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第152話 わたくしを奪って下さい

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 宮廷教会内を襲う赤黒い魔力の波。
 俺が動く前に、ゼファがそれをさえぎるように――



『グロリアスサンクチュアリ……!』



 最強の聖域スキルを展開した。
 あらゆる物理、魔法攻撃を無力化するそのスキルを。これで宮廷教会内にいる一般人を巻き込まずに済む。さすが聖女様だ。


「馬鹿なあああッ!! 聖域スキルだと!!」


 形勢逆転。
 さあ――反撃開始だぜ。


 王子ヨハンの魂は、フォースが奪還済み。あとは大魔女オルタ・ハークネスをぶっ倒すだけ。ヤツは魔王軍の大幹部。人々の魂を喰らう魔女なのだ。


 俺は一歩ずつ前へ進んでいく。


「鈍い、鈍いぞクソガキ! そんな歩行でこの私、大魔女オルタ・ハークネスを倒そうなど! 今まで喰った魂の分、魔力は増大している! 死ねえええ――ッ!!」


 ハークネスは浮遊し、手を向けて来る。



『フェイタルスペル:ディセント』



 影がポンポン出ては、意志を持って現れた。そうか、今まで喰った魂を利用した幻影スキル。魂を影のバケモノに変える――変化オルタの応用か。


「ヒッヒッヒ……、勇者よ。このモンスターを相手に出来るかな。しかも、元は人間の魂……そんな罪もない者たちを甚振いたぶれるかな?」

「そうだな。俺には無理だ。でもな、ゼファ!」



『グロリアスレクイエム』



 死者の魂を沈める最強のスキルか。
 初めて見たぜ。

 そのスキルのおかげで、死者の魂は安らかに召天された。


「……馬鹿な。馬鹿な! 全ての魂が!! 私が散々喰った魂が……全部、浄化されちまったっていうのかい……」

「ああ、彼女は敬虔けいけんな祈りを持つ聖女だ。これくらいワケねぇって事さ。多分、お前との相性は最悪だぞ」

「クソが、クソが、クソがぁぁぁッ!!」

 浮遊しながらも青筋を立てるハークネスは、更にスキルを飛ばしてきた。


『フェイタルスペル:キドナップ』


 ――これか。
 これが噂の『人さらい』のスキル。


 受ければ、どうやら致命的な呪縛スキルに囚われるようだ。抜け出せないらしい。


「アヒャヒャヒャ! 馬鹿だねぇ、勇者! まさか、フェイタルスペル:キドナップをまともに受けるとはねえ! その小さな極魔法使いアルティメットウィザードを守るためかい? いいかい、その呪縛は勇者であろうと抜け出せないよ」


「それはどうかな」


「なんだって!!」


 ――感じる、ソウルフォースを。

 これは背後にいるフォースの力が流れて来ているのだ。俺に対し、呪縛を解こうとしている。いや――もう解けた。


「……そ、そんな! 私の呪縛を……やはり、極魔法使いアルティメットウィザードを潰すべきだね!!」


「――お前なんて言った」


「そこのチビさ。極魔法使いアルティメットウィザードをぶっ潰して――」


「フォース、テレポートだ。俺とヤツを!!」


『テレポート!!』


 その瞬間、俺と大魔女オルタ・ハークネスは、教会よりも上の空に出た。そして、俺は無感情のまま掌を向けた。



『イベントホライゾン――――――!!!!!!』



「――――え」



 爆発的な究極の闇が向かって行く――。
 空よりも大きく、深い闇。

 果てしない暗黒は魔女に鉄槌を下し、執行した。



「ギャアアアアアアァァァァァァァァ――――!!!!!」



 囁く闇は、オルタ・ハークネスをかじり続け、灰燼かいじんと化す。残滓はおろか無と帰した。――もう、なにもない・・・・・



 更なるテレポートを受け、俺は教会内へ戻った。


「……ふぅ、大魔女オルタ・ハークネスは打倒した」


 俺がそう宣言すると――



「「「「「おおおおおおおおッ!!」」」」」


「すげぇ魔女を倒した!」「勇者様だ、預言の勇者様だ!!」「あのお方こそ伝説の……」「魔王を倒すという男か」「マジかよ」「幹部を既に三人だか倒しているんだろ!?」「わあ、本物だあ」「守ってくれたんだな」「あの占い師が幹部だったんだ」「少し前から怪しいとは思っていたんだよな」


 教会内がざわつく。


 その騒音の中で――


 ゼファは、王子に改めてこう言っていた。


「ごめんなさい。わたくしは、ユメ様と共に向かいます」
「な……どうして! 僕は君を愛している! あの魔女の呪いとか関係ない! だから……」


 視線を逸らして、俺の方を向くゼファ。


 そして、こう言ったんだ。



「わたくしを奪って下さい」



 俺は頷いて、フォースに指示した。



「フォース、テレポートだ。ゼファを奪っていく」
「ユメの言うことは絶対。分かった」


 その言葉に王子は、


「この人さらいが!! 勇者! お前は人の花嫁を奪う気か!!」


婚約破棄・・・・だろ」


「うああああああああああああぁぁぁぁ……!!!」


 発狂し、向かって来る王子。
 俺は即座にゼファを奪って――抱きしめた。


「ユメ様……」
「ゼファ、行こう」
「……はい。わたくしは、貴方様のモノです」
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