めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

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乗馬会

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 ドロボーニャさまは暫くお家にこもっておられたそうですわ。
 なんでも「やっぱりちゃんと虐められるんじゃんかよ!」と大声で呪詛のように何度も叫んでらしたと。
 
 前世のわたくし並みに乱暴なお言葉遣いですわね。
 それに、やっぱりって、どうしてそう思われたのかしら。
 
 わたくしが悪の所業を行う予定でいたことをまるで御存知だったかの台詞ですわね。不思議ですわ。
 
 
 ともかく、このくらいでしたらドロボーニャさまがめげるはずもございませんことよ。自ら皇太子さまへお近づきになってらしたくらい心臓に剛毛の生えてる方ですからね。
 さて次は、ドロボーニャさまから皇太子さまへ、わたくしに受けた仕打ちを明かしていただくとしましょうかしら。
 
 さあ、またセッティングを……
 あ…ちょっと今、マジめんどくさいと思ってしまいましたわ。溜息つきで。いけませんわね、前世の侵食が続いておりますようです。
 これくらいで早くもわたくしのほうがめげてどうしますの。
 
 さあ準備準備……。
 
 
 
 
 
 
 懸命に考えました結果、ここはお詫びのていを装うことに致しましたの。
 
 「おみやげにお持ちいただいたフルーツが悪くなっていたと聞きましたわ。ご体調まで崩されたと。申し訳ありませんでした」
 わたくしは開口一番、ドロボーニャさまにお詫びの言葉を述べました。頭は下げませんけど。
 
 「本日はお詫びになりますようにと、この場を設けさせていただきましたの」
 そう言ってわたくしは、隣に控える馬の顔を撫でます。
 
 ええ、ご用意した場とは、ペガサスの乗馬です。広々とした草原から空へ向けて駆けあがるととても気持ちがいいのですわ。男爵家といえど貴族です。馬なら乗れるはずですから、わたくしどもの所有するこの広い野で、本日はめいいっぱいに駆け回っていただこうと思いますの。
 もちろん、彼女の攻略対象をお呼びしておりますわ。あ、いらっしゃいましたね。
 
 「失礼いたしましたわ」
 マジマンジ皇太子さまがわたくしの声の聞こえるところまで来られたのを見計らい、もう一度ドロボーニャさまへお詫びのことばを言いました。今回は、少々わざと高飛車に。
 
 「何かあったのですか」
 マジマンジ皇太子さまは、わたくしの傍まで来られると、さっそくお尋ねになられました。
 よしよし、ですわ。
 
 「ええ、ちょっとした手違いが」
 「手違いとは?」
 さあ、ドロボーニャさま、ここでぶちまけなさいませ。わたくしに虐められたと。
 
 「そうなんですよー!」
 来ましたわね。
 
 「ダリ―ナさまのお家からもらってかえったフルーツ、全部が全部、腐ってたんです!もう食べても全然わかんなくて!ありえないですよねっ、」
 
 そうですわ、その調子ですわ。
 
 「私の舌って!!」
 
 
 ……ん?なんて?
 
 「ありえないですよーほんとに!私の舌って腐ってる食べ物もわかんなかったみたいです、味オンチとかの領域、越してますよねー!」
 
 ドロボーニャさまは例の調子で、大口ではっはっはっと大笑いしてらっしゃいます。
 
 「てか、もう正直に言っちゃいますとー、最初はダリ―ナさまがわざと私に腐ってるの渡したのかなって思ったんですよー、でもこんな素敵なお詫びの場を用意してくれたし、さっきも謝ってくれたし、私の思い違いだったんだなあって。やっぱダリ―ナさまって、めっちゃ良い人ですよね…!!」


 ああ、待って。待ってくださいませ。
 
 それは、わたくしの台詞でございます。もしかして、ドロボーニャさまって、本当はすこぶる良い人ですの……?
 そうでなければ、ここで悪役令嬢を貶める絶好のチャンスを見送るなんて、ヒロインとしてどうかしてますわ。
 腐ったフルーツの毒がまわってらっしゃるのかしら?
 
