お嬢様のペットはドラゴン

ミナモト

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09 銀の腕輪

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 非常に残念なことにゲームとは違い、サディアスはすっかり優等生になってしまった。
 元々、地頭は良かったのか、勉学に真面目に取り組めば、めきめきとその成績は伸びていった。
 ただ、やはり魔法だけは、どれだけ習ってもろくに使えなかった。
 サディアス自身も、魔法の授業だけは乗り気ではないようだ。サボることはしなかったが、すでに魔法を使うことを諦めているのか、授業態度はただ時間が過ぎて終了時刻を待っているだけという、投げやりなものだった。
 お嬢様は、そんなサディアスを叱ると同時に、魔法の教師を変更をすることを旦那様へと頼んだ。
 やって来たのは、元宮廷魔道士という、王都でも高名な老齢の魔道士だった。王宮を引退直後に、旦那様が頼み、こちらへ来て貰ったらしい。
 しかし、その魔道士でも、サディアスにまともな魔法を使わせることは出来なかった。
「ふうむ……。どうやら、お坊っちゃまは、只人よりもずっと魔力が高いようですな。これほど魔力が高い方は、長い人生を送って来ましたが見たことがありませぬ。ゆえに、私が教えるのはちょいと力不足かもしれませぬな」
「先生、本当にどうにもならないのでしょうか?」
 お嬢様がそう聞くと、老魔道士は顎に手を当てて、しばし考え込んでから、ゆっくりと口を開いた。
「経験がないことですので、出来るかどうかはわかりませぬが、魔力制御の魔道具をつけて、魔法を使ってみることを、試してみてはいかがでしょうかな」
「魔力制御の魔道具というと、罪人などがつけるあの……」
「ええ、当国の罪人は、ある程度魔法が使える者であれば、魔法を発動しようとすれば体が痺れるように雷魔法がかけられている、魔法制御の魔道具をつけられます。しかし、もしも王族や上級貴族から罪人が出た場合は、まだ容疑がかかっているだけの段階ならば、魔力自体を抑える魔力制御の魔道具が使われまする。王侯貴族の為だけの物ですから、かなり値が張る物ではありますが……」
「そこにしか希望がないと言うのならば、試してみるしかありませんわね。入手出来るかどうか、祖父や父に頼んでみます」
「ほっほっほ、ハーツシェル公爵様なら、きっと可能でしょう。それをつけたとしても、魔法が使えるようになるかどうかはわかりませぬが……。使えたとしても、やはり高度な魔法までは難しいと考えた方がよろしいでしょうな」
「はい、そのことは覚悟しておきます。サディアス、貴方もそれでよろしいですわね?」
「……はい」
 サディアスは、少し躊躇いながらも頷いた。
 魔力制御の魔道具は、お嬢様の頼みには弱い大旦那様が問題なく入手してくださったようだ。
 それでも、貴重な魔道具らしきゆえに、新たに作らせて届くまでには少し時間がかかった。
 今日、新品のキラキラした銀の腕輪が二つ、やっとハーツシェル公爵家に届けられた。
 罪人用の物は、もっと装飾が抑えられているのだろうが、さすが公爵家。表面に細かく薔薇と茨の彫刻がなされ、技巧を凝らしたとても美しい仕上がりになっている。この仕上げをしたからこそ、届けられるまでに余計に時間がかかったのではとも思えるが。
「サディアス、こちらへ」
 腕輪をはめてみる前に、お嬢様がサディアスを手招いた。
 サディアスの手を取り、呪文を呟き、以前はめた中指の指輪をスルリと外す。
「もしかしたら、この指輪が魔力制御の腕輪に干渉してしまうかもしれませんから、外しておきます。貴方はもう、授業から逃げ出したりはしないでしょうし」
「…………」
 サディアスは、指輪がなくなった自分の手を眺めてから、いささか残念そうにお嬢様の手の中の指輪を見つめた。
