最強の女騎士さんは、休みの日の過ごし方を知りたい。

ろうでい

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最終章 明日へ

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――

「と、いうわけで、ルーちゃんの風邪治療を開始するわよ、マグナちゃん!休日マスターの休日指南番外編『折角の休みなのに風邪なんて勿体ないから速効で治す方法』を伝授するわ!」

「……風邪じゃなくて、一応コレ『死の呪い』のはずだそうなんですけれど……」

「ううう、おなかへった……」

 オキト城内のルーティアの部屋。
 気合いの入った様子のマリルと、初めてルーティアの部屋に入ったうえに部屋の持ち主が呪いにかかったままなので落ち着かない様子のマグナ。そして家主のルーティアは死の呪いがかけられているというのに何故か先ほどから空腹を訴え続けているのであった。
 ベッドに横たわったまま赤い顔をして、ぜえぜえと息をはいて譫言を繰り返すルーティアからは普段の凜々しい様子も覇気も感じられない。しかしその様子を見てマリルは満足そうに頷いた。

「うんうん、食欲があってぐったりしているのはいい傾向よ。しっかり熱を出して身体の中のウイルスを倒そうと体力をそちらに集中させている証拠だからね」

「あの、だからウイルスじゃなくて死の呪い……」

「ええいっ、この際なんだろうと一緒よっ。ランディルさんは風邪の治し方とほとんど一緒だっていうんだから、アタシ達はそれを信じるしかないわ、マグナちゃん!」

「は、はい……」

 とにかく、自分たちに出来る事をするだけ。風邪の治し方と死の呪いの解除方法が同じとはとても信じられないが、専門的な知識のない二人はランディルの言葉を信じる事しかできないのだ。


「それじゃ、始めるわ。風邪の治し方の基本は、まず、身体を温めることよ」

「確かに、よく言われていますね」

「ルーちゃん、今、寒気はどう?」

 マリルの問いかけに、ルーティアは虚ろな目のまま答える。

「すこし、さむい……」

その答えに、またマリルは満足そうに頷いた。しかしマグナはその様子に疑問が生まれる。

「あの、マリルさん?身体が寒いというのはかなり症状が悪いんじゃあ……?」

「いいえ、実はその逆なのよ。発熱をしているのに寒気を感じているというのは、頭が身体に対して『寒い』という誤認をさせている状態なの。寒いから、身体がより発熱をして体温を上げようとしている……免疫力がしっかり働いている証拠って事ね。つまり、実際に寒いワケじゃないのに寒いと感じて身体を温めようとしているの」

「な……なるほど……!」

「そして、この免疫力を高めている身体をサポートしていくのが治療の基本。身体が体温を上げる手助けをしていけばいいの。と、いうわけでコレよ」

 いつの間に用意したのだろうか。マリルは部屋のテーブルから湯気の立った飲み物の入った飲み物を持ってくる。僅かな刺激を感じる香りは、ショウガのものであろう。

「アタシ特製の生姜紅茶よ。ショウガの辛味成分には身体を温める効果があるわ。すりおろして大分辛くなるけれど、黒糖とハチミツもたっぷり入れて、マイルドにしてあるから。レモンも生搾りしてビタミンCをいれて……紅茶の渋味成分にも殺菌作用があるというトリプル作用の特効薬!……ルーちゃん、起き上がって飲める?」

「……ん……。ふー、ふー…… ……あまくて、うまい」

 ベッドから上半身を起こし、ルーティアはマリルから受け取った紅茶をゆっくりと飲んでいく。

「うんうん、良かったわ。水分補給も大切だからね。身体を温める分、汗をかいたりして身体の中の水分が失われがちだからこまめに水分をとらなきゃ。……と、いうわけでマグナちゃんにお願いがあるわ」

「は、はいっ」

 急に指名を受けたマグナはピシッ、と背筋を伸ばした。

「免疫力増加をするビタミンCやミネラル分はこの生姜湯に入っているから良いけれど、糖分も高いからグビグビは飲めないわ。というわけで……その他の水分は白湯で補っていこうと思うの。マグナちゃん、給湯室でお湯を沸かしてこっちに持ってきてくれる?」

