4 / 64
第4話 聖女との約束
しおりを挟む
「――執事の服を作って欲しい、ですか?」
赤い瞳を瞬きしてメイド騎士ラティヌスは、キョトンとした顔で俺を見た。いきなりの頼みに、何事かと困惑してるようだ。
「頼む! キミの『裁縫スキル』はスゴイって評判だよ。騎士達の噂になっているし。だからお願い……給料は貰えてないし、あげられるものはないけど……でも、いつかお礼はする。必ず」
「仕方ないですね。レイジさんには一度、助けて戴いておりますし、いいですよ」
なんと、快く引き受けてくれた。
ちなみに、彼女はメイドも兼業している為、騎士たちの身の回りのお世話もしていた。そんな三日前、彼女、ラティヌスは大量の洗濯物を押し付けられていた。
雑兵であるからこそ、俺は手伝いやすい環境にあった。だから、手伝った。その因果がこうして実を結ぶとはな。
「どのくらい掛かりそう?」
「ん~、そうですね。採寸は既に完了しましたので、一日あれば終わるかと」
「え、いつの間に採寸を……」
「わたくし、『採寸スキル』を持っていますので、己の眼で見れば相手のサイズが分かるんです。あとは作るだけですね。では、少々お待ちを」
一礼して、ラティヌスは去った。
その間、俺は出来る事をしていく。
◆
ただ決闘の日を待つだけではダメだ。
自分の肉体を鍛えておこうと、俺は誰もいない庭に出て、ひとりで腕立てや、木の棒を剣に見立てて素振りをしまくった。
「経験値が製造できるかもって浮かれていたら負ける。レベルばかりに頼っちゃダメだ……ひたすら鍛えて鍛えて、鍛えまくる……。強くなって見返してやるんだ」
自発的に修行をしていると、足音がして「おうおう、やってるな少年」と背後から声がした。……この声は、誰だ?
「えっと……」
顔を上げて、俺はその人を見た。
そこには気怠そうな顔をした20代と思われる男がいた。なんだろう、この人。金の髪はボサボサだし、剣は――腰に携えていた。つまり、騎士か。
「すまんね、オレはマーカスだ。マーカス・キャメロンという騎士さ。お前さんが雑兵になった頃から噂は聞いているよ。カイルのヤツと決闘するんだって? それで鍛錬を?」
「そんな所です。勝つためには修行しかないですからね」
「なぜそんな頑張る必要がある」
「決闘で勝てば色んな道が開けそうな気がしているんですよ。ここで退いてしまったら、俺は……一生後悔する気がしているんです。今しかない……今が人生最大のチャンスなんです」
うんうんと頷くマーカスとかいう騎士。頭をボリボリ掻いて、腕を組むと遠くを見つめた。
「そうかい。じゃあ、これは独り言なんだが……カイルはあれでも『Lv.25』の『クレイモア』の使い手だ。侮ると首が飛ぶだろうな。そこでだ、ヤツはパワー重視故にスピードは大した事がない。よって、回避力さえあれば、とりあえず死なずには済む。いいか、回避力だぞ」
ま、まさか……俺にアドバイス?
「あの、どうして……」
「なぁに、ただの気まぐれっつーか。ラティヌスを良くしてくれて、ありがとな」
そう言ってマーカスはくるっと背を向けて、足早に去った。……え、ラティヌスの兄、かな。金髪とか雰囲気は似ていた。うん、今度聞いてみよう。
――それからも俺は、ひたすら肉体と精神を鍛え上げていった。
手も足も肉刺だらけ。
血が滲んでいた。
さすがに病室へ向かって、ルシアに治療をお願いしに行く。
「――こんにちは」
「あら、レイジさん。……あ、酷いケガ! 血塗れじゃありませんか!」
「今日、一日中トレーニングをしていてね、気づいたらこうなってた」
「こうなっていたって……無茶しすぎです! さすがのわたしも怒りますよ。もっと自分を大切にしなきゃダメです。めっ、です」
怒られたっぽいけど、ぜんぜん迫力がなかった。むしろ、ご褒美的な? それから、手を握られ、ヒールの回復魔法を受けた。傷が癒えていく。
「ルシアさん、ありがとう」
「ルシアでいいです」
「え」
「いいですね、これからわたしの事はルシアと。約束です」
指切りを迫られ、俺はドキドキしながらも応じた。……わぁ、女の子と指切りなんて……人生で初めてだ。
「よろしい。無茶はいけませんからね、約束ですよ」
「分かった。その、また来ていいかな」
「病室担当の身としては、出来れば来て欲しくありませんが……でも、構いませんよ。わたしは、貴方を応援しています。頑張って、レイジさん」
「診てくれてありがとう。また来る」
「はい。お待ちしております」
ルシアは、天使のような微笑みで見送りしてくれた。人生で初めて向けられる燦爛たる表情に俺の心は癒されて、もっと頑張ろうって気になれた。
よーし、深夜も特訓だ。
赤い瞳を瞬きしてメイド騎士ラティヌスは、キョトンとした顔で俺を見た。いきなりの頼みに、何事かと困惑してるようだ。
「頼む! キミの『裁縫スキル』はスゴイって評判だよ。騎士達の噂になっているし。だからお願い……給料は貰えてないし、あげられるものはないけど……でも、いつかお礼はする。必ず」