 ふふふ……その指輪は、お嬢様が私の為にあつらえてくださった、私の為の物なのだ。お嬢様と私がいつでも繋がっているという、愛と忠誠の証。貴様には過ぎた物よ……。ええい、未練がましく指輪を見るでない!貴様はその、大旦那様の孫娘への愛情たっぷりの高級腕輪でも、有り難く身につけておると良い!
 指輪が無事、お嬢様と私を繋ぐ為の物だけになった後、サディアスの両手首に分厚い銀の腕輪がはめられた。
 魔力制御の魔法が発動されたのか、キラキラとした輝きが少し控えめになる。大抵の魔道具は、効果発動中は光を発したり増すものだが、逆に光が減るとは面白い。それがこの魔道具における、きちんと効果が発揮されているという合図なのだろう。
 サディアスは、さっそく魔法の練習に取りかかる。教師は先日も来た、あの元宮廷魔道士の老君である。
 教師に言われた通り、サディアスは手に魔力を込め、火魔法を発動しようと試みる。ろくに魔法が使えなかったとは言っても、サディアスが一番得意なのは火魔法で、蝋燭に火を灯すくらいならば暴走させることなく、以前もなんとか出来ていた。
 ちなみに、お嬢様が一番お得意なのは呪術で、二番目が火魔法だ。
 微妙にかぶっているのが気に食わない。私とて、この体が万全に回復したら、火魔法ぐらい使えるし!
 ボワッと、蝋燭の火よりも大きい、拳大の炎がサディアスの手から発し、サディアスは驚いて魔法の発動をやめた。
「ふむ、どうやら上手くいったようですな。坊っちゃま、もう一度同じ魔法を使ってみてください」
「……はい」
 サディアスは、恐々と自分の手と腕輪を見ていたが、意を決したような顔をして、先ほどと同じ火魔法を発動する。
 ボワッと、また拳大の炎が生まれ、サディアスの手の上で、小石程度の大きさになったり、拳大に戻ったりと不安定に揺れる。
「安定はしていないようですが、魔法の発動を維持出来ていること自体、以前に比べて上々と言えましょう。これで魔法の授業を進めることが出来ますな」
 老魔道士は、そう目を細めて微笑む。
 サディアスは、ボーッと呆けた顔で、自分の手の上の炎を眺めている。
「サディアス」
 お嬢様に声をかけられ、サディアスはビクリと肩を揺らし、手の上の炎が消えた。
「少なからず、腕輪の効果があったようで良かったわ。あとは、気持ちを乱さず、呆けず、集中して頑張りなさい」
「……はい」
 お嬢様は、老魔道士を振り返り丁寧に礼をした。
「では、先生。義弟おとうとを、どうぞよろしくお願いいたします」
 サディアスは、お嬢様のその言葉に少し目を見開いた。呆けるなと言われたばかりなのに、ボケッとお嬢様のことを見つめている。
 むぐぐぐ……サディアスめ。初めて弟と呼ばれたからと言って、自惚れるでないぞ!所詮、義理!お嬢様と私の絆には及ぶはずもない!
 お嬢様がその場を去る時すら、じっと見つめて来るサディアスを、私はお嬢様の腕の中から睨みつけた。
 くっ……おのれ、人心を惑わす魔王め……!
 あくまで義理とはいえ、お嬢様が魔王を義弟だとお認めになられてしまった……。いけません、身の内に引き込んではっ!あの者は、破滅を招きます!
 お嬢様に訴えかけるように、ブワンブワン尻尾を回していたら、お嬢様が優しく背中を撫でてくださる。
「クイン、どうしたの?お腹が空いたのかしら?」
 お腹は空いていませんが、お嬢様がくださるというのならば、なんでも食べます!ですが、そうではなくてですね……。サディアスは極悪非道の魔王で、あれと関わるとですね、お嬢様の将来が滅茶苦茶に……っ!
「少し時間が早いけれど、おやつにしましょうか。貴方の好きな栗を使ったお菓子を取り寄せておいたわ」
 おお、栗!もうそんな季節ですか……。是非、一緒に秋の味覚を堪能いたしましょう!
 今頃、魔法の練習に勤しんでいるサディアスの分まで、この私が全部食べ尽くしてやりますとも!
 フハハハハ!あやつめのがっかりした顔が目に浮かぶわ!ざまーみよ、魔王め!
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