディルは、口調とは裏腹に完全なる営業モードに突入している。

 『アーラカ玩具 営業部 ランディル・バロウリー』

 白く輝く名刺には美しい文字でそう記されている。

「あ、ご丁寧にどうも」

「じゃあこちらも。よろしくお願い致します」

「ふふふ……。これも何かの縁だ!こちらこそよろしくお願いします!」

 王国城勤めのルーティアとマリルも、一応自分の名刺は携帯するようにしていたようだ。両手で渡し、両手で受け取る三人。

「……うーん……。休日でも大人とは大人であるべき場所があるのね……」

 サラは、腕組みをしてその儀式を見守っていた。


「それで、ランディル。この人形……製造されだしたのは大分前だと思うのだが、どうしてリユースショップにあるのに値段が下がっていないのだ?その解説をしてくれるという事か?」

 ルーティアが手に取った着せ替え人形の箱をランディルは覗き込み、その値札を確認すると何故か勝ち誇ったような笑みを浮かべて前髪をかきあげた。

「ああ。この着せ替え人形……『プレミア』が若干ついているのだ」

「ぷれみあ?」

「特に玩具関係や楽器によくある事だ。製造自体は古いものであるが、なにかそれに付加価値がつく理由があるものは、必然的に欲しがる者が多くなり、需要が高くなり……結果、それに見合った金額が下落ではなく上昇していく。 例えば、それにしか見る事が出来ない細工があったり、技術があったり…… あるいは、その着せ替え人形のように保存状態が良く、昔使った事がある者が欲しがるような物であれば、プレミアがつくのだ」

「昔使った事がある者が欲しがる……」

「つまりは、今の貴様と同じだ。昔その人形を持っていて、今になって部屋に飾りたくなった……。そう思って手に取ったのだろう?つまりは、そう思う客が貴様以外にも多いからこそ値段に反映するというわけだ」

「あ……」

 ルーティアは、その言葉に納得した。
 なるほど。確かに自分は今、この人形を手にした時……『箱つき』で『保存状態が良く』『新品同様に綺麗』で……なにより『自分が昔持っていたからもう一度欲しい』と思った。
 それはこの人形だけではなく、この店の全ての品に言える事かもしれないのだ。

「そうか……。この店にある物は全てが『使い古しで安くてお買い得』というだけではなく……『珍しくて高価な品』を求める場合もあるという事か……!!」

「ふははは!!素晴らしいぞ女騎士!!その通りだ!!そしてこの俺はそんなリユースショップの珍品を巡り探索をして旅をする、いわばハンターなのだ!!」

「……要するに、趣味で中古屋巡りしているお父さんなワケね」

 マリルの的確な解釈に、娘のサラは恥ずかしそうに頷いた。

「パパは玩具メーカーに勤めていて、「市場調査だ!」って私も一緒によく連れて行かされるんです……。実際は自分が好きなアクションフィギュアとかプラモデルを見にくるだけなんですけどね。私も小物見るの好きだし、だからこの店にはしょっちゅう来ているんです」

「うーむ。いいパパなのか、なんなのか……。まあとにかく、『プレミア』の意味は分かったねルーちゃん。玩具メーカーの人に解説されると説得力があるなー」

「ふははは!どういたしまして!!」

 先ほどから声を張り上げて言う割には口調の柔らかいランディル。
 ルーティアはランディルの解説を聞いて、玩具売り場をキョロキョロと見回す。

「この着せ替え人形は定価くらいで済んでいるが……。ひょっとして、定価以上に価値がついている物もあるという事か?」

 その疑問に、ランディルはふたたびにやりと笑う。

「察しがいいな、女騎士。その通りだ。この店の品には、場合によって定価の二倍、三倍……ある物では十倍以上の値段がついている物もある」

「な……なんだと!?十倍!?」

「古いという事は値段が下がるだけではない。むしろ生産が止まり二度とこの世に生み出されない品だからこそ、価値が上がる物もあるという事だ。そしてそれは、月日を経過させるごとに価値が上がっていく……。一般客以外にも、貴族のコレクターや商人が品を狙っている場合もある。そういった場合、一年を待たずして値段が倍以上に膨れ上がるケースも珍しくはないのだ」

