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第49話:犯人は恋に落ちた
しおりを挟む「で、また“うち”なのね、橘さん」
書類の束を見てまどか──いや、霧島警部補は呆れ声をあげた。警視庁捜査一課・特殊事案対策第四係、通称“際物係”《キワモノがかり》。殺人や誘拐といった花形事件からは外れた、妙に人間臭くてちょっと面倒な事件ばかりを押し付けられる部署だ。
「上が押しつけてきた。相手、議員の息子だってさ。窃盗未遂で揉めてる」
橘直哉警部補は疲れたように肩をすくめ、書類を持って立ち上がる。
⸻
調査先は都心の高級タワーマンション。
容疑者は矢沢遼太。25歳。人気上昇中のジュエリーデザイナー。背丈は160に届くかどうか、小動物のように整った顔立ち。通された部屋には香水のような甘い空気が漂っていた。
「ご足労ありがとうございます……」
第一声から、矢沢は霧島まどかの姿を見て一瞬で顔を赤らめた。
「えっと……すごく、おきれいで……あの、警察の方ってこんな……モデルさんみたいな方なんですね……」
「ご協力、感謝します。状況、詳しく伺っても?」
にこりと笑ったまどかに、矢沢はさらに真っ赤になった。
⸻
聴取の結果、盗まれたとされた時計はなぜか“元の位置に戻っていた”。だが、誰が戻したのかは不明。
直哉が部屋の棚を見上げた。
「この棚、180センチくらいある。矢沢さん、脚立でも使いました?」
「いえ……高い所は……苦手で……」
「なら、あなたじゃ時計を戻せませんよね?」
まどかが自然に問いかける。矢沢はまどかに目を泳がせながら、こくこくと頷いた。
⸻
やがて事件の裏には、時計の持ち主・神山レンの交際相手による“すり替え工作”があったことが判明。矢沢に嫌がらせをしていた神山に嫉妬し、罪をなすりつけようとしたのだった。
全てが解決したあと、矢沢はこっそりまどかに近づいた。
「連絡先だけでも……せめて、お茶くらい……ダメですか?」
「ごめんなさい、私、ちょっと……そういうの慣れてないので……」
にっこりとやんわり断るまどか。
⸻
その帰り道。
直哉はコンビニに立ち寄り、チョコタルト、エクレア、プリン、チーズケーキと、甘いものばかりを抱えて出てきた。
「……橘さん、また甘いものばかり」
「甘くないとやってられないんだよ。君のせいでな」
ぽつりとつぶやいた彼に、まどかは一瞬きょとんとしたあと、くすりと笑った。
「じゃあ、私はタルト、いただきますね」
2人の身長差は10センチ以上。でも、今のまどかと直哉の間には、その差を埋めるだけの“距離感”が確かにあるように思えた。
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