『容疑者は君に夢中?〜捜査一課の恋と事件簿〜』

キユサピ

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第47話:天然資産家と、幻の茶器

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「本当に……でかいな」

霧島家の屋敷を前に、直哉は軽くため息をついた。
恋人である霧島まどかの父・貴臣に招かれ、緊張しつつも門をくぐる。

応接室で待っていたのは、穏やかな笑顔の紳士──そして、想像以上に“ど天然”な男だった。

「橘くん。来てくれてうれしいよ。あ、猫は好きかい?」
「……はい、まぁ、嫌いではないですが」
「それはよかった。庭に三匹住み着いてね。君にぜひ紹介したくてね!」

すでにペースを乱されている直哉に、お茶が出される。目をやると、それはまるで美術品のような繊細な茶器だった。

「……これは、すごく高価なものですね」
「うむ、祖父の形見でね。もう二度と手に入らない品だそうだ」

まどかがこっそり耳打ちする。「あのお茶碗、ひとつ数百万するらしいよ……お父さん、わりと雑に使ってるけど」

そんな会話からわずか数十分後。
再び部屋に戻った直哉の目に、異変が映る。

──あの茶器が、なくなっていた。

「……あれ? さっきのお茶碗は?」
「ああ、あれ? うーん、私がどこかにしまったのかなぁ……捨てたりしてないよね?」
「お父さん!」まどかが突っ込む。

執事も首をかしげている。
念のために、と書斎にも案内されたが、そこでももう一つ妙なことに気づいた。

「この棚の……『風の扉』、この本が抜けていますね」
「なんと! まどかが幼いころ、私と交代で読んでいた本だぞ。しおりに私の詩も挟んでいたのに!」

直哉は内心、勘が働いた。

──この家のどこかに、意図的に茶器と本を移動させた者がいる。

さりげなく使用人たちの動きを見ていると、一人の老執事・和田の動きが微妙に不自然だった。
直哉はまどかに頼み、和田を呼び出してもらう。

「和田さん、あの本や茶器を見かけませんでしたか?」

しばらくの沈黙ののち、和田は小さく頷いた。

「……すみません。実は、私がこっそりお持ちしておりました」

理由を問うと、和田は深々と頭を下げた。

「私、この家を今月で退職いたします。奥さま亡きあと、まどか様が大きくなっていく姿をそばで見守ってまいりました。思い出として、何かひとつ……記念にしたくて……」

その声音は、真摯だった。

直哉は少しだけ考えたのち、静かに言った。

「それなら、ちゃんと伝えてからお預かりすべきだったと思います。ですが……お気持ちは、わかります」

まどかがそっと後ろから声をかけた。

「ありがとう、和田さん。私も、小さいころたくさん助けてもらったの、忘れてないよ」

やがて茶器と本は戻り、事件は静かに解決した。

「君はやはり、ただの男ではないな」
貴臣がにやりと笑い、再び直哉を将棋に誘う。

「ところで泊まっていかないかね? パジャマは用意してある」
「……ご遠慮しておきます」

天然資産家と、ささやかな謎。
直哉にとって忘れられない一日となった。
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