氷の婚約指輪

桜井正宗

文字の大きさ
3 / 5

3.さようなら、お姉さま

しおりを挟む
 中はお城そのものだった。
 やはり公爵家というだけあり、全ての家具が一級品だった。こんな贅沢なお屋敷に招いていただけるなんて感激。

「素敵なお屋敷ですね」
「数百年続く格式高い家柄だからね。叔父がこだわる人だったみたい。でも、僕は料理に目覚めた。だって、料理は人を幸せにできるからね」

「素晴らしいです。わたくしも少し嗜む程度ですけど、なにかお手伝いさせていただければ……」

「いや、ライラはゆっくりと過ごすといいよ。さっそく美味しいものを作ってくるから」
「で、でも……」

「気にすることはない」


 爽やかに去っていくエヴァンス様は、腕をまくってキッチンへ向かわれた。
 わたくしは、気になって覗いてみようとしたけれど、高齢の執事に止められた。


「誠に申し訳ございません。これ以上は、立ち入り禁止となっておりますゆえ。どうか、ご理解ご容赦くださいませ」

「そ、そうでしたか。ごめんなさい」

「いえ、私の方こそお客人様にお茶のひとつも御出ししておりませんで……謝罪を申し上げたい次第です」

 ぺこぺこと執事は頭を下げた。
 こんなに謝られると困ってしまう。

「お気になさらないで」
「ありがたきお言葉です。……ん?」

 突然、不思議な音がなった。
 チャリチャリと鈴の音が響く。

「これは?」
「呼び出し鈴ですな。どうやら御来客のようです」

 わたくしも気になってついていく。
 玄関まで向かうと、そこには意外な人物が立っていた。


「あらあら、やっぱり公爵家に逃げ込んでいたのね、ライラ!」
「デ、デルタお姉さま……どうして」

「わたしはね、あのウィリアムに裏切られて……捨てられて……うあああああああ……」

 泣き崩れるお姉さま。
 でも、同情はできなかった。
 そもそも、わたくしからウィリアムを奪ったのはお姉さまだった。

 そっか、お姉さまもあの男に騙されたんだ。

 つまり、全ての元凶はガーベラ。
 ウィリアムも酷い男だけど。


「どうした、何事だ」


 異常を察知してきたエヴァンス様は、キッチンから駆け出してきたようだった。泣き崩れるお姉さまを見て驚く。


「彼女はデルタお姉さまですよ、エヴァンス様」
「なるほど……ガーベラが仕組んだ罠だったんだな」
「ええ、そういうことらしいです」


 デルタお姉さまは、わたくしにしがみつく。


「ライラ、ごめんなさい! わたし、貴女が羨ましくて……なんで妹のライラだけが幸せになるのって……思って、それで……」

「別に聞きたくありません」


 わたくしは、ばっさり切った。
 お姉さまは昔からそうだった。わたくしに“良いこと”があれば、それを奪う。自分のものにして――蔑み、罵り、暴力を振う。

 最低な姉だ。

 良い思い出なんて、何一つない。


「少しくらい話を聞いてよ!」
「そう言って、わたくしの声に耳を傾けたことが一度でもありましたか?」

「……ぐっ」

「ですよね。お姉さまって自分が大好きで自分勝手なんです。自分さえよければ、それでいいのでしょう? もういいです。エヴァンス様、行きましょう」

 背を向け、わたくしはお屋敷に戻る。
 それでもデルタお姉さまはしつこく寄ってくる。けれど、エヴァンス様が阻止してくれた。

「デルタさん、ここは聖域だ。それ以上は不法侵入となる。凍って帰ってもらうことになるが?」

「な、なによ! 氷結公爵ともてはやされて調子に乗ってるんじゃないわよ! あんたみたいな不愛想な男、どうせ過去に酷く振られたとかでしょ」


 お姉さまは、なんて人なの。
 なにも知らないくせに……。

 許せなくなって、わたくしは手を出そうとしたけど――エヴァンス様が止めた。


「君のこの美しい手を汚す必要はない」


 エヴァンス様は、手をかざしてデルタお姉さまを足元から氷漬けにしていく。


「え、え……ちょ! 嘘でしょ!! いや、いやあああああああッ!!」


 一瞬にして凍ってしまった。
 見事な氷像がそこにはあった。

 叫んでいたから、醜い表情で氷漬けに。


「あの、エヴァンス様。お姉さまはどうなるのでしょう?」
「大丈夫。自然にければ元通りさ。執事に運ばせ、騎士団に預けるよ。デルタさんには黒い噂もあるという。もしかしたら重大な情報を持っているかもしれない」

「そうなのですね。分かりました、お姉さまを……いえ、デルタをお願いします」


 そうして、デルタは運ばれていった。
 さようなら……元お姉さま。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした

ふわふわ
恋愛
婚約破棄―― それは、多くの令嬢にとって人生を揺るがす一大事件。 けれど彼女は、泣き叫ぶことも、復讐に走ることもなかった。 「……では、私は日常に戻ります」 派手なざまぁも、劇的な逆転劇もない。 彼女が選んだのは、線を引き、基準を守り、同じ判断を繰り返すこと。 王宮では改革が進み、領地では生活が整えられていく。 誰かが声高に称えられることもなく、 誰かが悪役として裁かれることもない。 それでも―― 混乱は起きず、争いは減り、 人々は「明日も今日と同じである」ことを疑わなくなっていく。 選ばない勇気。 変えない決断。 名を残さず、英雄にならない覚悟。 これは、 婚約破棄をきっかけに 静かに日常を守り続けた一人の令嬢と、 その周囲が“当たり前”を取り戻していく物語。 派手ではない。 けれど、確かに強い。 ――それでも、日常は続く。

氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。

吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

処理中です...