 「もちろんダリ―ナがわざとそのような事をするわけがないですよ。しかし全て腐っていたとは、ドロボーニャ、貴女も災難でしたね」
 マジマンジ皇太子さまが気の毒そうに仰います。
 
 「はい、大変でしたよもう!トイレと大親友になってましたから!」
 
 「トイレ…」
 「あ、えっとお手洗い?お化粧室?とにかく入り浸りでした!」
 
 仮にも攻略対象の殿方の前で、なんて単語を連呼してらっしゃるのかしら。
 
 わたくしは塞がらなくなった開いた口を慌てて扇子で隠します。
 マジマンジ皇太子さまは開いた口を一寸後に大笑いの口へと変えられました。
 
 「ドロボーニャはやっぱりおもしろいですね…!」
 
 「そうですかー?」
 はっはっはと笑ったままのドロボーニャさまは、頭の後ろを掻くようなしぐさをなさいました。
 なんでしょうかしら、今の。何か意味のあるしぐさなのかしら。
 
 「ところでドロボーニャさま、やはり乗馬はお好きでしょうか」
 
 話をそろそろ変えるため、わたくしはそう切り出しました。
 この場にふたたび二つ返事でお越しくださったくらいですから、もちろんお好きなのでしょう。
 ですから、もちろんです、のお返事が来ることと期待してお待ちしておりました。
 ですのに。
 
 「好きも何も、まともに乗ったことないからわかんないですー」
 
 「……え?」
 
 「昔、遊園地で園のお兄さんに手綱ひいてもらいながらポニーに乗りましたよー。でも普通の馬は初めてですー!楽しみです!もちろんだれか手綱ひいててくれるんですよね?」
 
 ゆうえんちとはなんでしょうか。なによりポニーというのは、大昔に絶滅した馬の種類ですが、どういうことなのでしょう。
 
 「ドロボーニャは本当におもしろいな!」
 マジマンジさまは冗談だとお思いになられたご様子で、またも笑い出してしまわれました。
 
 「ええと、もう何からお伺いしたらよろしいのかしら、…手綱、そうですわ、手綱なんて、もちろん引いてさしあげることはございませんわ。ペガサスの隣で手綱なんて引いてましたらその者が下に落ちてしまいますでしょ」
 
 「……ぺ?ぺがさす?」
 
 この方、なにをそんなに驚いてらっしゃるのでしょう。馬といったらこの時代、ペガサス種以外に何がありましょう。まさか本当にポニーがいるとお思いなのかしら。
 
 「だって羽とかないですよね…」
 ドロボーニャさまがぽかんとして、馬の背を見つめています。
 羽がいま見えなくてあたりまえですわ。普段、背中にしまわれていますもの。
 
 「もちろん飛ぶときには羽を出しますわ。ドロボーニャさま、ご実家で乗られたことはまさかございませんの?」
 
 「あるわけないで…ん?あ、もしかしたらあるのかも、あるのか!私が記憶ないだけじゃんー!」
 そっかあぁぁとそのまま叫び始めた彼女に、わたくしもマジマンジさまも侍従たちも今度はさすがに唖然としてしまいました。
 
 記憶ない、って、ますます大変なお方ですわね。
 乗馬中に落馬して頭を打ったことがあるとかではございませんよね。心配になってまいりました。
 
 「もし乗り方を覚えてらっしゃらないのでしたら、危険でございますから乗馬会は中止といたしましょう」
 わたくしが提案いたしますと、マジマンジさまも頷いてらっしゃいます。
 
 「え、でも」
 ドロボーニャさまが、慌てたように馬のほうをもう一度ご覧になりました。
 「この子たち乗ってみたいです…!!ペガサスですよ!?ありえないでしょう!!」
 
 さっきからありえないのは貴女様でございます。
 

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