最強の女騎士さんは、休みの日の過ごし方を知りたい。

ろうでい

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十一話 煌めく宝物《リユースショップ》

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――

「ありがとうございます。合計で2480ガルンになります」

 店員さんのソロバンで弾かれたその金額に、マリルは目を丸くした。

「か、買ったねぇ、ルーちゃん……」

「……う、うむ。安いからと言ってカゴに放り込みすぎると、こうなるわけだな」

 運動着数着、生地の良い未使用タオル、メーカーもののスニーカー、トレーニング器具に、先ほどの着せ替え人形。本棚は、後日店の方から城へ届けてもらう運びとなった。 逆に言えばこれだけの物を買ってそのくらいの値段で収まるのかという驚きもあったが、塵も積もれば山となるという言葉の意味も同時に噛みしめる二人であった。

「しかしまあ、後悔はないぞ。あれだけ店内を厳選して物を吟味したのだからな」

「うんうん。さっきのランディルさんの言葉じゃないけれど……品物との出会いも、一期一会なワケだしね。いい買い物したじゃん、ルーちゃん」

「ああ」

 大きな袋二つを両手に持って、ルーティアとマリルはリユースショップの出口から外へ出て行く。

――

「わあ。もう夕方かあ……。三時くらいに入ったから……二時間近く店の中にいたわけね」

 腹の虫がなり、マリルが腕時計を見ると既に夕刻。店内巡りを満喫しただけあって、時間は魔法にかけられたように速く過ぎ去っていた。

「ルーちゃん、近くで夕飯食べて…… いや、無理かなあ」

「うむ……この荷物の量だしな、ははは」

 ルーティアだけではなく、マリルも結局大量買いをしており、二人とも荷物で両手の自由がきかない状態。お互いに、これではレストランに行くのも不便だと感じているようだった。

 するとそこに。

「……あ!ルーティアさん、マリルさん!」

 ルーティア達と同じように、店内から出てきたランディルとサラが、二人を見つけて近づいてきた。

「あ、サラちゃん。お買い物終わったの?」

「はい!いいものが見つけられました!」

「どれどれ、見せて……。わ、これ可愛いね!サラちゃんに似合いそう!」

「ありがとうございます。この猫ちゃんのキャラクター、私大好きなんです!」

 ルーティア達とは違い、小さな袋一つを片手に下げていたサラ。その中には、ピンク色や水色の可愛らしくファンシーな小物がたくさん入っていた。

「このヘアゴム、たくさんあってついいっぱい買っちゃったんです!マリルさんもお一ついかがですか?プレゼントします!」

「……あ、アタシが、この猫のヘアゴム……。あ、あははは……嬉しいんだけれど、あの……ど、どうしようかな……」

 少女の好意は受け取りたいところだが、流石に一回り以上年齢が上のマリルには……キツい印象のあるヘアゴムを受け取り、マリルはぎこちない笑みを浮かべていた。



「……女騎士よ」

「?」

 マリルとサラが盛り上がっている中、数歩離れた場所で小声でルーティアを呼ぶ、ランディル。雰囲気を察し、サラに気付かれないようにそっとルーティアが近づくと、ランディルは真顔でルーティアの目を見てくる。

「……その……。昨日の件なのだが……」

「……ああ、心配するな。さっきも言った通り、国王や騎士団からは逮捕の命令は下っていない。あとで奥さんやサラにバレないように、城に来て話をしてくれればいい。何なら、感謝状の一つでも貰えるかもしれないぞ」

「いや、感謝される事ではない……。……昨日は、会社で上手くいかない事があって、それでヤケ酒をしていたんだ。……絡んできた奴らが手配書で見た顔だというのはすぐに察した。だが酔った勢いとはいえ……まして、騎士団の人間にも手を出してしまって……」

 申し訳なさそうに俯いて喋るランディル。昨日、そして娘の前ではあんなに強がっていた彼のそんな姿を見て、ルーティアは思わず笑ってしまった。

「ははは。昨日の騎士団の人間に怪我をさせないように防御魔法を施したのも、お前だろう?まあ、手を上げた事は事実ではあるが……実害としてはない。城に来た時に、一言謝罪でもしてくれればそれでいいさ。マグナという、新人騎士だ」

