めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

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最大の関門

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 わたくしの素敵な未来への最大の関門は、もしかしたらマジマンジ皇太子さまなのかしら。
 
 そんな疑念が浮かんでから、わたくし、ろくに鑑賞も楽しめませんでしたわ。
 この御方のレディーファーストぶりをなんとかしていただかないことにはきっと始まりませんのよ。そうですわよ、こんなにも女性を大切になさる皇太子さまが、簡単に婚約破棄なんて真似をするはずもありませんでしたわ。
 
 しかしそうしましたら、どういたしましょう……
 
 やはりわたくしに幻滅していただくことが一番の早道ですわよね。まさに先程のマジマンジさまのような事態を起こせばいいのですわ。
 
 そうしますと第二弾第三弾を考えておりました、ドロボーニャさまへの虐めの計画など、いま思えば手ぬるいですわ。先程のマジマンジさまほどのショッキングな出来事にしなくてはなりません。
 
 マジマンジさまがドン引きなさるショッキングな出来事……
 
 
 観劇が終わる最後の最後まで悩みましたわ。そして、結論は、きたない言葉遣いと出ました。
 それにちょうどいいではございませんか。堅苦しい言葉遣いをやめてくれとマジマンジさまはおっしゃられていたのですし。
 ここは、前世のわたくしが使っていた数々の嫌世的言葉遣いでドン引きさせてさしあげましょう。
 
 「かったりー」
 
 「…?」
 
 あら。聞こえなかったかしら。
 
 「すっげーたりー」
 
 「……?」
 
 やっぱり妙な反応ですわね。
 もしかしてマジマンジさまはこういった言葉自体を御存知ないのかしら。ですが、この世界に無い言葉というわけではございませんのよ。町の方々はこういった話し方をしていると、帝王学の市勢の講義で習いましたはずですけど。
 忘れてらっしゃるのかしら。
 
 「はあ…めんどくさい」
 
 これならさすがに、おわかりね。
 
 「ど……どうしちゃったんですか、ダリ―ナさま」
 横からドロボーニャさまの問いがきましたけど、無視ですわ。
 
 「めんどくさいわ。すべてがめんどくさい」
 
 もう一度、わたくし呟きました。いえ、けっこうこれ本心ですから、心がこもった声になりました。
 
 「どうした、ダリ―ナ…」
 ああ、やっと反応なさいましたね。
 
 「べつになんでもありませんわ。只々めんどくさくてけったるくて仕方ないのですわ、もうこれから一歩たりとも歩きたくねーわですわ」
 
 まだ舌がもつれますわね。
 
 「あーけったりーですわ」
 
 「……ダリ―ナ、今日は疲れたのでしょう、……私のせいですね…」
 
 マジマンジさまがいきなり反省モードになられました。
 
 「いえ、マジマンジさまのせいではございませんわ。わたくしが勝手にくそだるくなってるだけでございますわ」
 
 「く…くそ?」
 
 あ、やっと期待した反応が。
 
 「ええ、くっそたりーです」
 
 
 隣でドロボーニャさまがふきだしました。何がおもしろいのか皆目わかりませんけど。
 
 「ダ、ダリ―ナ…」
 「歩きたくなあい。動きたくなあい。ですわー」
 
 「わかった、わかりましたダリ―ナ…!」
 
 ん?
 
 「私が君を姫抱きして馬車まで運んでさしあげましょう…!」
 
 え
 
 「ほら、私の肩へ手を」
 
 え、いえそれは…
 
 「罪ほろぼしをさせてくれ。君の精神を疲弊させてしまったのはこの私なのだから」
 
 ちがいます。いえ、そうかもしれませんけど、
 意図したこととちがいます。
 
 「さあ」
 「ちょ、マジマンジさま、あの」
 ちょっとこの方、わたくしがこんな話し方してますのに、一向にドン引いた様子がないのですが。何故ですの。
 「来ないなら失礼するよ」
 「え、きゃ?!」
 
 ふわりとわたくしの体は宙へ上がりました。
 
 「おおおろしくださいませ、皆様が下のフロアにいらっしゃるというのにこれでは見えてしまうではございませんか…!」
 「かまいませんよ」
 「わ、」
 わたくし、どうしましょうきっと顔が真っ赤ですわ。
 「わたくしがかまいますわ…!」
 「なぜですかダリ―ナ、私たちは婚約している仲です」
 「リア充め」
 「ダリ―ナ、しかし君は軽いな」
 「マジ、マジマンジさま、マジおろしてくださいませ」
 「マジマンジ~」
 時々ドロボーニャさまの不敬な呟きが混じりますけど、それどころではございません。わたくし、とにかく必死でございます。
 
 「マジマンジさまッ、こんなことしてくださらなくて結構ですわと申しておりますのがわかんねえのかこのやろーですわ!!」
 
 ぴたりとマジマンジさまの動きが止まりました。
 はあ。ようやく幻滅していただけたようですわね。
 
 「私の愛を試しているのですか、君は」
 
 「…え?」
 
 「君がこんなに拒むのは、そういうことでしょう。拒んで私を傷つけて、それでも私が君を愛し続けることを確認しようと…」
 「そ、」
 そっちでございますか。わたくしの今の言葉遣いを華麗にスルーなさって、拒む行為のほうへご着目ですか。
 
 「そういうことではございませんわわわ」
 わたくしの反論がなされるより前にマジマンジさまが歩き出されて、わたくしの声は上ずります。
 「マジマンジさま、本当におろしてくださいませ……!ええもうけったりーのは治りました、治りましたから…!」
 
 マジマンジさまの侍従たちがそっと目を逸らして道をあけます。
 マジマンジさまの肩越しに見ればドロボーニャさまが後ろからついてきますが、わたくしの何倍もかったるそうな表情になってますわ。
 当然ですわね、ヒロインの攻略対象がこんなでは。わたくしを責めないでくださいませね。
 
 
 そしてわたくしたちはまもなく劇場のフロアへ出てしまいました。
 ああ本当に、なんてこと。皆様が大勢いらっしゃいますのに。
 いったいこのまま馬車まで…??
 
 「ダリ―ナ、許しませんよ」
 
 「え?」
 
 「私の愛を拒むなど、絶対に許しません」
 
 
 
 
 ………わたくしの素敵な未来への最大の関門は、マジマンジ皇太子さまで決定いたしました。

 
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