「い、一年で、倍……」

「リユースショップでの発見は、一期一会だ。その価格に対して、自分が欲しいと思う気持ちが見合っているかどうか……常に判断をする事だな、女騎士よ」

「……!」

 ここにある品は全て、誰かがこの店に『売った物』。それ故、全ての品が一点物であり、二度と入荷をしないかもしれない物かもしれないのだ。
 そう思うと、今ルーティアが手に取っているこの人形も……この機会を逃せば、二度と手に入らなくなるかもしれない。

「ルーちゃん、その人形買うの?」

 覗き込んでくるマリルに、ルーティアは決意を固めて頷いた。

「買う。誰かに買われるくらいなら、私がこの子を預かる」

「うーむ、かっこいい台詞。とてもお人形を買う時に言う台詞には思えないねえ」


――

 初めは衣料品コーナーにいたルーティアとマリルだったが、店内を見始めると全ての場所に興味が出てくる。
 玩具、楽器、魔法道具、家具、貴金属……。何かしらの思い入れや、懐かしい記憶、そして新しい発見が、次々と店内の商品から溢れ出ていた。そこはまるで、宝物の山のようにも思えるのであった。

 二人を特に惹きつけたのは、やはり玩具コーナーである。
 最近は子ども向けだけではなく、大人用のボードゲームやフィギュアも多数生産されている中では、中古品ではあるもののルーティアとマリルの目に映るものは全て新鮮で目新しい。
 そしてそれだけではなく、子どもの頃に出会った懐かしいものにも興味は尽きない。隣には解説役のランディルと、その解説がくどすぎないか常に監視をするサラがつき、時間を忘れて滞在をする事になった。

「……ありがとうございます、ルーティアさん」

 マリルがハマっていたという漫画のキャラクターのフィギュアを手に取り、その解説をランディルが行って二人で盛り上がっている中…… そこから少し離れて棚を見物していたルーティアに、サラが話しかけてきた。

「? どうしたんだ、サラ」

「あの……昨日、父が騎士団の方に迷惑をかけたばかりだというのに、こんな風に私達に接していただいて……」

「ああ、気にするな。昨日の件は国王からむしろ感謝していると言われているし、私達もランディル……君の父に色々と教えて貰って、助かっているぞ。サラも、付き合ってくれてありがとう」

「いえ、そんな……」

 小さなサラに対して、少し腰を屈めて微笑むルーティアに、サラは頬を赤くして嬉しそうに目線を逸らした。

「……父は、魔族である事にプライドを持っているんです。昨日の件も、その関係のもめ事だったと聞きました。だから……」

「ああ。昨日のチンピラ達に一連の流れは聞いたよ」

「偉そうな口ぶりで高笑いを常にしているようなパパなんですけれど……本当は優しくて、私の事もとっても大切にしてくれているんです。でも種族の話となるとカッとなりやすいみたいで……本当にすいません」

「……娘の君が謝る事ではない。それに、誇りがあるのは良いことだと思うぞ」

「……そうでしょうか」

 魔族と、人間。数十年前に生まれた確執は完全に解けたわけではなく、いざこざが起きる事も少なくはない。騎士団の人間として、少なからずそれを見てきたルーティア。だからこそ、その気持ちもなんとなく理解が出来た。

「人間も、魔族も一緒だ。皆に誇りがあり、信念がある。それのない者はきっと、価値を失ってしまう。 だが……誇り高く生きていきさえすれば、価値が生まれる。私の手に取っている、この着せ替え人形のようにな」

「……その買い物カゴにある、お人形ですか?ルーティアさんが小さい頃に持っていたっていう……」

「ああ」

 ルーティアはカゴの中に入れた着せ替え人形の箱を手に取って、それを優しそうに見つめながら言葉を続けた。

「この店の商品、全てがそうだ。誇りがあり、信念がある。誰かに手に取ってもらい、使ってもらい、愛されたいという信念がな。それが大きければ大きいほど、それが値段に現れる。……私も、ランディルも同じだ。誇りと信念を高くもち、自分を……そして誰かを守り、愛されたい。より大きく輝いて、誰かの手にとってもらえるようにな」

「…………」

「ははは。すまん。うまく例えられないんだがな」

「いえ、なんとなく……私にも分かった気がします。……パパは、魔族だけではなく……私達を守りたいからこそ、魔族に対してプライドがあるのでしょうね」

 サラは微笑んで、マリルと一緒に和気藹々と話すランディルの背中を、眺めていた。

――
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