「……マグナ。分かった。……すまなかった、ルーティア」

 サラがこちらを振り向いていない事をちら、と確認した後に……ランディルは頭を下げた。ルーティアは一つ頷き、その行為を受け入れたのだった。


「……?パパ?ルーティアさんと、なにかお話?」

 自分の傍にいないランディルに気付き、こちらを振り向くサラにランディルは両腕を腰に回し、高笑いをしてみせた。

「ハッハッハァーッ!この騎士と、再戦の約束をしたのだ!この俺との決着が、まだついていないのだからなァ!!」

「もー、違うでしょ!パパ、もう一回ちゃんと謝っておきなさい!」

「え?」

「え?じゃないわよ!昨日迷惑かけておいて普通に接してくれたんだから、ちゃんとお礼言っておいた方がいいと思うよ」

「し、しかし先ほど店内でしっかりと謝罪を俺は……」

「…………」

 ジーッ、と細めで睨む娘の目線に、ランディルは数秒と耐えきれない様子だった。

「すいませんでした、そしてありがとうございました、オキト城の方々」

 しっかり90度でお辞儀をするランディルに、冷や汗をかきながら「いえいえ」と頭を下げるルーティアとマリル。
 社会人同士の交流に、サラは満足そうに腕組みをして頷いていた。

――

「……親子、か」

 先ほどの様子とは変わり、仲直りをしたように笑顔で手を繋いで二人に背を向け遠ざかるランディルとサラ。その様子を見送るルーティアとマリルは、どこかその姿に郷愁を感じていた。

 ルーティアは袋の中から、先ほど買った人形の箱を取り出し、その中に入った可愛らしい女の子の人形を眺める。

「……羨ましい?」

 マリルの質問に、ルーティアは素直に頷く。

「父親がいるからではない。……誰かに寄り添える心が素直に出せるのが、羨ましくてな」

「あはは……だね。あんな風に仲良く手を繋げる人……大人になると、なかなかいないもんね」

「ああ」

 父。
 幼い頃に父を亡くし、そして国王に拾われたルーティア。
 だが父というその存在に対する気持ちは、昔……確かに、オキト国王に向けて抱いていた。


 オキト城へ来て、ちょうど一年。
 自分の誕生日すら分からないルーティアに、国王がプレゼントしてくれたのが……着せ替え人形だった。
 まだ若々しく凜々しかった国王だが、ルーティアに対しては娘に対する父そのものの優しい笑顔を見せ、その箱を両手で手渡すのだった。
 ……そしてルーティアは、その国王の事を『父上』と呼んでいた。

 「……ちちうえ?これは……」

 「ルーティアも、この城に来て一年だ。今日がお前の誕生日だから、そのプレゼントだよ」

 「! ……あ、ありがとうございます、ちちうえ」

 小さな両手でその箱を受け取り、その中を見ると……ルーティアはきょとん、と喜ぶでもなくその中身を見つめる。

 「……あれ?気に入らなかったかな、ルーティア」

 「……いえ、そんなことは」

 「ご、ごめん。別の物が良かったかな……。……でもルーティアも女の子だから、お人形さんで遊んだり……し、しない?」

 「……はい!大切にします!」

 父を悲しませまいと、子どもながら、精一杯元気に返事をするルーティア。
 それをなんとなく察して、苦笑いをするオキト国王。

 …… 好きに、なろう。このお人形のことを。

 だって私のために、ちちうえはいっしょうけんめい、これをえらんでくれたのだから。

 ルーティアは自分の部屋にそれを飾り、毎日それを眺め……いつしか、その着せ替え人形に父の気持ちを重ね、愛おしく思っていたのだった。



「…… 親とは、いいものだな」

「……だね。あー、なんかお父さんに久しぶりに連絡してみようかな、アタシ」

「ああ。……私も、国王に何かプレゼントしてみようかな」

「いいね!何気ないプレゼント、王様きっと喜ぶよー」

 遠ざかっていく、ランディルとサラの影。

 二人はその影が見えなくなるまで見送りながら、そんな話をしていたのだった。

――

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