『容疑者は君に夢中?〜捜査一課の恋と事件簿〜』

キユサピ

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第41話:チョコレートに隠した声

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1.甘くて苦い、義理と本命の境界線

二月某日。
駅前の商店街は、ハートとピンク色に包まれていた。
バレンタインの気配が色濃く漂うその空気のなか、まどかは肩にかけた紙袋を大事そうに抱えていた。

「……やっぱり、もうちょっと苦味入れた方が、橘さんは好きかなあ」

「――苦味って誰の話だ?」

不意に背後から声がして、まどかは小さく飛び跳ねた。

「あっ! 橘さん! びっくりしましたよぉ~!」

「逆にびっくりだよ。なんだその袋……やたら派手なハートのやつ」

「え? あ、あの……そ、それは……」

まどかの目が泳ぐ。完全に「怪しい人」になっている。

「まさか、あれか? バレンタイン?」

「い、一応……職場に日頃の感謝として、義理を……!」

「……ふーん」

直哉がつまらなそうに鼻を鳴らす。

「本命は?」

「え?」

「本命。ないのか?」

「……え? え? それって……わ、私に彼氏がいるって思ってるんですか?」

「思ってねえよ」

「えっ、じゃあ……えっ……?」

「……だから、聞いただけだ」

ぶっきらぼうに言い残し、直哉はスーツのポケットに手を突っ込んで歩き出した。
まどかはその背中をぽかんと見送る。

「……橘さん、なんか今日ちょっと怖いかも?」



2.スイーツコン事件発生!

事件が起きたのはその日の午後、駅近くで開催されていたスイーツフェスティバル内の「チョコレート品評会」。

出展ブースの一つで、有名ショコラティエ・氷見沢の特製チョコに**“アレルギー物質”が混入していた**と来場者が倒れる騒動が発生。
まどかと直哉は、すぐ現場に駆けつける。

「現場にいたのは?」

「このチョコを差し出した人です。バレンタインフェスの関係者かと思ったら――誰も知らない女性で……」

「名前もわからない?」

「はい。ただ、チョコにこんなメモが……」

【あなたのことがずっと好きでした】
【この一粒に気持ちを込めました】

まどかが思わず口元を押さえる。

「これ……どう見ても本命チョコじゃないですか」

直哉がポケットから手袋を取り出す。

「まさか、告白のふりして“毒チョコ”を渡すってわけか。手が込んでるな」

まどかが小声で呟く。

「……本命チョコって、重たいこともあるんですね……」

「お前が言うと説得力ないな」



3.すれ違いの告白(未遂)

調べが進むうち、チョコの“差出人”は数日前からショコラティエにしつこくアプローチしていたストーカー女だったと判明。
事件は計画的で、犯人はすでに立ち去っていたが、残された痕跡と映像記録から追跡は進みつつあった。

日が落ちた帰り道。
直哉とまどかは並んで歩いていた。

「……ま、バレンタインなんてトラブルの温床だな」

「でも、気持ちを伝える機会って、普段ないですもんね。正しく届いたら、きっと幸せですよ」

「……俺はさ」

ぽつりと直哉が言う。
その声は、いつもより少しだけ柔らかかった。

「お前にチョコもらえたら……たぶん、結構嬉しいと思う」

「えっ?」

「義理でも、なんでも」

「えっ……」

「……いや、いい。忘れろ」

「えっ⁉︎⁉︎」

まどかが立ち止まる。

「え、ちょっと、橘さん今……え、なんか言いかけました!? もしかして、なにかすごく大事なことを――」

「言ってねえよ。お前の気のせいだ」

「え、でも……えっ? えっ?」

「……チョコ、落とすぞ」



4.それぞれの想い、まだ届かず

帰宅後。
まどかは袋の中からラッピングされた小箱を取り出す。

「……ちゃんと伝わるって、難しいなあ」

その横で、直哉は自宅のソファに沈みながら、手に取った義理チョコを見つめていた。

「『義理でも嬉しい』……じゃねぇんだよ、バカ」
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