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04. 僕、魔術師なんです
「これでよし、と。……それじゃきみの手当てだな。どこが痛む? やっぱり左側? あー、可愛い顔も台無し。あいつら、あとでボコボコにしよう」
「あ。えと、痛いのは左手とか脚とか……ですかね」
後半は不穏な言葉が聞こえたような気がするけれど、とりあえず素直に体の左側が痛いと言っておく。
「立てる?」
「ええっと……あ、いたたた……」
彼に手を借りて立ち上がろうとしたけれど、左半身が思うように動かないし、ずきずきと痛い。骨は折れていないようだけど、打撲はしているみたいだった。
すると彼は痛ましげな表情を浮かべて「それじゃ、おぶっていくよ」と言うので、僕は慌てて言葉を続けた。
「いえっ! 僕、魔術師なんです。多少の治癒魔術が使えるので、このくらいならこの場で治せます。お手数おかけするんですが、あそこに落ちている杖を持ってきてくれませんか?」
「杖? んー、ああ、あれか」
僕たちがいる場所から少し遠くに転がっている杖を指さすと、彼は嫌がりもせずに取ってきてくれた。
クルミの木でできた愛用の杖は、父から贈られた大切なもの。だから失いたくなかったんだよね。
(親切な人でよかったぁ……)
杖を受け取って、僕は気持ちを集中させた。体の中の魔力を練り上げるようにして杖に流し込んでいくと、ぱぁっと水色の光が杖の先端に宿る。それをくるくるくるっと宙で円を描くようにして、さらに治癒のイメージを流し込めば、水色の光は僕の体を覆って、きらきらと溶けていった。
ちなみに僕のお店『みずいろ魔術堂』の名前の由来は、お察しのとおり僕の魔力の色が水色だから。安直だけど、まあまあ気に入ってる。
「おおー、すごい」
「あはは……これでもう大丈夫です」
ご心配おかけしました、と僕はその場で立ちあがった。
僕は治癒魔術はそこそこ得意だ。そのほかに、水や氷を使った魔術とか、補助魔術や探知魔術と呼ばれるようなものも得意。治癒魔術には限界はあるけれど、怪我やちょっとした病くらいなら治すことができる。欠損した部分を再生させたり、重い病や原因不明の病を治すことはできないし、死者を蘇らせることもできないけれど。
それに治すものの重さによって、消費する魔力は比例する。だから、何でもかんでもホイホイと治せもしない。
だけど、こういう打撲くらいなら、まあ簡単。魔術のおかげでもうすっかり痛みはない。顔や手足についてた擦り傷切り傷も、きれいさっぱりだ。
「助けてくれて、ありがとうございます。僕はアンデシュです。あなたは?」
改めてお礼を言いながら、僕は自己紹介をした。まず自分から名乗るのは常識だし、助けてくれた相手だから悪い人とは思えなかった。……どこの誰かもわからないのに、ちょっと信じすぎかもだけど。
でも親切にしてくれたんだから、ちゃんとお礼をしたい。無礼なことはしたくない。
「俺はルカス。冒険者なんだ」
「えっ、あのルカス? A級冒険者の?」
ルカスという名前には聞き覚えがあった。
この周辺では評判の冒険者で、腕が立って、たいそうな美形だともっぱらの評判だったから。
冒険者ってのは、冒険者ギルドって場所に登録して、いろいろな依頼を請け負うことを生業にしている人のことをさす。失せ物探しや薬草や魔石なんかの採取や採掘、護衛に魔物退治。そういう危険と隣り合わせの仕事をこなして、依頼主から対価を貰う、すごい人たちのことだ。
で、A級っていうのが、その冒険者の実力を等級付けしたもの。全部で七段階あって、Sが一番上で、そのあとはAからFまで。ちなみにS級っていうのは国全体で二十人くらいしかいないらしいから、ここらへんだとA級の冒険者が一番強い。ルカスと名乗った彼は、そのA級の冒険者なのだ。
「まさかルカス……様に助けてもらえるなんて! 本当にありがとうございました!」
さっきはつい呼び捨てにしちゃったけど、たしか年齢も僕の三つ上だし、A級の冒険者。しがない魔術堂を営む僕からしたら殿上人だ。ちゃんと名前に敬称をつけて呼んだら「『様』は余計だ。ルカスでいいよ」なんて気さくに笑いかけてくれた。……さすがA級! 顔だけじゃなくて性格もいい!
「俺もアンデシュって呼ぶけど、いいかな?」
「は、はい。それはもちろん」
「ありがとう。アンデシュが無事でよかったよ。人攫いらしき人物を見たって聞いたから、森を警戒してたんだ。攫われる前に食い止められて、本当によかった」
ルカスさんが現れたのは、偶然であり必然だったみたい。なんにせよ、闇市だかなんだかに連れ去られる前に助けてもらえて、本当に運がよかった。闇市って、響きだけでもヤバそうだし。
「人攫いは組織的な犯行らしくてさ。まだ他の仲間が潜んでいるかもしれないから、家まで送るよ」
「え、でもルカス……さん、に送ってもらうなんて、悪いです」
「いいのいいの。俺のほかにも何人か冒険者が来てるし、警邏隊も来てるから」
さすがに「ルカス」と呼び捨てにするのは気が引けたので、さん付けで呼べば、ルカスさんはにっこりと笑いながら家まで送ってくれると申し出てくれた。
まだ周りに人攫いの仲間がいるかもって話を聞いて、どっと冷や汗が出る。思っていた以上に、僕はかなり危ない橋を渡ろうとしていたみたいだ。渡ろうとしていたというか、実際渡っちゃってたから攫われそうになったんだけど。
そういうことであればと、僕はお言葉に甘えて、ルカスさんに家まで送ってもらうことにした。
◇◇◇
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