「分かりました、行ってきます!」

「あと、本人がお腹すいたって言っているから食事も用意してあげましょうか。だよね?ルーちゃん」

「……わたし、おなか、へった……」

 もはや語彙力も失われてきているルーティアだったが、しっかりと栄養をとる気はあるようだ。

「よしっ、今から言うレシピを食堂の人に伝えてきてくれるかな?アタシがさっき声かけてきたら具材は用意してくれていると思うわ。頼んだわよ、マグナちゃん!」

 普段の駄目っぷりが嘘のように、テキパキと指示を出すマリル。
 自分の能力……休日に関わる知識を、的確に、素早く実行し、ルーティアに施用していく。マリルとて、ルーティアを……この国を支えようとする、大きな柱の一部なのだ。

――

「持ってきました、マリルさん!」

「でかしたわ!」

 マグナが食堂から持ってきたトレーの上には、湯気の立つ食器が数点乗せられていた。マリルはそれを受け取るとルーティアのベッドの横の椅子に座る。

「ルーちゃん、食欲ある?食べれそう?」

「ううう……焼肉とミートソースパスタと寿司が食べたい……」

「よし、食べ合わせはぐちゃぐちゃだけれどとにかく食欲はあるわね。……おっ、食堂のおばちゃん美味しそうに料理してくれたね。自分で食べれる?食べさせようか?」

「……あーん」

「いつもの凜々しさの欠片もないけれど、とにかく体力回復に全神経を集中させているのねルーちゃん。いい傾向だわ!」

「……いいんでしょうか」

 普段見られない騎士団エースの姿に、どんどん困惑というか、絶望にも似た感情を覚えるマグナ。

「あの、マリルさん。そのメニューは風邪……じゃなかった。呪いに対してどんな効果があるんですか?」

 マグナの質問に、マリルの眼鏡が光る。

「まずは風邪の時の基本メニュー、『お粥』よ。消化器官を休める意味で、食欲がない時でも摂取しやすいというのが理由の一つだけれど……ルーちゃんみたいに食欲があった場合でもやっぱりお粥が一番ね。食事と一緒に水分が摂れて、かつ消化しやすいから素早く栄養に変わりやすい……メリットの多いメニューなの」

「な、なるほど……。でもなんだか、色々入っているお粥ですね」

 ルーティアの食べるお粥は白米以外にも食材が見える。全体が黄色がかり、見れば緑の小ネギが刻んでちりばめられていた。

「たまご粥。卵は栄養価が高く免疫力アップに欠かせないアミノ酸も含まれていて、かつご飯に馴染んで食べやすいのもポイント高しね。あとは身体を温める理由で、ネギとショウガを薬味に使っているわ。色合いもキレイで、食欲が湧くでしょ?」

「はい、なんだかすごく美味しそうです。風邪をひいてなくても食べたいかも……」

 ごくっ、と喉を鳴らすマグナに、マリルは小さく笑った。そのままルーティアに餌付けをしながら、小鉢に入っている梅干しをスプーンで掬う。

「ルーちゃん、梅干し食べられる?」

「うん」

「オッケー。お粥に少し混ぜるからね」

「……はふはふ。……すっぱうまい……」

「梅干しは、唾を分泌させやすい食べ物なの。唾液量を多くして、消化を助けることでより栄養吸収を促進するわ。殺菌作用もあるし、付け合わせに最適よ」

「な、なるほど……」

「あとはキノコとか野菜で栄養を摂りたいところなんだけれど……消化性に難があるから、風邪症状が改善してからね。とにかくいまは消化の良い食べ物と、水分。お腹いっぱいになって苦しくならない程度に食べて、こまめに水分を摂って……そしてなにより、たっぷりの睡眠をとって体力をすべて免疫力を高める事に使ってもらう。この作戦でいくわ」

「わかりました……!がんばってください、ルーティアさん……!」

「……あーん」

 言葉が届いているのかは分からないが、とにかく今は食べることに全ての尊厳を捨てているルーティアであった。

――

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