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3.さようなら、お姉さま
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中はお城そのものだった。
やはり公爵家というだけあり、全ての家具が一級品だった。こんな贅沢なお屋敷に招いていただけるなんて感激。
「素敵なお屋敷ですね」
「数百年続く格式高い家柄だからね。叔父がこだわる人だったみたい。でも、僕は料理に目覚めた。だって、料理は人を幸せにできるからね」
「素晴らしいです。わたくしも少し嗜む程度ですけど、なにかお手伝いさせていただければ……」
「いや、ライラはゆっくりと過ごすといいよ。さっそく美味しいものを作ってくるから」
「で、でも……」
「気にすることはない」
爽やかに去っていくエヴァンス様は、腕をまくってキッチンへ向かわれた。
わたくしは、気になって覗いてみようとしたけれど、高齢の執事に止められた。
「誠に申し訳ございません。これ以上は、立ち入り禁止となっておりますゆえ。どうか、ご理解ご容赦くださいませ」
「そ、そうでしたか。ごめんなさい」
「いえ、私の方こそお客人様にお茶のひとつも御出ししておりませんで……謝罪を申し上げたい次第です」
ぺこぺこと執事は頭を下げた。
こんなに謝られると困ってしまう。
「お気になさらないで」
「ありがたきお言葉です。……ん?」
突然、不思議な音がなった。
チャリチャリと鈴の音が響く。
「これは?」
「呼び出し鈴ですな。どうやら御来客のようです」
わたくしも気になってついていく。
玄関まで向かうと、そこには意外な人物が立っていた。
「あらあら、やっぱり公爵家に逃げ込んでいたのね、ライラ!」
「デ、デルタお姉さま……どうして」
「わたしはね、あのウィリアムに裏切られて……捨てられて……うあああああああ……」
泣き崩れるお姉さま。
でも、同情はできなかった。
そもそも、わたくしからウィリアムを奪ったのはお姉さまだった。
そっか、お姉さまもあの男に騙されたんだ。
つまり、全ての元凶はガーベラ。
ウィリアムも酷い男だけど。
「どうした、何事だ」
異常を察知してきたエヴァンス様は、キッチンから駆け出してきたようだった。泣き崩れるお姉さまを見て驚く。
「彼女はデルタお姉さまですよ、エヴァンス様」
「なるほど……ガーベラが仕組んだ罠だったんだな」
「ええ、そういうことらしいです」
デルタお姉さまは、わたくしにしがみつく。
「ライラ、ごめんなさい! わたし、貴女が羨ましくて……なんで妹のライラだけが幸せになるのって……思って、それで……」
「別に聞きたくありません」
わたくしは、ばっさり切った。
お姉さまは昔からそうだった。わたくしに“良いこと”があれば、それを奪う。自分のものにして――蔑み、罵り、暴力を振う。
最低な姉だ。
良い思い出なんて、何一つない。
「少しくらい話を聞いてよ!」
「そう言って、わたくしの声に耳を傾けたことが一度でもありましたか?」
「……ぐっ」
「ですよね。お姉さまって自分が大好きで自分勝手なんです。自分さえよければ、それでいいのでしょう? もういいです。エヴァンス様、行きましょう」
背を向け、わたくしはお屋敷に戻る。
それでもデルタお姉さまはしつこく寄ってくる。けれど、エヴァンス様が阻止してくれた。
「デルタさん、ここは聖域だ。それ以上は不法侵入となる。凍って帰ってもらうことになるが?」
「な、なによ! 氷結公爵ともてはやされて調子に乗ってるんじゃないわよ! あんたみたいな不愛想な男、どうせ過去に酷く振られたとかでしょ」
お姉さまは、なんて人なの。
なにも知らないくせに……。
許せなくなって、わたくしは手を出そうとしたけど――エヴァンス様が止めた。
「君のこの美しい手を汚す必要はない」
エヴァンス様は、手を翳してデルタお姉さまを足元から氷漬けにしていく。
「え、え……ちょ! 嘘でしょ!! いや、いやあああああああッ!!」
一瞬にして凍ってしまった。
見事な氷像がそこにはあった。
叫んでいたから、醜い表情で氷漬けに。
「あの、エヴァンス様。お姉さまはどうなるのでしょう?」
「大丈夫。自然に融ければ元通りさ。執事に運ばせ、騎士団に預けるよ。デルタさんには黒い噂もあるという。もしかしたら重大な情報を持っているかもしれない」
「そうなのですね。分かりました、お姉さまを……いえ、デルタをお願いします」
