『容疑者は君に夢中?〜捜査一課の恋と事件簿〜』

キユサピ

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第9話:スキャンダルな密室

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風鈴の音が、微かに揺れた。
都内某所、都心の高層マンション。十七階の一室から、救急隊員が担架を運び出す。担がれていたのは、人気ニュースキャスター・水原理沙。意識はなく、だが幸い命は助かる見通しだという。

現場に呼ばれた霧島まどかは、目を細めて部屋を見渡した。

「密室、ですね……」
「鍵は?」橘直哉が低く問う。
「内側からの施錠。窓も閉まってるし、外からの侵入は……たぶん無理です」

重度の近視であるまどかは、現場の全景をメモしながらも、しょっちゅう眼鏡をクイッと持ち上げている。

「で、彼が通報者?」
橘が指したのは、スーツ姿の男性。議員秘書・古賀泰成。
「理沙さんとは……交際していたわけではありません。ただ、相談には、よく乗っていました」
「どんな相談ですか」
「……『誰かに尾行されてる気がする』と。ストーカーのような……」

彼の目は赤く、だが涙の乾きは早すぎた。

「気になるものが一つあるんだけど」
まどかが、ベッド脇の引き出しから取り出したのは――
破れた一枚の写真だった。

それは、水原理沙と古賀が肩を寄せ合って写っているツーショット。だが、古賀の顔の部分だけが無残に破かれていた。

「これは……?」
「……知らない。僕はこんな写真、撮った覚えもない」
目を逸らす古賀。
彼の口元が、わずかに動いた。



翌日、警視庁。
「これ、理沙さんのスマホから出てきたんだけど」
橘がまどかに示したのは、未送信メールの草稿。
《あなたが私を脅しているのは分かっています。あの写真、公開したらあなたのキャリアは終わりよ》

「この“あなた”って……」
「差出人の頭文字はMだ。しかも、理沙さん宛に来てた脅迫メール、全部発信元が匿名アカウント。でも、文体が一貫してて……」

橘はホワイトボードに文字を並べた。
「“君は黙っていればいい。余計なことを言わないほうが身のためだ”」

「おおっと、サスペンスじみてきたわね」
まどかが眼鏡をくいと持ち上げる……が、ゴツン。鼻にぶつけた。

「ぐえっ……って、いったぁああ!!」
「お前、昨日もそれやってただろ……」
「近眼なめないでくださいよ!バスルームの花瓶、あれカメラだと思って手振ってましたからね!?」

「……どんな被害妄想だよ」



現場に戻る二人。まどかは洗面台周辺をチェックしていて、ふと何かに気づく。
「花粉?」
「ん?」
「この棚の端、黄色い粉みたいなものがついてる……これ、部屋にあった観葉植物の花粉じゃない」

その花は――ベランダの鉢植えだった。バスルームにあるはずがない。
「つまり、誰かが外から操作して棚を動かした。……あの小窓、引き紐がついてたでしょ?それをうまく使えば、外からロックを引っかけるくらいできるわ!」

橘の目が光る。
「……つまり、密室じゃなかったってことか」



調べの結果、犯人は――三宅舞。理沙の後輩キャスターだった。
彼女の家族は過去、理沙のスクープ報道で人生を台無しにされたことがあり、ずっと復讐を誓っていた。
そこに、理沙と古賀とのスキャンダルが舞い込む。理沙が交際を公にしようとしていたことを知り、「潰す」決意を固めた。

「彼女は、悪くなかった……ただ、正義感が強すぎただけ」
そう言い残して、舞は連行されていった。



捜査後、交番近くのカフェ。
まどかが、眼鏡をテーブルに置いて目をこする。
「ほんっと、目が疲れる……」
「だったら、コンタクトにすれば?」
「無理。目ん玉に異物入れるとか、怖すぎる」

橘がふと、視線を逸らしてから、
「……でも、その眼鏡、似合ってると思うぞ」

「――はぁ!? なに言ってんの急に!?」
顔を真っ赤にするまどか。
橘はコーヒーに口をつけながら、そっぽを向いたまま、
「いや、別に。なんでもない」

その頬が、少し赤いのを、まどかは見逃さなかった。



《ラストモノローグ》

真実が一番怖いのは、鏡のように心を映すから、かもしれません。
――霧島まどか
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