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40. 痺れて溶かされて *
しおりを挟む——Strip。
脳に響くコマンドに、綾春はおずおずと服の裾を摘んだ。
今日、綾春が着ているのは、オフホワイトのモックネックTシャツの上に、アースカラーの襟付きシャツ。下は柔らかめの素材でできた、きれいめシルエットの黒いジョガーパンツを履いている。この上下に外では濃い灰色のステンカラーコートを羽織っていたが、それはこの店に来たときに脱いでクロークに預けていた。
「服を、脱ぐ……」
蓮哉とのプレイで服を脱いだことはない。なのでもちろん、裸を見せたことはない。彼と出会ったときは夏真っ盛りで薄着の季節だったけれど、服を脱ぐように命じられたことはなかった。
リボンや縄、そのほか諸々の玩具で体を縛られるプレイもしたけれど、すべて服の上からか、服から出ている手や首筋への拘束で、Tシャツ一枚脱ぐことはなかった。
でも、今日は深いプレイをしようとしているから……彼のコマンドは露骨だ。いや、脱ぐのは上だけど言うのだから、まだ深いプレイではないのかもしれない。上半身を男同士で晒すのなんて、大したことではない。
そんなことを考えていると、蓮哉が言葉をかける。
「下はそのままで、上だけで構わないから。本当に嫌ならセーフワードを。そうじゃないのに脱げないのなら、お仕置きだな」
お仕置きと言われて、綾春は躊躇いながらもシャツのボタンに手をかけた。
プチプチと、一つずつボタンを外すたびに、体の熱が高まっていく。
ボタンを外す時間が、ひどくもどかしかった。
それでもなんとかボタンを全て外してシャツを脱いで、重ね着していたTシャツも裾をぐっと引き上げて一気に脱ぎ捨てる。
露わになった肌を、蓮哉の視線が上から下へと撫でていった。
「ああ、いいね。想像していたとおり……いや、それ以上にきれいな体だ……Good boy。でも綾春、ほんのり肌が赤いのはなんで?」
つぅーっと、蓮哉の指先が鎖骨の間から胸の中央を通り、臍の上まで伝う。これまでなかった、性的な接触を彷彿とさせるそれに背中が自然と丸まった。
「Say。それに姿勢は崩しちゃダメだ。ちゃんとKneelを続けて」
「っ、蓮哉さんに、見られてる、から……恥ずかしくて」
言われたとおりに、綾春は背筋を伸ばしてから答えを紡いだ。
自分じゃわからないけれど、体は火照っているから肌が赤く染まっているのかもしれない。体が火照るのは、蓮哉にじっと見られているからだ。
見られているから、恥ずかしい。男同士、上半身の裸を見られるのなんて何てことはないはずなのに、体が火照って仕方がない。
「恥ずかしい? 嬉しいの間違いじゃなくて?」
「ぁ、う……」
くすくすと笑う蓮哉に、いっそう肌が赤くなった気がした。
「次から、嘘は言わないこと。わかった?」
そう命じられて、綾春はこくりと頷いた。
恥ずかしいのも嘘ではなかったはずだけど、たしかに蓮哉の言うとおりだ。恥ずかしいよりも、蓮哉に見られていることが嬉しくて体の熱が高まっていた。僅かに触れた指先から、火花が出るんじゃないかというほど、小さな触れ合いは綾春のSub欲を引き出していく。
「両手を出して」
「ん」
綾春は体の側面に降ろしていた両腕を持ち上げて、両手首をつけながら蓮哉へと差し出した。犯人が手錠をかけられるときのような格好だ。
その様子を見ていた蓮哉は、自分の腰からベルトを外して、綾春の両手首へそれを回した。手首を二重に回したあと、尾錠に剣先を通して固定する。手首で固定された留め具の先からベルトが伸びて、その端を蓮哉がぐっと引っ張った。
「あっ」
引っ張られた拍子に体が傾ぎそうになる。
ちゃんとKneelを続けなければお仕置きされる……。それはそれで気になるけれど、蓮哉の言いつけを守りたくて、綾春は腹と背中に力を入れて、なんとか前のめりになないように耐えてみせた。
「ふふ……ちゃんとお座りできてる。Good」
ぐいっとベルトを片手で引っ張ったまま、蓮哉はもう片方の手で綾春を頬を撫でた。その手のひらに自ら顔を擦り寄せる。もっと褒めて、撫でてほしい。たくさん命じて……躾けてほしい。