そうして、デルタは運ばれていった。
さようなら……元お姉さま。
やはり公爵家というだけあり、全ての家具が一級品だった。こんな贅沢なお屋敷に招いていただけるなんて感激。
「素敵なお屋敷ですね」
「数百年続く格式高い家柄だからね。叔父がこだわる人だったみたい。でも、僕は料理に目覚めた。だって、料理は人を幸せにできるからね」
「素晴らしいです。わたくしも少し嗜む程度ですけど、なにかお手伝いさせていただければ……」
「いや、ライラはゆっくりと過ごすといいよ。さっそく美味しいものを作ってくるから」
「で、でも……」
「気にすることはない」
爽やかに去っていくエヴァンス様は、腕をまくってキッチンへ向かわれた。
わたくしは、気になって覗いてみようとしたけれど、高齢の執事に止められた。
「誠に申し訳ございません。これ以上は、立ち入り禁止となっておりますゆえ。どうか、ご理解ご容赦くださいませ」
「そ、そうでしたか。ごめんなさい」
「いえ、私の方こそお客人様にお茶のひとつも御出ししておりませんで……謝罪を申し上げたい次第です」
ぺこぺこと執事は頭を下げた。
こんなに謝られると困ってしまう。
「お気になさらないで」
「ありがたきお言葉です。……ん?」
突然、不思議な音がなった。
チャリチャリと鈴の音が響く。
「これは?」
「呼び出し鈴ですな。どうやら御来客のようです」
わたくしも気になってついていく。
玄関まで向かうと、そこには意外な人物が立っていた。
「あらあら、やっぱり公爵家に逃げ込んでいたのね、ライラ!」
「デ、デルタお姉さま……どうして」
「わたしはね、あのウィリアムに裏切られて……捨てられて……うあああああああ……」
泣き崩れるお姉さま。
でも、同情はできなかった。
そもそも、わたくしからウィリアムを奪ったのはお姉さまだった。
そっか、お姉さまもあの男に騙されたんだ。
つまり、全ての元凶はガーベラ。
ウィリアムも酷い男だけど。
「どうした、何事だ」
異常を察知してきたエヴァンス様は、キッチンから駆け出してきたようだった。泣き崩れるお姉さまを見て驚く。
「彼女はデルタお姉さまですよ、エヴァンス様」
「なるほど……ガーベラが仕組んだ罠だったんだな」
「ええ、そういうことらしいです」
デルタお姉さまは、わたくしにしがみつく。
「ライラ、ごめんなさい! わたし、貴女が羨ましくて……なんで妹のライラだけが幸せになるのって……思って、それで……」
「別に聞きたくありません」
わたくしは、ばっさり切った。
お姉さまは昔からそうだった。わたくしに“良いこと”があれば、それを奪う。自分のものにして――蔑み、罵り、暴力を振う。
最低な姉だ。
良い思い出なんて、何一つない。
「少しくらい話を聞いてよ!」
「そう言って、わたくしの声に耳を傾けたことが一度でもありましたか?」
「……ぐっ」
「ですよね。お姉さまって自分が大好きで自分勝手なんです。自分さえよければ、それでいいのでしょう? もういいです。エヴァンス様、行きましょう」
背を向け、わたくしはお屋敷に戻る。
それでもデルタお姉さまはしつこく寄ってくる。けれど、エヴァンス様が阻止してくれた。
「デルタさん、ここは聖域だ。それ以上は不法侵入となる。凍って帰ってもらうことになるが?」
「な、なによ! 氷結公爵ともてはやされて調子に乗ってるんじゃないわよ! あんたみたいな不愛想な男、どうせ過去に酷く振られたとかでしょ」
お姉さまは、なんて人なの。
なにも知らないくせに……。
許せなくなって、わたくしは手を出そうとしたけど――エヴァンス様が止めた。
「君のこの美しい手を汚す必要はない」
エヴァンス様は、手を翳してデルタお姉さまを足元から氷漬けにしていく。
「え、え……ちょ! 嘘でしょ!! いや、いやあああああああッ!!」
一瞬にして凍ってしまった。
見事な氷像がそこにはあった。
叫んでいたから、醜い表情で氷漬けに。
「あの、エヴァンス様。お姉さまはどうなるのでしょう?」
「大丈夫。自然に融ければ元通りさ。執事に運ばせ、騎士団に預けるよ。デルタさんには黒い噂もあるという。もしかしたら重大な情報を持っているかもしれない」
「そうなのですね。分かりました、お姉さまを……いえ、デルタをお願いします」
そうして、デルタは運ばれていった。
さようなら……元お姉さま。
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