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第4章:はこをひらいて
16話:ルルは「行かない」と言い残す
しおりを挟む森のあちこちで、やさしい風がふきはじめていました。
葉っぱがふるえて、光がちらちらとゆれて――
どこか、春のにおいが混じっているような朝。
ソラとモコは、小さな切り株の上に、最後のメモを置きました。
ルルのすみかの近く。
朝の光がすべてを包みこむように、そこにも落ちていました。
「……これで、ぜんぶ配ったね」
モコがほっと息をつきます。
「うん。あとは、ルルが……どうするか」
ソラの声は、ちょっとだけ小さくて、それでも優しくて。
⸻
その日の夕方、ルルがふらりとやってきました。
ふたりが切り株のそばで、静かに待っていると、
ルルはすっと前に出て、置かれていたメモを手にとります。
すこしの間、風が止まりました。
ルルは、しずかに目を通して、
そして、ぽつりと言いました。
「……ありがとう。でも、わたしは行かない」
それだけ言って、ルルはふり返ることなく、また森の奥へと歩いていきました。
⸻
ソラもモコも、追いかけなかった。
ただ、そこに立ったまま、メモが風に揺れるのを見ていました。
「……ルル、ほんとは、読みたくなかったのかも」
モコがぽつりとつぶやくと、
「ううん。“読んでもいい”って、やっと思えたんだと思うよ」
ソラはそう言って、空を見上げました。
「だいじょうぶ。ルルの“くろいはこ”も、“しろいはこ”も、
ちゃんと一緒にあるって、ぼくたちは知ってるから」
⸻
その夜、ルルは、自分の家の片隅で、小さな声でつぶやきました。
「……行かない。でも、みんなの声、きっと聞こえると思う」
ルルの“くろいはこ”のふたは、まだ固く閉じられていたけれど、
その上には、ほんの少し、あたたかな光が差し込んでいました。
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