「蓮哉さん、もっと……グレアとコマンド、ください……っ」
「っはは、いいよ、たくさんあげる。Look。それから、指、Lick」
伸ばされた手が頬から離れて、目の前に差し出された。
彼が作る作品のように造形の美しい手を見て、それから蓮哉の双眸を見つめる。熱っぽい黒曜石に射止められながら、綾春は舌を伸ばした。
「ん……ふぅ……」
造形の綺麗な指先に舌を這わせる。
今日の彼の手のひらは、じんわりと熱っぽい。自分と同じように蓮哉も興奮していることがわかって、綾春は夢中になって指を舐め、手のひらに舌を伸ばした。
ぴちゃ、ぴちゃと、濡れる音が響いて、綾春の耳をも犯していった。
「もっと食んで。好きなように舐めしゃぶって」
「は……んん、ぅっ……」
見下ろす双眸に浮かされながら、綾春は言われたとおりに蓮哉の指を舐め続ける。舌先で舐めるだけでは満たされなくて、長い指をはむっと口の中へと招き入れた。
指の根元まで咥え込むと、男の指が喉の奥を弄ろうと動き出し、それが苦しくて堪らない。
「奥、気持ちいいんだ?」
「ん、く……う、ぅぅ……」
緩やかに首を縦に振りながらも、綾春は男の指を舐めしゃぶるのをやめない。
すると、蓮哉の指が口の中で器用に動いて、綾春の舌を捕まえた。ぐにぐにと感触を楽しむように摘まれると、Sub欲が擽られるのと同時に、性的な快感が体を駆け抜けた。
舌を摘まれて、上顎を指の腹で撫でられて、思わずあえかな声が上がる。
「口、開けて」
言葉のままに従うと、舌を引き出された。べちゃべちゃに濡れた男の指と自分の舌の間に唾液の糸が引く。
「ぁ……は、ぁ……」
「綾春の舌って、真っ赤で可愛いよな」
ぎゅっと強く舌を摘まれて。
引っ張り出される苦しさに、僅かに涙が滲んだ。離すことを許されない視線が、ずっと絡んでいる。逃すまいという強く煌めく双眸が綾春を彼へと縛りつけていた。
——苦しくて、苦しくて。気持ちいい。
「Good boy。苦しいの、気持ちよかったんだ?」
「ん……」
離される指先が惜しくて、自然と舌が伸びた。もっと苦しくしてほしいのに。それでも離れてしまった手が名残り惜しくて、ベルトで纏められた手がぎしぎしと動いた。
「あとで吸ってあげるから、今はまだStayだ。Lookもまだ続けて」
コマンドで縛られて、綾春の体はビクリと固まった。
言われた言葉の意味にぞくぞくしながらも、なんとか姿勢を維持した。視線は蓮哉から離さず、縛られ上げられている両手は体の前に出したまま。上半身が傾かないように腹と背中に力を入れるが、頭はふわふわとしていた。
「素直でいいね。綾春は、こっちのほうも素直かな……」
身を屈めた蓮哉が耳元で囁く。『こっち』と言いながら触れた先は、綾春の胸元で薄く色づく突起だった。
くにっ、と指先で押された感触に「ひぁ……」と声が漏れる。
「ふふっ、やっぱり素直だな」
「ぁ、ぅ……」
相変わらず耳元で響く低音が、綾春の脳を揺さぶった。
今までのプレイでも色気を帯びた声を聞いたことはあったけど、それよりも艶感のあるしっとりとした声色に腹の奥が熱くなる。
指の腹で押し潰され、転がされるように胸の突起を弄ばれながら、耳元で「可愛い」やら「気持ちいいんだ?」やら囁かれて、体の芯がじんわりと溶かされていく気がした。
「綾春は、酷くされるのも好きなんだんだっけ?」
「それ、は…………い、ッ⁉︎」
質問に答えぬうちに、ぎゅっと乳首をつねられて。
先ほどまでの柔らかな刺激ではない、小さな痛みを伴うそれに体が跳ねる。けれど、痛みとともに頭の中でチカチカと光が明滅した。
「もっと痛いのが好き?」
「ァ、ンぅっ……耳、だめ……っ」
「ダメじゃないくせに。乳首、勃たせてるのは一体どこの誰だろうな」
耳朶を食まれながら囁かれると、全身が痺れた。
ぴちゃりと、わざと音を立てながら耳を舐め、歯を突き立てられると、羞恥と痛みで意識が飛びそうになる。
性的な刺激と、Subとしての本能への刺激——二つを同時に満たそうとしてくる蓮哉に綾春は翻弄され始めていた。
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