「仕方ないですね。レイジさんには一度、助けて戴いておりますし、いいですよ」
なんと、快く引き受けてくれた。
ちなみに、彼女はメイドも兼業している為、騎士たちの身の回りのお世話もしていた。そんな三日前、彼女、ラティヌスは大量の洗濯物を押し付けられていた。
雑兵であるからこそ、俺は手伝いやすい環境にあった。だから、手伝った。その因果がこうして実を結ぶとはな。
「どのくらい掛かりそう?」
「ん~、そうですね。採寸は既に完了しましたので、一日あれば終わるかと」
「え、いつの間に採寸を……」
「わたくし、『採寸スキル』を持っていますので、己の眼で見れば相手のサイズが分かるんです。あとは作るだけですね。では、少々お待ちを」
一礼して、ラティヌスは去った。
その間、俺は出来る事をしていく。
◆
ただ決闘の日を待つだけではダメだ。
自分の肉体を鍛えておこうと、俺は誰もいない庭に出て、ひとりで腕立てや、木の棒を剣に見立てて素振りをしまくった。
「経験値が製造できるかもって浮かれていたら負ける。レベルばかりに頼っちゃダメだ……ひたすら鍛えて鍛えて、鍛えまくる……。強くなって見返してやるんだ」
自発的に修行をしていると、足音がして「おうおう、やってるな少年」と背後から声がした。……この声は、誰だ?
「えっと……」
顔を上げて、俺はその人を見た。
そこには気怠そうな顔をした20代と思われる男がいた。なんだろう、この人。金の髪はボサボサだし、剣は――腰に携えていた。つまり、騎士か。
「すまんね、オレはマーカスだ。マーカス・キャメロンという騎士さ。お前さんが雑兵になった頃から噂は聞いているよ。カイルのヤツと決闘するんだって? それで鍛錬を?」
「そんな所です。勝つためには修行しかないですからね」
「なぜそんな頑張る必要がある」
「決闘で勝てば色んな道が開けそうな気がしているんですよ。ここで退いてしまったら、俺は……一生後悔する気がしているんです。今しかない……今が人生最大のチャンスなんです」
うんうんと頷くマーカスとかいう騎士。頭をボリボリ掻いて、腕を組むと遠くを見つめた。
「そうかい。じゃあ、これは独り言なんだが……カイルはあれでも『Lv.25』の『クレイモア』の使い手だ。侮ると首が飛ぶだろうな。そこでだ、ヤツはパワー重視故にスピードは大した事がない。よって、回避力さえあれば、とりあえず死なずには済む。いいか、回避力だぞ」
ま、まさか……俺にアドバイス?
「あの、どうして……」
「なぁに、ただの気まぐれっつーか。ラティヌスを良くしてくれて、ありがとな」
そう言ってマーカスはくるっと背を向けて、足早に去った。……え、ラティヌスの兄、かな。金髪とか雰囲気は似ていた。うん、今度聞いてみよう。
――それからも俺は、ひたすら肉体と精神を鍛え上げていった。
手も足も肉刺だらけ。
血が滲んでいた。
さすがに病室へ向かって、ルシアに治療をお願いしに行く。
「――こんにちは」
「あら、レイジさん。……あ、酷いケガ! 血塗れじゃありませんか!」
「今日、一日中トレーニングをしていてね、気づいたらこうなってた」
「こうなっていたって……無茶しすぎです! さすがのわたしも怒りますよ。もっと自分を大切にしなきゃダメです。めっ、です」
怒られたっぽいけど、ぜんぜん迫力がなかった。むしろ、ご褒美的な? それから、手を握られ、ヒールの回復魔法を受けた。傷が癒えていく。
「ルシアさん、ありがとう」
「ルシアでいいです」
「え」
「いいですね、これからわたしの事はルシアと。約束です」
指切りを迫られ、俺はドキドキしながらも応じた。……わぁ、女の子と指切りなんて……人生で初めてだ。
「よろしい。無茶はいけませんからね、約束ですよ」
「分かった。その、また来ていいかな」
「病室担当の身としては、出来れば来て欲しくありませんが……でも、構いませんよ。わたしは、貴方を応援しています。頑張って、レイジさん」
「診てくれてありがとう。また来る」
「はい。お待ちしております」
ルシアは、天使のような微笑みで見送りしてくれた。人生で初めて向けられる燦爛たる表情に俺の心は癒されて、もっと頑張ろうって気になれた。
よーし、深夜も特訓だ。
39
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。
ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。
だから、ただ見せつけられても困るだけだった。
何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。
1~2話は何時もの使いまわし。
亀更新になるかも知れません。
他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる